はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

カミさんあっての

2022-07-28 16:16:50 | はがき随筆
 朝からシトシト雨が降っている。庭のイエローのスカシユリが、雨にぬれてしっとりとした緑の中でひと際さえてみえた。カメラに収めたいが雨……。だが天は我に味方してくれた。午後になったらやんだのだ。
 外に出るために、カミさんに靴、杖、椅子を持ってきてもらい、何とか撮影ができた。
 カミさんは「1000㍉くらいの望遠レンズがあれば、縁側からでも撮れるのだけれどね」という私のつぶやきには耳を貸さず「ついでに私も撮って」とVサイン。いまや我が家は、カミさんの思い通りに動かざるを得ないようになっている。
 鹿児島県西之表市 武田静瞭(85) 2022.7.2 毎日新聞鹿児島版掲載

随筆を読んで

2022-07-28 16:09:38 | はがき随筆
 先日のはがき随筆で、旦那さんの髪の調髪をされたとかで苦心と楽しさを増す気持ちがよく書いてあり感動した。そして、読むうちに頭をよぎるものがあった。
 妻が不治の病で去り13年になるのだが、定年後2年して妻が突然ある日「髪を染めて」と言い出した。それから足掛け10年間染め続けた。頼まれた当初はぎこちなかったと回想する。
 それが、いつしか染めてよ、と言われそうな雰囲気を白髪の目立ち具合で感じるようになった。
 髪の毛を小さく束ね染めたあの約1時間の雑談が恋しい。
 宮崎県延岡市 前田隆男(84) 2022.7.2 毎日新聞鹿児島版掲載
 

マスク

2022-07-28 16:01:12 | はがき随筆
 熊本城の天守閣前、関西からの女子高校生グループに撮影を依頼される。スマホの撮影ボタンを押す前に「マスクを外して」と声を掛けたが、首を振り、ピースサインだけ。見学行動中は外さないように注意されているらしい。解放された屋外、近づいて大声でしゃべるわけでもない。ほんの30秒か、せいぜい1分もあれば済むのに。学校側の指示をきちんと守る生徒に感心しながら3コマ撮影してあげた。その一方で、状況に応じてマスクをちょっと外すくらいはOKといった臨機応変の指示があってもいいのでは? なんて考えもチラリと浮かんだ。 
 熊本市東区 中村弘之(86) 2022.7.2 毎日新聞鹿児島版掲載

あら、不思議

2022-07-28 15:50:29 | はがき随筆
 40年前、家を新築した時、一ッ葉を庭の生垣に植え、今では自慢の生垣になった。二.三年前から原色の黄色や青、黒のすばやく飛ぶガをみるようになった。それが害虫とはしらず、まして生垣の木に新芽を食べる卵を産み付けているとは。
 外来種の「キオビエダシャク」だそうだ。友が「早朝、まだ世間が目覚める前、木の下で柏手を打つと、糸を引いた幼虫が落ちてくるよ」と教えてくれた。不思議と尺取虫みたいな幼虫が糸を引いて落ちてきた。どうも音に反応するみたいだ。
 世間が騒がしくなると反応しない。早起きが楽しくなった。
 鹿児島県阿久根市 的場豊子(76) 2022.7.2 毎日新聞鹿児島版掲載

幸せな朝

2022-07-28 15:42:14 | はがき随筆
 今朝も朝ご飯がとてもおいしい。ごはんに具だくさんのみそ汁、自家製の漬物、納豆で、時にはお代わりをしている私。
 9年前に大病をしたが、今、とても元気になった。家の後ろに広い畑があり、毎日畑仕事に精を出している。これが私を元気にしてくれているのだろうか。夫が高齢で私が一人でやっている。種まきから管理等々、夫が「無理をしないで」と声をかける。昔は一緒にしていたのだが。今日もまた、畑に出て草むしりをする。私はこの草むしりが大好きで、少しも苦にならない。明日の朝のごはんもきっとおいしいよ。
 宮崎県三股町 北畑チサミ(80) 2022.7.2 毎日新聞鹿児島版掲載

飛ぶ鳥

2022-07-28 15:34:38 | はがき随筆
 カラスが低空飛行し、小鳥は忙しない。鴨類は我関せずと群のペースで飛び立った。鳥ごとに独特の印象があって朝からそれを眺める。飛来の多い日も少ない日もあり、珍鳥の訪れる予感のある日は案外当たる。ゆっくりと姿をさらしてくれるうれしい日もあれば、夢幻のように飛び去り物足りなく思う日もある。飛べるのはいいなぁ。私は鳥の背に乗って飛翔する様を想像してみた。広大な空、果てのない視界。飛んでいる小さな点からの想像は、怖いほど無限大。阿蘇の高岳に登った時、漠たるものにのみ込まれるように感じた畏怖の感覚を思い出す。
 熊本県阿蘇市 北窓和代(67) 2022.7.1 毎日新聞鹿児島版掲載

こんな所で

2022-07-28 15:27:21 | はがき随筆
 東京スカイツリーの下の商店街は私たち夫婦のような観光客だけでなく、地元の人も利用していた。下町の雰囲気に誘われて奥のスーパーものぞいた。
 「これ以上荷物は増やすなよ」との夫の言葉を尻目に、つくだ煮など買ってしまい、荷物が増えた。レシートで抽選ができると知り、くじを引くと「おめでとうございます」と五つの箱ティッシュを渡された。お礼を言うも内心途方に暮れていた。夫はもう大爆笑。すれ違う人に押し付けたいが勇気がない。
 五つの箱ティッシュは、エコバッグに入れられ飛行機に乗った。
 宮崎県日南市 小野小百合(64) 2022.7.1 毎日新聞鹿児島版掲載


猫のみいこ

2022-07-28 15:14:03 | はがき随筆
 長年飼っていた猫のみいこが1年ほど前から外へ出なくなり、一日中、家で過ごすようになった。私が仕事から帰ってくると玄関で待っていて、「みいちゃん」と呼ぶと、うれしそうに「ニャー」と返事してくれた。
 やがて足が弱り、トイレもうまくできなくなった。病院にも行ったが、一時しのぎにしかならなかった。亡くなる2日前、私と妻を見つめ、両目が涙目になっていた。時々、目やにが出ることがあったが、あれは絶対にお別れを感じて泣いていたのだと思っている。
 私たちに幸せを運んでくれたみいちゃん、ありがとう。
 熊本市中央区 北村孝博(71) 2022.6.30 毎日新聞鹿児島版掲載

とうがらし

2022-07-28 15:05:24 | はがき随筆
 漬物の大好きな私、大根半分を短冊に小切りして塩をなじませ、軽く絞って、ラッキョウの漬け汁に半日浸しておくと、思い通りハリハリ漬けができた。漬け汁の甘さが薄まっておいしい。そして1週間ほど毎食、四、五個ずつ添えてパリポリ楽しんだ。総菜を届けに来てくれた娘も珍しく味見してくれ「おいしいね」。
 そんなある日、夕食を済ませてから目がかすみ始めた。一日の食べ物を省みると、ラッキョウ酢にトウガラシの小口切りが二、三個浮いていた。これにマケてしまったのかしら。4時間ぐらいでかすみは消えた。
 鹿児島市 東郷久子(87) 2022.6.29 毎日新聞鹿児島版掲載

鼻のちから

2022-07-28 14:58:06 | はがき随筆
 娘は6月に結婚したので、6月の花嫁。間もなくその日が来る。世の中は、不安で悲しい事の多い日々だが、お祝いに心が躍るような日にしてやろうと、花屋にアレンジフラワーを作ってもらった。
 結婚記念日の5日に届いた花の彩りは望んだとおりのできばえで「あっ」と声が出た。
 夕方、娘が仕事帰りに立ち寄った。さりげなく「お座敷に行ってごらん」と声をかけた。「ワァー」と喜ぶのを見て胸がつまった。やっぱりお祝いには花がよかった。「大変だけど頑張るね」。抱きかかえて帰ったが、夕日に映え一段と美しかった。
 宮崎市 田原雅子(88) 2022.6.28 毎日新聞鹿児島版掲載

一番大事なもの

2022-07-28 14:50:06 | はがき随筆
 昔の年寄りの話にはたくさんの哲学があった。その一つは、家の中は畠だよ。毎日、種がまかれている。その種は言葉だよ。やさしい言葉には幸せの種がちゃんとまかれ、幸福というきれいな花が咲く。二つ目は、人を切るのに刃物はいらぬ。言葉一つで命切る。三つ目は、一度口から出た言葉は二度とのみ込むことはできない。四つ目は、人間最後は焼き場で灰になるが、燃えないものが一つある。一番大事なもの、それが心だよ。子供の頃にぼんやり聞いていた話が年と共に肉になり力になって人生を助けてくれたようにしみじみ思う。
 熊本県八代市 相場和子(95) 2022.6.27 毎日新聞鹿児島版掲載

アオサギ

2022-07-28 14:41:53 | はがき随筆
 久しぶりにK大学構内を散策した。学内中央にある玉利池に足を向けた。水抜き清掃がされ池を囲むようにベンチも置かれ、学生や教職員の親水性の憩いの場になっている。
 池を巡りながら、築山の先に目をやると鳥の置物が。よく見るとゆっくり動いている。本物の鳥だった。体長90㌢くらいで細長い首にグレーの胴体、頭部に10㌢ほどの黒い冠羽が。アオサギだった。一動作をすると1分以上そのまま。池にはウナギもいるので、その獲物をずっと狙っていたのか。アオサギは甲突川で時々見かけるが、キャンパスで遭遇するとは。
 鹿児島市 高橋誠(71) 2022.6.26 毎日新聞鹿児島版掲載

ななつ星パート2

2022-07-28 12:51:25 | はがき随筆
 大瀬川堤防の鉄橋を、毎週木曜日午後2時、都合のつく限り同志のKさんと目指す。
 豪華観光列車ななつ星が、延岡駅から鉄橋を渡ってくる勇壮な姿に、昨年から魅了されている。大きく両手を振って「ありがとう、ななつ星~」と叫ぶと白手袋の運転士さんが警笛を鳴らし、お客様も手を振ってくれることが最高にうれしい。
 高額運賃だから、乗車はかなわないけれど、数十秒見られるだけで胸が高鳴る。「幸せだね。私たち好きね~」と言いながら帰りは満面の笑みがこぼれ少々の悩みも吹き飛ぶ。ななつ星愛は、まだまだ続きそうだ。
 宮崎県延岡市 品矢洋子(68) 2022.6.25 毎日新聞鹿児島版掲載

祖父のドヤ顔

2022-07-28 12:36:53 | はがき随筆
 「すごく並んでるなあ」。蜂楽饅頭の熊本の店に行列ができていた。以前、祖父母、父母と食べた時のこと、白あん好きが多く、「間違いない」と全部白あんを買って帰った。しかし、実は祖父だけ黒あん派だったのだ。
 「祖父の分も我々で」と一口つけると「!!!」。まさかの黒あんだったのである。しかも全部。全員祖父の顔を見た。「大逆転勝利」の祖父がニコニコ食べていたのが今でも忘れられない。我々も爆笑しながら黒あんをおいしく頂いた。
 祖父母は熊本に在住し、このご時世、3年は会えていない。今夏こそ絶対に会いたい。
 鹿児島市 豊永未優(21) 2022.6.25 毎日新聞鹿児島版掲載

お店番

2022-07-28 12:29:06 | はがき随筆
 我が家は、刃物店です。母の日のプレゼントに「どの包丁にしようかなあ」と手にとって一生懸命選んでいる。「お母さん、お料理上手な方なんですね」と声をかけると、「めっちゃおいしいんですよ」と白い歯がこぼれた。恋人自慢ならぬ、母自慢の優しい息子さん。接客している私まで幸せな気分。
 私の若い頃は、慣れない接客に「よだきい」(面倒くさい、疲れた)と思いながら店番して……。「ごめんなさい」。今はお客さんの笑顔に背中を押されて、毎日、「ちむどんどん」(わくわく)しながら、「ふふふ」って店番、「楽しい」。
 宮崎市 鶴薗真知子(59) 2022.6.25 毎日新聞鹿児島版掲載