はがき随筆4月度の受賞者は次の皆さんでした。(敬称略)
【月間賞】 5日「海へ」佐藤桂子=宮崎県延岡市
【佳作】 3日「ふかふかな春」外薗恒子=鹿児島県指宿市
▽ 14日「行く春に」黒田あや子=熊本市
▽ 24日「再挑戦」市原基=宮崎県西都市
冬の世界から解き放たれて動き始める季節の移ろいを、4月のはがき随筆から楽しむことができました。
「海へ」と一人車を走らせた佐藤さん。その思いは遠い日になぎさに立った砂浜を歩く時の靴底の感触。靴の中に入りり込む砂の異物感や、海水で靴がぬれたことなど海辺で暮らした昔の日々は、多くの思い出と共にあるのでしょうね。「春」だからこそ、海が恋しく日向灘に向かった桂子さん。3年も海を見ていないこともあってか白い波が横に走っては崩れるさまを眺めている時に共感しました。
「ふかふかな春」。外薗さんも、靴底から感じた早春の感触。冬の寒さと乾燥で干からび、塀からはがれ落ちたコケを、下校途中の小学生の男の子たちが「めっちゃ気持ちいいよ。ふかふかして。踏んでみて」。恒子さんは、その気持ちよさを、靴底から頭の芯までコケの感触が伝わり「本当、ふかふかしてる」と体感。ほかほかな早春を味わう素敵な時間でしたね。
黒田さんの「行く春に」。美しい文章です。神秘なまでの自然の営みについて投稿されました。西の空を茜色に染めて夕日が落ち、夕闇が進む。老人ホームを守るように囲む竹林が暗い森になり、窓の下の遅咲きの大輪の桜がいさぎよく漆黒に沈んでいく風景の中で「自分の力なさを嘆き、悲しみに生きた90年はちっぽけで塵のように見える」。そうではないと、思います。
「再挑戦?」。もはや?はいりませんね。市原さんは50代の気忙しい日常の出来事の投稿を続けて来られた時から二十数年を経て再び「毎日新聞」を手にすることになった。はがき随筆が継続されていることに驚き、懐かしさで胸が熱くなった、と。「あの頃とはまた違ったものが見えてくるかもしれない」。基さんの挑戦をお待ちしております。
日本ペンクラブ会員
興梠マリア