はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

令和のタオラー

2022-07-25 23:14:28 | はがき随筆
 20年ほど前、宮崎の女子高生の間で「タオラー」なるファッションがはやった。夏場に首にタオルを巻いて街を闊歩していた。タオルの柄や巻き方を競ったとか。当時人気だった安室奈美恵の髪形や化粧、着こなしをまねた「アムラー」なるファッション名をもじったそうだ。
 私も首にタオルを巻きながらふとそのことを思い出した。私の場合は、首痛と腰痛の改善のための体操にタオルを使うので日々の体操をわすれないように、常に首に巻いておくことにしたのである。「令和のタオラー」を気取ってみたが、だれも気付かないだろうなあ。
 宮崎市 福島洋一(67) 2022.5.31 毎日新聞鹿児島版掲載

明け方の夢

2022-07-25 23:01:17 | はがき随筆
 明け方、夢を見た。父といつものように食事する夢。父はうれしそうに好物らしい何かを食べている。違和感はない。いっとき過ぎてから夢だと知覚し、夢の中でこんな夢をなぜ見たのかと考える。はたと気づいた。姉と十三回忌の話をしてお寺に連絡する事をすっかり忘れていたのだ。何てこった。日頃から信心薄い私でも、こりゃ酷い。せめて親の法事くらい真摯にせよと、あの世からのクレームだろうか。それにしても幸福そうに笑っていた父の姿に、ひさしぶりに親子の食事時間の楽しさを味わえてとても幸福。文句を言うにしてもやさしい父である。
 熊本県阿蘇市 北窓和代(67) 2022.5.30 毎日新聞鹿児島版掲載

ど忘れしても安心

2022-07-25 22:32:53 | はがき随筆
 無数の桜色の花が、ニオイバンマツリの足元で「主役交代」とばかりに咲いている。
 昨年の秋にカミさんが買い求めたのだが、大きく育ったので大き目の鉢に植え替えたのだ。「何という名前の花?」。常々花には詳しいとのたもうているカミさん。即答すると思って気軽に尋ねたのだが、「あれ、何という花だっけ」と首をかしげた。
 そこでネットで検索。「これこれ」とカミさんが指さしたのが「ストロベリーホイップマーガレット」。「ど忘れしちゃった」。最近こんな会話が増えた老夫婦である。
 鹿児島県西之表市 武田静瞭(85) 2022.5.29 毎日新聞鹿児島版掲載


平和

2022-07-25 22:22:22 | はがき随筆
 朝、塩鮭を焼こうとグリルを開けると焼けた塩鮭が入っていた。前日の朝、焼いたまま忘れたらしい。ため息が出る。
 ロシア軍によるウクライナ侵攻のニュースを見ながら納豆をかき混ぜる。かつてモスクワ迄侵攻したナポレオン、レニングラードを包囲、攻撃したヒトラー。歴史を俯瞰すれば、ことはそう単純ではない。今、正義を振りかざす側も脛に傷を持つ。そんなことを思いながら朝食を食べていた。ご飯が残り少ないことに気づいて、「あっ、卵かけご飯」と慌てて卵を割る。
 庭で鶯が鳴いた。窓の外にはのどかな空が広がっている。
 宮崎県串間市 岩下龍吉(70) 2022.5.29 毎日新聞鹿児島版掲載

見送られる寂しさ

2022-07-25 22:13:52 | はがき随筆
 改札の前で友人は泣いていた。私たちは新幹線で1時間、バスなら3時間離れた所に住んでいる。大学生でお金も時間も余裕のない私たちは、月に1度会うのがやっとである。
 4月の半ば、友人が会いにきた。水族館に行き、私の家にお泊りして、慈眼寺公園にネモフィラを見に行った。
 帰りの新幹線出発の10分前、友人は「なんか悲しくなっちゃった」と涙。私は驚いたが、笑顔で見送らなきゃと泣かなかった。家に戻り、友人の寂しさに思いを巡らせたが、想像がつかなかった。6月、その気持ちを知るために私が会いにいく。
鹿児島市 前田志帆(20) 2022.5.28 毎日新聞鹿児島版掲載

ホタル

2022-07-25 22:05:59 | はがき随筆
 空高く白い三日月がくっきりと金色に見え始めると、川沿いや木立の中で、ほわっほわっと光り出した。「ほらあそこ。あ、ここにも。ホタルだ! ホタルだ」鑑賞会に集まった子どもたちが歓声をあげる。
 個々で点滅していたホタルはいつの間にか集まり、一斉に光り一斉に滅する。暗闇が一瞬明るくなり、また暗闇に戻る。同じリズムで点滅するホタルを見ていると、自分が今どこにいるのかを忘れそうだ。
 97歳の母を見送り、ポッカリ穴のあいた私の心にやさしい光がしみる。あのホタルの中の1匹は母だったのかもしれない。
 宮崎市 四位久美子(72) 2022.5.28 毎日新聞鹿児島版掲載

父帰る

2022-07-25 21:58:42 | はがき随筆
 「入院中の父を一時帰宅させるから」と兄から電話があった。兄は、一度帰りたいという父の願いをかなえてやりたいと思ったようだ。
 その日に行くと、父は座敷に寝ていた。母の位牌がある仏壇と、自分で造った庭が見えるように布団が敷いてあった。
 私が子供だった頃、父は、ホンダのスーパーカブ号で通勤していた。私たち兄弟3人は、帰宅する父のカブ号のエンジン音を聞き分け、「アッもとおちゃんだ」と我先に声をあげていた。
 大きくてたくましかった父の姿が懐かしい。
  熊本市北区 岡田政雄(74) 2022.5.28 毎日新聞鹿児島版掲載
 

謎の音

2022-07-25 21:51:41 | はがき随筆
 雨がやむとその音はトントコトントコとリズムよく響く打楽器の音にも聞こえる。無人のはずの隣の鉄筋3階建てからする音。確かめるのもはばかられ、嫁に話し、2人でわが庭からのぞいてみる。
 今まで背丈のある草がしげっていたのに刈り取られていた。外階段の下に空の発泡スチロール箱があり、その上に雨粒が直接落ちて反響していたのだった。
 分ったら何のことはない。この前から悩まされていた音。刈り取った結果が悩みの種だったとは。箱を横によけてもらってやっと謎の音から解放された朝になった。やれやれである。
 鹿児島県霧島市 口町円子(82) 2022.5.28 毎日新聞鹿児島版掲載

何にしよう

2022-07-25 21:44:54 | はがき随筆
 お祝いのお返しにカタログ注文の本を頂いた。何にしようか本をめくるが、多すぎてなかなか決まらない。
 3人の子どもが居た頃は、誰が注文するのか5人でジャンケンをして決めていた。今は夫と2人。「どれがいい?」と聞くと、返事がない。本を閉じ「また今度にしよう」と本棚に戻した。
 あっという間に半年が過ぎ締切り間近になった。あわてて本をめくる。決まらない。でも決めなくてはと思い夫に聞くと「何でもいい」と答えが返ってきた。
 今日こそ決めた。目覚まし時計! クマのプーさんの。
 宮崎県日南市 三川昭子(61) 2022.5.28 毎日新聞鹿児島版掲載

野いちごジャム

2022-07-25 21:37:29 | はがき随筆
 今年も庭の野いちごが実を付けた。小さなトゲトゲを避けながら、真っ赤に熟れた実をそっと摘む。少しばかりの朝採りの収穫を流水で洗い、グラニュー糖とレモン汁を入れてジャムを作る。夫は毎食後、数種類のくも膜下出血の治療薬を服用している。朝食に添えた自家製野いちごジャム入りのヨーグルトをスプーンにすくい、1粒ずつ錠剤をのんでいく。春から初夏の短い期間のこの楽しみも、もう2回目になった。介護に携わってくださる皆様のおかげもあって、随分と元気になった。日々のニュース解説の舌鋒も、日ごとに鋭さを増している。
 熊本県菊陽町 有村貴代子(75) 2022.5.28 毎日新聞鹿児島版掲載

三人兄妹

2022-07-25 21:30:42 | はがき随筆
 我らは、戦後生まれの三人兄姉である。裕福ではないが、両親の愛情の中、毎朝、母の作ったみそ汁を食べて育った。
 兄姉はそれぞれ自立し、家庭を持ち、子供たちを育ててきた。その子供たちは成長し、次の世代を担おうとしている。
 どこの家庭でも親の介護や見送りを体験して時は流れる。古希を迎える頃になると自分たちの老老介護が始まる。
 そんな時、初めて三人兄姉で食事会をすることになった。長い人生の歩みの中で、これからが大事な時間である。
 兄姉でお互いに助け合い、見守っていきたいと思っている。
 熊本県大津町 小堀徳廣(74) 2022.5.27 毎日新聞鹿児島版掲載 

水たまり

2022-07-25 20:51:31 | はがき随筆
 珍しく懐かしい。水たまり。むかし人が歩く道は舗装されていなかった。雨が降ればあちこちに水たまりは珍しくなかった。
 車社会になって歩車道が区分された道路の路面は水はけ勾配があり、水はたまらないのだが。歩道の水鏡に街路樹の姿が映っている。
 子ども時分なら「ジャブジャブ」と水たまりに入り、はしゃぎまくるかも。冬には「ザックザック」と霜柱を踏んずけながら通学時の道草が楽しかった。
 今「ヨイショヨイショ」と時々休みながら歩く84歳の年男では、水には入れないね。デイサービスで頑張っている!
 宮崎市 貞原信義(84) 2022.5.25 毎日新聞鹿児島版掲載

もやし

2022-07-25 20:45:07 | はがき随筆
 私と夫の実家の近くでおばさんがもやしを作っていた。太くて長いきれいなもやしだった。根切りをしておくと日持ちが良く、数日間はシャキシャキ感が変わらず、おいしかった。母と義母が我が家に来る時はいつもそのもやしを買ってきてくれた。孫たちと競って根切りをしていたのを思い出す。おばさんが亡くなり、もやしを作る人もいなくなった。今、私は時々、根切りもやしを買ってくるが。どうしても残っている根を取らずにはいられない。母たちが生きていたら「根切りなのに」と笑うだろう。そして、あのおばさんのもやしの話をするだろう。
 熊本県天草市 岡田千代子(72) 2022.5.24 毎日新聞鹿児島版掲載

ぢいさんばあさん

2022-07-25 20:38:23 | はがき随筆
 歌舞伎座4月公演のお目当ては、玉三郎丈と仁左衛門丈が12年振りに演じる芝居。
 森鴎外の短編を歌舞伎に仕立て、戦後東京と大阪で同時に初演、以後41回の上演となる。
 昨年12月、勘九郎と菊之助の共演で観た。若夫婦がひょんなことで別れ別れになり、37年後に再会する物語。庭の若い桜が大木になり、花をいっぱいつけた頃、老人になった2人が懐かしい屋敷で顔を合わせる。
 来し方を語り合い、運命に翻弄されながらも、恨みがましいことは言わず、じっと見つめ合う。夫婦の深い情愛が観る側に伝わり、むせび泣く人もいた。
 鹿児島市 本山るみ子(69) 2022.5.23 毎日新聞鹿児島版掲載

はがき随筆4月度

2022-07-25 20:15:02 | はがき随筆
 はがき随筆4月度の受賞者は次の皆さんでした。(敬称略)

【月間賞】 5日「海へ」佐藤桂子=宮崎県延岡市
【佳作】 3日「ふかふかな春」外薗恒子=鹿児島県指宿市
▽ 14日「行く春に」黒田あや子=熊本市
▽ 24日「再挑戦」市原基=宮崎県西都市

冬の世界から解き放たれて動き始める季節の移ろいを、4月のはがき随筆から楽しむことができました。
 「海へ」と一人車を走らせた佐藤さん。その思いは遠い日になぎさに立った砂浜を歩く時の靴底の感触。靴の中に入りり込む砂の異物感や、海水で靴がぬれたことなど海辺で暮らした昔の日々は、多くの思い出と共にあるのでしょうね。「春」だからこそ、海が恋しく日向灘に向かった桂子さん。3年も海を見ていないこともあってか白い波が横に走っては崩れるさまを眺めている時に共感しました。
 「ふかふかな春」。外薗さんも、靴底から感じた早春の感触。冬の寒さと乾燥で干からび、塀からはがれ落ちたコケを、下校途中の小学生の男の子たちが「めっちゃ気持ちいいよ。ふかふかして。踏んでみて」。恒子さんは、その気持ちよさを、靴底から頭の芯までコケの感触が伝わり「本当、ふかふかしてる」と体感。ほかほかな早春を味わう素敵な時間でしたね。
 黒田さんの「行く春に」。美しい文章です。神秘なまでの自然の営みについて投稿されました。西の空を茜色に染めて夕日が落ち、夕闇が進む。老人ホームを守るように囲む竹林が暗い森になり、窓の下の遅咲きの大輪の桜がいさぎよく漆黒に沈んでいく風景の中で「自分の力なさを嘆き、悲しみに生きた90年はちっぽけで塵のように見える」。そうではないと、思います。
 「再挑戦?」。もはや?はいりませんね。市原さんは50代の気忙しい日常の出来事の投稿を続けて来られた時から二十数年を経て再び「毎日新聞」を手にすることになった。はがき随筆が継続されていることに驚き、懐かしさで胸が熱くなった、と。「あの頃とはまた違ったものが見えてくるかもしれない」。基さんの挑戦をお待ちしております。
 日本ペンクラブ会員
       興梠マリア