はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

ひまわりが咲いた

2022-07-27 23:39:23 | はがき随筆
 「あらーっひまわり」。朝ごはんの時、それぞれのテーブルにすっきりと生けられた切りたてのひまわりは、緑の葉っぱも茎も滴がしたたりそうにみずみずしく少女のように可憐でいとおしい。
 ひまわりに憧れる思いが通じたのかオーナーさんがひまわりの種をまかれた。窓から見える位置にどっさりと。
 朝一番に窓を開けた時は葉の間に隠れていたのに、ごはんの後に見ると東に向かってしっかりと頭を上げていった。こま送りの映像のような一瞬は、たしかにヒマワリの開花の瞬間をキャッチした。ラッキー。
 熊本市東区 黒田あや子(90) 2022.6.24 毎日新聞鹿児島版掲載

風邪ひいて

2022-07-27 23:32:09 | はがき随筆
 37度1分。頭が重く、喉が痛い。楽しみにしていた読書会、パスの電話をする。久し振りに娘の幼い頃のピアノの弾き語りを聴こうとしたら、カセットテープが引っかかって再生不能。「メカ音痴奴」と嘆く。 
 こんなときは心のポケットにしまっている聖パウロにお出ましいただくに限る。「『いつも喜んでいなさい』でしたね」
 風邪薬が切れた。酢漬けショウガ、キンカン漬け、甘酒、プルーンエキスに熱湯を注ぎ自己流風邪薬。効き目ありそう。レコードなら針を落とすだけ。シャンソンを聴きながら、アルバムの人々とおしゃべりしよう。
 鹿児島県鹿屋市 伊地知咲子(85) 2022.6.23 毎日新聞鹿児島版掲載

ひいまご

2022-07-27 23:16:04 | はがき随筆
 同居している息子夫婦の長女が、コロナ禍の中で結婚式も出来ず入籍だけで共働きのスタートを切り2年余り。子宝に恵まれ、私共にも「ひ孫ちゃん」のビッグなプレゼントが届きました。昨年末に長年共に暮らしたミニチュアダックスフントを見送り、日々の暮らしが色あせ、なんとかしなくてはという思いだけでグダグダと過ごしていた老夫婦には格好の贈り物でした。今の我が家の小さな「宝物」です。ひ孫には1番手が祖父母、私共は控えの2番手と勝手に自負しております。この先も2番手の出番がある間は喜んでお手伝いしたいと思っています。
 宮崎県西都市 市原基(76) 2022.6.22 毎日新聞鹿児島版掲載

頑張ろう、ね

2022-07-27 23:06:49 | はがき随筆
 「俺の生年月日はいつだった? 年は?」。分っているようだが不確かなようで、尋ねる夫。まさか忘れたわけじゃないよねと思いながら対処する。情けないという表情で、はにかんだように見えた。昔の権威も忘れた素の目をしている。滅多に見せない表情がとてもせつない。子供の頃はIQが高かったと自慢していた人が、である。老いが目の前にドンと突きつけられた。でも、声を荒げることもなく、暴力的になることもないのがまだ救いだと、自分に言い聞かせる。否応なしに訪れる老後にどう備えるかを考える日々に入ったけど頑張ろう、ね。
 熊本県八代市 鍬本恵子(76) 2022.6.21 毎日新聞鹿児島版掲載

死の順番

2022-07-27 21:17:30 | はがき随筆
 同い年の義弟が末期がんで余命春までといわれたが、春は越せた。人は生まれ乳を吸い這い立ち歩き、恋を覚え、子を産み育て、大人になるにつれゼニの重さと人の弱さ醜さを見せつけられ、老いと病の責め苦に出会い、時代の流れにおぼれ、死の苦を味わい尽くして死ぬ。
 39年前に父を送り、24年前に姉が続き、去年母が逝った。死の順番が何によって決まるのか、少年時代に出会ったこの難問。68歳の死亡適齢期に入った今も解けずにいる。生死の意味を分からないまま自分の番を迎えるのだろう。5月22日、義弟の生苦が全て終わった。
 鹿児島県湧水町 近藤安則(68) 2022.6.20 毎日新聞鹿児島版掲載

学生服

2022-07-27 21:08:44 | はがき随筆
 「職責?」「学生服着てたからかな」「何で学生服ですか」
 18の春、就職のため上京。東京駅で家出と間違われた。ひと回り下の同僚は「学生服で就職」が理解できないという。
 背広を持っていたが、布団と共にチッキ(鉄道便)で送り、高校の制服姿で、指定された国鉄の夜行寝台特急に乗った。
 あの夜、宇高連絡船で集団就職と乗り合わせた。ブラスバンド。振る手。呼ぶ声。桟橋の喧騒は今も耳の奥にある。15の彼らも一様に学生服だった。
 誰の肩にも歳月は降り注ぎ、もう日は暮れた。別れの季節には遠い昔が帰ってくる。
 宮崎市 柏木正樹(73) 2022.6.19 毎日新聞鹿児島版掲載

はがき随筆5月度

2022-07-27 20:35:34 | はがき随筆
 はがき随筆5月度の受賞者は次の皆さんでした。(敬称略)

月間賞に鍬本さん(熊本)
佳作は武田さん(宮崎)、青木さん(鹿児島)、北窓さん(熊本)

【月間賞】 12日「おとなの子供」鍬本恵子=熊本県八代市
【佳作】 10日「春なのに」武田ゆきえ=宮崎県串間市
▽ 20日「残されたもの」青木理枝=鹿児島市
▽ 30日「明け方の夢」北窓和代=熊本県阿蘇市

 「おとなの子供」は、亭主操縦の苦労話です。デイサービスに夫を送り出すまでの、夫と妻のいわば駆け引きが、緊張感をもって描き出されています。読んでいて、どうなるだろうかと、ハラハラさせられます。とくに、最後の「すぐにお帰りの時間が来る」の結びがみごとで、妻の毎日の苦労が手に取るように実感させられます。
 「春なのに」は、ロシアのウクライナ侵攻に対する抗議の内容です。同じ内容のものは他にもいくらかありました。確かに「殺人鬼」を感じます。人間が信じられなくなります。この悲劇を、平和な国で春を満喫している私たちの生活と対比的に描き、ウクライナにも「せめて春」が来ることを祈っている文章です。平和への願いが切実に表れています。
 「残されたもの」は、私たちの日常を襲う喪失感が巧みに描かれています。お向かいの家が空き家になった。そこの庭で遊んでいた可愛い犬、洗濯ものを毎日たくさん干していた奥さんなど、今は存在しないものを思い出して描き、それらを、今は春とばかり咲きほこる残された庭の草花と対照的に描くことで、淋しさを浮き立たせた巧みな構図の文章です。
 「明け方の夢」は、なぜ父の夢をみたのか考えてみたら、十三回忌についての寺への連絡を忘れていたことを父は思い出させようと、夢に現れたのだろ、と気づいたという内容です。夢は夢を見る人の潜在意識の映像化です。しかし夢のお告げと言うことばがあるように、夢に現れた人に何らかの意図があるかのように受け取るのもまた一般的です。久しぶりに、優しいお父さんとの楽しい食事ができて何よりでした。
 この他に、杉田茂延さんの、お孫さんとの便所の落書き交換「トイレ交換日記」、前田隆男さんの、奥様との永の別れ「桜と散る」。宮路量温さんの、高齢夫婦の愛情表現法「愛別離苦」、中村弘之さんの、バスの運転手さんとの感情の交流「昼間のバスで」などが印象に残りました。
鹿児島大学 名誉教授 石田 忠彦

〝B〟一周年

2022-07-27 20:28:12 | はがき随筆
 〝B〟と名付け、家族の一員となった保護猫。家に来た当初はお腹に毛がなくツルツルでした。獣医さんは「ストレスでなめすぎたんでしょ。はえてきますヨ」。その通りでした。無類の人なつっこさ。誰にでも愛想を振りまき可愛がられる一方、抱かれるのを嫌がる不思議。外に出たがり、ピンポンの音で私より先に玄関に行くので、鍵をかけ忘れないようにしています。不用意に開けて何度か脱走され困りました。ある時、左目が半分開かなくなったので娘が病院へ連れて行くと、結膜炎でした。獣医さんから良い子だとほめられた。と娘は鼻高々。
 熊本市中央区 山口妙子(86) 2022.6.18 毎日新聞鹿児島版掲載 

ズンダレジリ

2022-07-27 20:19:50 | はがき随筆
 上天気に誘われ歩き出した途端、右のお尻がずり落ちる感じ。足も重たくなった。早速、妻の通う鍼灸院へ向かう。
 先生の見立ては極度の筋肉減少だと。治療台で横向きになりズボンの裾をまくり上げ、ズボンとパンツを下げるとベロンとお尻のお出まし。
 腰、尻、ふくらはぎに鍼と灸、通電の治療が始まる。自分の尻など見たこともないが、ずんだれ(だらしなく垂れ下がる)て見られたものではなかろうと鳥肌が立った。
 一体いつまでこのあられもなき格好をせねばなわぬのやら。あ~あ。
 鹿児島県肝付町 吉井三男(80) 2022.6.18 毎日新聞鹿児島版掲載

飲むど飲むど

2022-07-27 20:13:11 | はがき随筆
 いつも会うと、彼は私に「飲むど飲むど」と言い、一緒に酒を飲んでいました。
 彼とは、私が40年前に転勤した宮崎県串間市の街で知り合い意気投合しました。6年間の宮崎県串間市の生活は彼のおかげで楽しく過ごすことが出来ました。
 4年前に彼に最後に会った時に、彼は私に「飲むど飲むど」とは言いませんでした。その後彼とはコロナ禍の中会う事がありませんでした。葬儀の後に聞いた話では、がんであったとのこと。
 私の人生を豊かにしてくれた彼の事を思うと、感謝しかありません。ではまた、会う日まで。
 宮崎県日向市 宮田隆雄(70) 2022.6.18 毎日新聞鹿児島版掲載

朝のラジオ体操

2022-07-27 20:02:26 | はがき随筆
 「おはようございます。今日もお会いできましたね」。互いにあいさつを交わしつつ、お年寄りたちが集まってくる。6時半、朝露に濡れた楠の大樹の若葉がキラッと光る。と小学校の校庭脇から小さなラジオ音、聞き取れないほどだが「1.2.3.4」。ラジオ体操だ。人の輪の中心部に小さな携帯ラジオが一つだけ。皆さんの体操はぎこちないが、一生懸命だ。およそ10分。体操が終わって「ありがとうございました」と、ラジオに一礼して輪が解ける。朝のラジオ体操は、お年寄りたちの健康のシンボル、親しき集いの場だ。いつまでもお元気で。
 熊本市中央区 木村寿昭(89) 2022.6.18 毎日新聞鹿児島版掲載の

孫娘とコロナ

2022-07-27 19:54:44 | はがき随筆
 ビアノレッスンのため少し紅をひいておシャレ、ちょっと変身、教室にいたら気付かれず……。「私ってどんな存在?」と孫娘はいささかショック。彼女は、コロナ禍の京都で音楽理論研究中の女子大生。一人暮らしで、バイトにも頑張っている。コロナにおびえながら。
 コロナとは元来「光の輪」の意だったのでは。今は、地球全体がそれに翻弄され、もがいている。対応する国々は、どうしようもないエゴに渦巻かれている。戦争以上の不気味さが漂っている。ワクチンは中国ロシアでなく、アメリカが良いと言った国もあったとか。
 鹿児島県姶良市 宇都晃一(89) 2022.6.18 毎日新聞鹿児島版掲載

母と6人の子供たち

2022-07-27 19:46:49 | はがき随筆
 「はぁー、一世紀も生きちょっとじゃねぇ」。誰かがため息交じりにつぶやいた。
 山が萌黄から深緑に変わる頃、母は101歳の誕生日を迎えた。80歳の長男を頭に6人の子供たちが集合した。「母ちゃんおめでとう」。それぞれの口から出た言葉だ。耳が遠くなり不可解な顔をしている。
 妹が耳元で「母ちゃんのことよ」とつなぐ。真顔から少し笑顔がこぼれた。「母ちゃんもっと長生きせにゃいかんよ」。「もう、父ちゃんのとこに行きたいけど、よう行かん」と弱気を見せる。
 気の遠くなるような年月を経てきた母は今、幸せに暮らす。
 宮崎県延岡市 川並ハツ子(77) 2022.6.18 毎日新聞鹿児島版掲載

令和版マイホーム

2022-07-27 19:40:05 | はがき随筆
 36歳で建てたマイホーム。二階建て、駐車場、芝生に花壇と当時の一般的設計である。
 ところが今、50~60坪の土地にシンプルな平屋建てがよく売れているとのこと。友人の娘さんが24歳で結婚し一児の母になり、27歳でそのような家を建てた。共働きなので時間は宝と、オール電化に床暖房、駐車場の隅に小さい花壇で十分と合理的な考え方である。
 空き家になった昭和の家が解体され更地になったのをウオーキング中によく目にする。これからのマイホームは、社会や家族の変化に対応できる令和版シンプルな家が増えるのだろう。
 熊本県八代市 今福和歌子(72) 2022.6.18 毎日新聞鹿児島版掲載

パワースポット

2022-07-27 19:32:20 | はがき随筆
 イギリス発祥のフットパスに取りつかれて約10年。歩いて風景を楽しめる、昔からある農村の路地がフットパスである。
 姶良市にある4コースも歩いた。五ケ別府、山田地区の農道を歩くうち、この看板を見つけた。農道を歩いていくと、田んぼが途切れてやぶ状態の所に小道があり、小さな広場になり、朽ちた鳥居があり、そこから竹林の小道を登ると、大きな石に浮き彫りされた座像があるではないか!
 その感動からか、毎月詣でること7年余り、パワースポットになった。その名は茂頭観音である。
 鹿児島市 下内幸一(73) 2022.6.17 毎日新聞鹿児島版掲載