はがき随筆5月度の受賞者は次の皆さんでした。(敬称略)
月間賞に鍬本さん(熊本)
佳作は武田さん(宮崎)、青木さん(鹿児島)、北窓さん(熊本)
【月間賞】 12日「おとなの子供」鍬本恵子=熊本県八代市
【佳作】 10日「春なのに」武田ゆきえ=宮崎県串間市
▽ 20日「残されたもの」青木理枝=鹿児島市
▽ 30日「明け方の夢」北窓和代=熊本県阿蘇市
「おとなの子供」は、亭主操縦の苦労話です。デイサービスに夫を送り出すまでの、夫と妻のいわば駆け引きが、緊張感をもって描き出されています。読んでいて、どうなるだろうかと、ハラハラさせられます。とくに、最後の「すぐにお帰りの時間が来る」の結びがみごとで、妻の毎日の苦労が手に取るように実感させられます。
「春なのに」は、ロシアのウクライナ侵攻に対する抗議の内容です。同じ内容のものは他にもいくらかありました。確かに「殺人鬼」を感じます。人間が信じられなくなります。この悲劇を、平和な国で春を満喫している私たちの生活と対比的に描き、ウクライナにも「せめて春」が来ることを祈っている文章です。平和への願いが切実に表れています。
「残されたもの」は、私たちの日常を襲う喪失感が巧みに描かれています。お向かいの家が空き家になった。そこの庭で遊んでいた可愛い犬、洗濯ものを毎日たくさん干していた奥さんなど、今は存在しないものを思い出して描き、それらを、今は春とばかり咲きほこる残された庭の草花と対照的に描くことで、淋しさを浮き立たせた巧みな構図の文章です。
「明け方の夢」は、なぜ父の夢をみたのか考えてみたら、十三回忌についての寺への連絡を忘れていたことを父は思い出させようと、夢に現れたのだろ、と気づいたという内容です。夢は夢を見る人の潜在意識の映像化です。しかし夢のお告げと言うことばがあるように、夢に現れた人に何らかの意図があるかのように受け取るのもまた一般的です。久しぶりに、優しいお父さんとの楽しい食事ができて何よりでした。
この他に、杉田茂延さんの、お孫さんとの便所の落書き交換「トイレ交換日記」、前田隆男さんの、奥様との永の別れ「桜と散る」。宮路量温さんの、高齢夫婦の愛情表現法「愛別離苦」、中村弘之さんの、バスの運転手さんとの感情の交流「昼間のバスで」などが印象に残りました。
鹿児島大学 名誉教授 石田 忠彦