はがき随筆・鹿児島

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「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

最後の肩もみ券

2010-06-19 14:36:27 | 女の気持ち/男の気持ち
 次男の結婚披露宴も終盤に入った時、開演前に司会者に耳打ちしていたサプライズがいよいよ始まった。
 「新婦のお母様、そして新郎、前に──」
 司会者からの突然の促しにあぜんとしている2人。
 「新郎、あなたは小学生の時、お母様に『肩もみ券』をあげたこと、覚えていますか」
  「……はい、多分」
  「ここに1枚の『肩もみ券』があります。20年前の母の日にあなたがプレゼントした5枚つづりの最後の1枚です。あなたのお母様はこの券を、今日、新しい母となる新婦のお母様のために使いたいとのことです。では肩もみ始めてください。トン、トン、トン」
 司会者の話術に助けられ、私の願いはかなった。会場の末席から2人を見ながら、思い悩んだ子育ての日々が走馬灯のように頭を巡る。
 長女、長男に続き、次男にも訪れた大波、小波に大津波。疲れ果て、投げ出したくなった時、取りだして見ていた「肩もみ券」。鉛筆書きの太く大きな字に、純真な彼の真心を感じ、立ち上がる不思議なパワーをもらった。
 「かたもみ券、十五分はタダ。ついかはお金がいります」
 有効期限なしの最後の1枚を今日使い終えた。
 3羽目の巣立ちを見届け、この日もらった「僕を産んでくれてありがとう」のメッセージカードを宝箱に納める。末永く幸福にね。
  北九州市若松区・パート 安元 洋子・59歳 
2010/6/14 毎日新聞の気持ち欄掲載

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