はがき随筆・鹿児島

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「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

「点の記憶」

2009-09-10 15:14:34 | 岩国エッセイサロンより
 大連港を出た引き揚げ船は佐世保港に着いた。岸壁に立つや否や、頭にDDTの真っ白い粉をかけられた。

 長い行列を作って汽車に乗る。客車は窓の上まで荷物でいっぱい。その上にかがみこんだ。早朝、岩国駅に着いた。黒く底の見えない池を縫うようにして家に向かって歩いた。

 岩国の空襲は終戦の前日、8月14日だったという。あとわずか一日を待たず、五百余名の命が散った。あの池は数千発の爆弾穴だったことを後になって知った。

 5歳児にとっての敗戦は、線にならない点の記憶。不気味なまん丸い水たまりは、今でもはっきりと覚えている。
 岩国市  岩国エッセイサロン会員 沖 義照(2009.08.14 毎日新聞「はがき随筆」掲載)





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