はがき随筆・鹿児島

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大金に驚く息子たち

2012-08-13 15:57:00 | 岩国エッセイサロンより
2012年8月13日 (月)

    岩国市 会 員   山下 治子

夫の定年を機に住宅ローンを完済しようと決めていたが、通帳上の数字の移動だけでは何か空しい。

返済し続けて18年。息子たちに学費がかかる時期など、正直しんどい局面もあった。よくやり繰りしたというより、何とかなるもんだと振り返る。

この先、完済に充てるような大金を手にすることもないだろうと思い、現金化して一晩、二晩眺めようと夫との話がまとまった。

息子3人を呼び寄せ、それぞれの前に引き出した現金を均等に並べた。表情をこわばらせる息子たち。そこで夫の名演技。「これは退職金だ。生前贈与としてお前たちにやる」

「えっ、ほんまに?」「車のローン、助かるなあ」「おとんたちが使えばええやん」と、三者三様の反応。

次の瞬間、私たちのたくらみを見抜いた息子たちが「だって、住宅ローンを返すって言ってたじゃないか」と□をそろえた。がっかりさせたようでちょっぴり気が引けたが、全員で大爆笑して幕に。

「美田」を残そうにも残せないが、家族全員元気に暮らせている。息子たちはきっと、夫に感謝しているに違いない。



(2012.08.11 朝日新聞「ひととき」掲載)岩國エッセイサロンより転載

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