2013年5月22日 (水)
岩国市 会 員 山下 治子
去年の春先だったか、「ミホかぁ、野菜取りに来んね」と私の携帯電話にかかり始めた。「番号違いですよ」といくら言っても、「何ね?」と繰り返すばかりで、またかかる。
一人暮らしの高齢者とうかがえたので、初めはむげに切れなかったが、病院で取り込み中にかかった時、「間違いって何度言えぱわかるの?」と声を荒らげて切ってしまった。それでもかかり続けるので、私の□調は素っ気なくなり、そのうちかからなくなり、その存在を忘れていった。
この春、近所の一人暮らしのお年寄りが亡くなった。人づてに「密葬でお別れもできなかった」と聞いた時、ふと「電話迷子」のあの方を思い出した。着信番号を登録してあったので電話してみると、現在使われていないという空しい録音の声が繰り返し流れた。
胸騒ぎがした。心の奥に鉛をのみ込んだ気持ちだった。呼ぴかけていた方と一緒に引っ越したと思いたかった。
会ったわけではないのに、耳の奥に残っていたゆったりと穏やかな口調が、あの方のイメージを膨らませていた。「ごめんなさい」とつぶやきながら、携帯電話の登録を消した。
(2013.05.21 朝日新聞「ひととき」掲載岩国エッセイサロン)より転載
岩国市 会 員 山下 治子
去年の春先だったか、「ミホかぁ、野菜取りに来んね」と私の携帯電話にかかり始めた。「番号違いですよ」といくら言っても、「何ね?」と繰り返すばかりで、またかかる。
一人暮らしの高齢者とうかがえたので、初めはむげに切れなかったが、病院で取り込み中にかかった時、「間違いって何度言えぱわかるの?」と声を荒らげて切ってしまった。それでもかかり続けるので、私の□調は素っ気なくなり、そのうちかからなくなり、その存在を忘れていった。
この春、近所の一人暮らしのお年寄りが亡くなった。人づてに「密葬でお別れもできなかった」と聞いた時、ふと「電話迷子」のあの方を思い出した。着信番号を登録してあったので電話してみると、現在使われていないという空しい録音の声が繰り返し流れた。
胸騒ぎがした。心の奥に鉛をのみ込んだ気持ちだった。呼ぴかけていた方と一緒に引っ越したと思いたかった。
会ったわけではないのに、耳の奥に残っていたゆったりと穏やかな口調が、あの方のイメージを膨らませていた。「ごめんなさい」とつぶやきながら、携帯電話の登録を消した。
(2013.05.21 朝日新聞「ひととき」掲載岩国エッセイサロン)より転載
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