げた箱の上の小さな置物を落として割ってしまった。これは42歳になる次男が、小学校の修学旅行で買ってきてくれたものだ。
私は当時、慣れない倉敷の地で社員の食事作りを任されていた。料理は大の苦手にもかかわらず。
朝7時、我が家へ5人の男子社員が食事にやってくる。昼間は女子社員の昼食作りに会社まで行った。後片付けをして10人分の夕食と朝食の食材を買い、自転車に積み込んで帰宅。午後7時過ぎ、仕事を終えた社員がバラバラにやってくる。家族を含めて全員が食べ終えると11時過ぎだ。私の自由時間は皆無。疲れ切っていた。夫は前任から引き継いだ赤字の会社を建て直すのに必死で家族を顧みる心の余裕はなかった。
私は子どもたちについついつらく当たっていたのだろう。ある日、次男が言った。
「お母さんはどうしていつも怒ってるの」
私は彼の気持ちに向き合うこともせず、「うるさい」と一喝してしまった。
そんなとき、このお土産である。それは、大きく口を開けて笑っている素焼きの人間。メッセージがついていた。
「くらべてごらん」
一瞬、ガツンと一撃を食らった感じがした。
その時から今日まで30年、自分を戒めるために目につく所に置いていたのだ。粉々になったそれを見て、しまったとは思ったが、もう許してくれたんだよねとも受け取っている。
宮崎市 若杉英子 2011/3/17 毎日新聞女の気持ち欄掲載
私は当時、慣れない倉敷の地で社員の食事作りを任されていた。料理は大の苦手にもかかわらず。
朝7時、我が家へ5人の男子社員が食事にやってくる。昼間は女子社員の昼食作りに会社まで行った。後片付けをして10人分の夕食と朝食の食材を買い、自転車に積み込んで帰宅。午後7時過ぎ、仕事を終えた社員がバラバラにやってくる。家族を含めて全員が食べ終えると11時過ぎだ。私の自由時間は皆無。疲れ切っていた。夫は前任から引き継いだ赤字の会社を建て直すのに必死で家族を顧みる心の余裕はなかった。
私は子どもたちについついつらく当たっていたのだろう。ある日、次男が言った。
「お母さんはどうしていつも怒ってるの」
私は彼の気持ちに向き合うこともせず、「うるさい」と一喝してしまった。
そんなとき、このお土産である。それは、大きく口を開けて笑っている素焼きの人間。メッセージがついていた。
「くらべてごらん」
一瞬、ガツンと一撃を食らった感じがした。
その時から今日まで30年、自分を戒めるために目につく所に置いていたのだ。粉々になったそれを見て、しまったとは思ったが、もう許してくれたんだよねとも受け取っている。
宮崎市 若杉英子 2011/3/17 毎日新聞女の気持ち欄掲載
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