はがき随筆・鹿児島

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「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

ひと昔

2011-09-21 18:09:36 | ペン&ぺん
 鹿児島支局には、県内各地で編集される団体の機関誌や小冊子などが数多く送られてきます。もちろん、すべてに目を通すことはできないほどの数量ですが、「おやっ」と思う文章に出会うこともあります。
 その一つ。支局にいただいてから、やや月日が経過してしまいましたが、指宿市で発行されている詩誌「野路」(94号)に、吉野せいさんを紹介した一文を見つけました。吉野さんは1899年生まれの女性作家。70歳を過ぎて1970年に「洟をたらした神」を刊行し、同書で大宅壮一ノンフィクション賞を受賞しました。
 福島県の山村に生きる子どもたちを素朴に、かつ骨太に描き出したことで知られています。受賞作の題名「洟をたらした神」は、まさにハナタレ小僧の子供らを、いきいきと描いたものだったと記憶しています。表題作を読んだのは、私の高校時代。懐かしい記憶がよみがえりました。
 県内で執筆活動を続けている児童文学同人誌「あしべ」の第7号も、いただきました。こちらは詩あり、随筆あり、創作ありで楽しい冊子になっています。会員が寄せた方言に関する次の一文に目を引かれました。
 「昭和41年、小学校では標準語の教育が推進されていた。標準語を話せるようになるため方言を使うことを禁止された。先生の指導で、クラスに方言係が置かれ、方言を使った児童の名と使われた方言がノートに記され、先生に報告された」
 文章は、今や方言の味わい深さが見直されていると続きます。
 吉野せいさんの作品にしても、標準語教育にしても、ひと昔前の出来事かもしれない。だが、時折、思い出してしかるべきものです。今という時代を顧みるため数十年前と見比べることは決してムダではない。いくつかの文章を読み、そんな思いを深くしました。
 鹿児島支局長 馬原浩 2011/9/19 毎日新聞

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