イギリスで開催中のラグビー・ワールドカップで、南アフリカを相手にまさかの勝利を収めた日本代表。最大の見どころは試合終了間際、相手ペナルティーで得たチャンスで、キックではなくスクラムを選択したことではなかろうか。得点は29-32の点差。キックで3点が入れば同点だが、日本はあえてスクラムを選び、劇的な逆転トライで5点を挙げた。「同点じゃなく、勝ちに行くという気持ちだった」とリーチ主将は語っている。
思い出したのが「死闘」とも呼ばれる1987年、関東大学対抗戦の早稲田ー明治戦。約8分間に及ぶロスタイムで、3点を追う明治は何度もペナルティーキックのチャンスを得るが、このときも明治はキックではなくスクラムを選んで早稲田を追い詰める。守る早稲田と攻める明治。グラウンドには雪が残り、テレビ画面には、選手の体からもうもうと立ち上がる湯気。重戦車といわれた明治のフォワードの攻撃をしのぎきった早稲田が勝ったが、今も語り伝えられる試合になった。
日本代表でもう一つ思い出したのが、キックで勝利に貢献した五郎丸歩選手の母校、佐賀工業高校だ。佐賀支局で働いていた20年ほど前に何度も取材に通ったが、なにしろ佐賀県内では向かうところ敵なしで、県大会では100-0で勝つことも珍しくなかった。
ところが覚えているのは、逆に佐賀工業に敗れたチームのとある場面。既に100点近い差がついているのにキャプテンが最終盤、選手を集めて気合いを入れた。「(ゲームは)今からだっ!」。敗退が見えているのに、このひと言で選手は奮いたった。このあたりが勝敗だけではない高校スポーツの楽しさだろうか。
国内でもラグビーシーズンがやってくる。〝花園〟と呼ばれる高校の全国大会を目指した県予選も開幕間近。鹿児島でどんなドラマが見られるのか今から楽しみだ。
鹿児島支局長 西貴晴
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