かつて北朝鮮の寧辺に住んでいた。今、核で話題の地である。広々とした台地と清流があり、山にカッコウが鳴き、真夏でも涼しい。山々はツツジで覆われ、風光明媚な所であった。
敗戦で放り出された日本人は、何の助けも得られず、家も財産も捨てて歩いて帰るよりすべは無かった。
「2歳以下の幼児は絶対無理」という責任者の言葉に皆うなずいた。現地の人に預けるようにと胸のつぶれる思いで決めた。これが今生の別れになろうとは誰も考えなかった。必ず迎えに来るという約束だった。
連れて歩いた幼児は炎天下に耐えられず、次々と死んでいった。振り絞る母親の泣き声に皆が泣いた。なるべく大きな涼しい風の吹く場所へそっと寝かせて立ち去った。
野宿の夜は怖いほど静かだった。降るような星、明る過ぎる月、夜なのに空が青い。何も良いことは無かったが、夜空の美しさを忘れない。
夜半に野犬がほえる。オオカミのように気が荒い。どこからか死んだ赤ん坊をくわえて走り去った。皆は手を合わせて祈るのみ。
預けた幼児も国交なくば迎えにも行けず、六十余年が過ぎ去った。きっと親子とも涙がかれるほど泣き明かしたに違いない。
私は問いたい。戦争って何ですか。幼い子が何か悪いことでもしましたか。
大分県竹田市 三代律子(74)
毎日新聞女の気持ち 2008/11/7掲載 写真はkenさん
敗戦で放り出された日本人は、何の助けも得られず、家も財産も捨てて歩いて帰るよりすべは無かった。
「2歳以下の幼児は絶対無理」という責任者の言葉に皆うなずいた。現地の人に預けるようにと胸のつぶれる思いで決めた。これが今生の別れになろうとは誰も考えなかった。必ず迎えに来るという約束だった。
連れて歩いた幼児は炎天下に耐えられず、次々と死んでいった。振り絞る母親の泣き声に皆が泣いた。なるべく大きな涼しい風の吹く場所へそっと寝かせて立ち去った。
野宿の夜は怖いほど静かだった。降るような星、明る過ぎる月、夜なのに空が青い。何も良いことは無かったが、夜空の美しさを忘れない。
夜半に野犬がほえる。オオカミのように気が荒い。どこからか死んだ赤ん坊をくわえて走り去った。皆は手を合わせて祈るのみ。
預けた幼児も国交なくば迎えにも行けず、六十余年が過ぎ去った。きっと親子とも涙がかれるほど泣き明かしたに違いない。
私は問いたい。戦争って何ですか。幼い子が何か悪いことでもしましたか。
大分県竹田市 三代律子(74)
毎日新聞女の気持ち 2008/11/7掲載 写真はkenさん
作者と同い年の私は、戦争の残酷さを今でも胸が痛くなるほど思い出します。
誰もが平和を願いながら、紛争の絶えない愚かしさ…。
「地には平和」のメッセージを伝えましょう