はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

私は問いたい

2008-11-08 17:44:20 | 女の気持ち/男の気持ち
 かつて北朝鮮の寧辺に住んでいた。今、核で話題の地である。広々とした台地と清流があり、山にカッコウが鳴き、真夏でも涼しい。山々はツツジで覆われ、風光明媚な所であった。
 敗戦で放り出された日本人は、何の助けも得られず、家も財産も捨てて歩いて帰るよりすべは無かった。
 「2歳以下の幼児は絶対無理」という責任者の言葉に皆うなずいた。現地の人に預けるようにと胸のつぶれる思いで決めた。これが今生の別れになろうとは誰も考えなかった。必ず迎えに来るという約束だった。
 連れて歩いた幼児は炎天下に耐えられず、次々と死んでいった。振り絞る母親の泣き声に皆が泣いた。なるべく大きな涼しい風の吹く場所へそっと寝かせて立ち去った。
 野宿の夜は怖いほど静かだった。降るような星、明る過ぎる月、夜なのに空が青い。何も良いことは無かったが、夜空の美しさを忘れない。
 夜半に野犬がほえる。オオカミのように気が荒い。どこからか死んだ赤ん坊をくわえて走り去った。皆は手を合わせて祈るのみ。
 預けた幼児も国交なくば迎えにも行けず、六十余年が過ぎ去った。きっと親子とも涙がかれるほど泣き明かしたに違いない。
 私は問いたい。戦争って何ですか。幼い子が何か悪いことでもしましたか。
   大分県竹田市 三代律子(74)  
   毎日新聞の気持ち 2008/11/7掲載 写真はkenさん

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2 コメント

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戦争 (オレゴンローズ)
2008-11-11 09:14:58
歴史は闘争で流された血で満たされている。。なんと悲しい話でしょう。戦争に巻き込まれた幼子や年取った方には何の罪もありません。又戦争で若くして散っていった方の死を悲しみます。平和な世界を築くのは政治家に任せるだけではなく、小さな私たちからはじめなければいけないこと。。のように思いますが。オバマ氏が大統領に当選され、いっそうそのような願いを持っています。それにしても、夕の空に一つ輝く星は印象的ですね。素晴らしい写真です。
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Unknown (アカショウビン)
2008-11-11 11:51:53
オレゴンローズさま
作者と同い年の私は、戦争の残酷さを今でも胸が痛くなるほど思い出します。
誰もが平和を願いながら、紛争の絶えない愚かしさ…。
「地には平和」のメッセージを伝えましょう
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