はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

役割分担

2012-05-11 20:50:47 | はがき随筆
 母の一年祭には春休みだったので次女一家が帰って来てくれた。5月の連休には長女たちが帰って来た。夫亡き後、子どもたちがいてくれて本当に心強い。
 長女と次女は性格が全く違う。ゆえに私に対する役割もおのずと決まっている。毎日のように私に電話を入れて、安否確認と話し相手をしてくれるのは心配性の次女。長女は細々とした処理係。例えば欲しい本やCDなどをネットで注文してくれる。調べものも。
 次女は徹底した断捨離派で私にも片付けを強要する。長女は「思い出もあるし捨てきれないよね」と言ってくれる。
  霧島市 秋峯いくよ 2012/5/11 毎日新聞鹿児島版掲載

「心のサプリ」今後も楽しみに

2012-05-11 18:13:25 | 岩国エッセイサロンより
    岩国市  会 員   中村 美奈恵

日曜版に心療内科医の海原純子さんのコラム「心のサプリ」が復活したのがうれしい。以前、彼女の言葉に何度も救われたことがあり、今も切り抜きを保存している。
 3、4月はとても忙しかった。長男が大学卒業と就職に伴い転居し、三男は中学に入学した。仕事も忙しく、息が切れそうだった。そんなとき、ふと居間のピアノに向かおうという気になった。ほんの30分、一人きりで弾いたが、不思議なことに肩の荷がすうっと下りたような気がした。

手元にある切り抜きにこんな趣旨のことが書いてある。「人は誰でもパーソナルタイムがないとイライラしがちになる。一人の時間を持つと、自分の心と向き合えてほっとする。忙しい日が続いた後は、一人の時間も大切ですよ」

ピアノで自分を取り戻した私は、息子に穏やかに接することができた。大切なことに気付かせてくれたり、元気づけて前に進ませてくれる「心のサプリ」を今後も楽しみにしている。

(2012.05.11 毎日新聞「みんなの広場」掲載)岩國エッセイサロンより転載

「首を洗って待つ蘭」

2012-05-11 14:16:11 | 岩国エッセイサロンより
2012年5月11日 (金)

 岩国市  会 員   山本 一

「何と長持ちするねえ! ひょっとしたら丸一年咲いたままだったりして」と妻に言う。しばらくして妻が「葉脈が切れている。造花みたい」と。何ということだ。  

この蘭は昨年10月、妻が手作りパン屋を開店したお祝いに頂いたものだ。たくさん頂いた鉢植えの中でも、とりわけ長持ちする花だと度々話題にした。妻は毎日水やりをし、大切に育てた。届け主には年賀状で「まだ咲いています」と書いて出したとか。

真実が分かった途端、お払い箱では可哀そう。それに、何だかバツが悪い。今も、鉢植えの仲間の中で首を洗って鎮座。

(2012.05.11 毎日新聞「はがき随筆」掲載) 岩國エッセイサロンより転載

花とカラスと

2012-05-10 13:14:37 | はがき随筆


 体調はまあまあ、睡眠も足りているはずなのに頭がポワン。こりゃいかん。コーヒーを飲んだが効き目なし。
 数独に挑戦したら時間はかかったが、クリアできた。まだぼけてはいないとホッとする。
 外の空気に当たろうと玄関から出た途端、パッチリまん丸い目の花花花……が私に視線を向けた。太陽の光を浴びて色あざやかに、はち切れんばかりに咲き開きオーラを放つ。
 たちどころにシャキッとなれた。ありがたや!
 歩き始めたらカラスがカーカーと。「ご声援 ありがとうございまーす」
  鹿児島市 馬渡浩子 2012/5/10 毎日新聞鹿児島版掲載

ヨモギ摘み

2012-05-09 17:34:05 | はがき随筆


 私の働く店では赤飯、餅、おはぎなどを作っている。毎年春にヨモギ摘みがある。急斜面の土手や草やぶに分け入り重労働ではあるが、新芽を摘む快感は疲れを忘れさせる。ウグイスの声を聞き満開の桜の下や、川のせせらぎに添ったり、きらめく海を眺めたりと心弾むのだ。
 摘んだヨモギは従業員総出で選別し洗い、ゆで、絞り、茎などを除き臼でつき、さらに細かい繊維を取り、春の香りが冷凍保存される。手間ひまかけたおいしいヨモギ餅ができるのだが、今年で店は閉められる。ふくよかな母の手のような店がなくなるのはとても残念である。
  出水市 塩田きぬ子 2012/5/9 毎日新聞鹿児島版掲載

新1年生

2012-05-08 10:15:56 | はがき随筆
 貸していた家庭菜園が戻ってきた。退職して野菜作りにはまっている友が、野菜作りの面白さを話にきた。主人が「そんならつくっみろかい」。早速、草刈り機と耕耘機で耕し始めた。1ヵ月ほど耕し店の勧めで春キャベツ、インゲン、トウモロコシを植えた。芽が出てくるとうれしくて日参となる。店先の苗が気になりスイカ、カボチャ、ピーマンなど植えてみた。
 収穫までは雨風、日照り、鳥獣被害もあると思うが、早くも孫に「ジジ、ババが作ったスイカとトウモロコシを送るから」と。農業1年生がスタートしたばかり。雑草や青虫と格闘中。
  阿久根市 的場豊子 2011/5/8 毎日新聞鹿児島版掲載

花見で川柳

2012-05-08 10:01:23 | はがき随筆
 美味しいお弁当ですよの一言に、入会2年目の不真面目生徒は川柳講座の花見の誘いにのった。木漏れ日の下でにぎやかに弁当をほうばりおなかも満たされた頃、初めての試みなんだけどと、先生はバインダに短冊とペンを挟んで配られた。
 お題は「だしぬけ」と「餌」。制限時間30分。うなだれながら散らばり、指を折り始める。選者は2人。6人で勝ち抜き戦。3句しか詠めなかった中の1句が最後まで残っている。1年生が花◎をもらった気分の句は
   だしぬけに
     年を聞かれて
       さばをよみ
  薩摩川内市 田中由利子 2012/5/4 毎日新聞鹿児島版掲載

油断大敵

2012-05-08 09:55:08 | はがき随筆
 前掛けをして私は久しぶりにたき火をした。家の垣根の剪定くずをどんどん燃やす。
 と、何やらきな臭い。煙が太もも付近から出ている。何と前掛けに火がついている。アッチチ、あわてふためき手ではたいてやっと消す。なんとなく『かちかち山』のタヌキになった気がした。あぁ、びっくり!
 2日後、屋根上まで伸びたクスノキを私は電動のこで切っていた。枝がはねて、着ていたセーターを、のこに約20センチ切られた。セーターは私の身代わりに切腹。厚いセーターを買ってくれた妻に感謝した。 不覚。
 つくづく油断大敵だと思う。
  出水市 小村忍 2012/5/5 毎日新聞鹿児島版掲載

生きる

2012-05-08 09:47:28 | はがき随筆
 「靴をしっかりと履いて」「つえは右手でちゃんと持って」。60代の娘の語気が強い。90代の母親は“どこ吹く風”の表情。何となく暖かい待合室の光景。高齢者女性の転倒骨折は股関節が多い。寝たきりになる可能性大。娘はその事を知っている。
 35年前に父が、13年前ら母が逝った。死に目に会えなかった親不孝者。心の中で「幸せだね。すてきかな親娘だよ」とつぶやく。春の陽だまりの中を親娘がゆっくりと歩く。柔らかい風が親娘を包む。限りある時間を慈しむかのように。
 <俺も父ちゃん、母ちゃんに会いてーよ>涙がにじんだ。
  鹿児島市 吉松幸夫 2012/5/6 毎日新聞鹿児島版掲載

久々に…

2012-05-03 20:35:50 | アカショウビンのつぶやき


 ブラームス作曲・ピアノ五重奏曲ヘ短調。
久しぶりにじっくり聴く機会に恵まれた。

室内楽が大好きだった夫は、特にブラームスが好きで、
結婚当初は、レコードがすり切れるまで聴いていたっけ。
その頃の私は、美しい旋律で華のあるモーツアルトの曲を好み、
「ブラームスは重すぎる…」と、敬遠していた。

独り暮らしの多忙な日々に流され、
我が家でじっくり音楽を聴くことなど久しくなかった私に、
今回のコンサートのお誘いは嬉しかった。

でも「ブラームスのピアノ五重奏曲」が、
どんな曲だったか思い出せない。
亡夫愛用のレコードは再生機器が既にない。
ネットで視聴してやっと
「あのときのブラームス…」と気が付いた。

あれから半世紀にもなるんだなあ…と
胸に込み上げる想いを抑えながら聴いた。
素晴らしい演奏だった。

野山の緑が萌え立つこの時期、私はブルーになる。
18年過ぎても、夫の闘病中の記憶がよみがえり切なくなる。
そう言えば、しばらく夢にも現れてくれないなあ…。

あっそうか、コンサートは彼がプレゼントしてくれたんだ、きっと!






闘病記その4

2012-05-03 20:24:44 | はがき随筆
 夫が大腸と肺のがん検診を受けた。結果は共に要精密検査。大腸にポリープが二つある。肺がん検査は前立腺がんの転移進行だと。12年ほど前にも大腸ポリープを切除。がんの転移を予想していたので少しは心が楽になり落ち着いた。ポリープに止まったねと夫に話しかけると、ウンと首を縦に振った。
 大腸がんには特に気を配っていた。お通じは4.5日に1回の割合。野菜嫌いで、水分もあまり取らない。これでは体に変調が表れる。案の定、ポリープ切除の際、400ミリリットルの塩水を約1時間半もかけて飲んだ。夫は車椅子で手術室へ……。
  姶良市 堀美代子 2012/5/3 毎日新聞鹿児島版掲載

写経

2012-05-03 20:16:57 | はがき随筆
 東日本大震災支援の話をお寺で聞いた。復興祈念と鎮魂のために、各地に「祈りの塔」が建設される。その浄財寄進のために、1口1000円の写経をとの話であった。写経ができて、お役に立てればと喜んで申し出た。一字一字心を込めて写経をしながら、被災者の方々に一日も早く心の安らぎを取り戻していただけることを祈念した。
 かねて何もお手伝いできない自分がもどかしく、微力でもお役に立てると思えば、少しは安堵の気持になる。「白隠禅師」のこの写経は、気仙沼に建設中の「祈りの塔」に納められるそうだ。
  鹿児島市 竹之内美知子 2012/5/2 毎日新聞鹿児島版掲載

家出の成果?

2012-05-01 15:22:54 | 女の気持ち/男の気持ち
 この1週間、歯痛の夫は機嫌が悪い。歯医者さんに行けばすぐ治るのに、頑として聞く耳持たずである。今朝だって──。
 「もう、こんな雑煮はいらん。ネギが餅にくっついて食えん。おかゆさんにしてくれ」
 歯医者には行かないで文句ばっかり。料理に苦心する身にもなって……とおかゆを作りながらぼやいて気を静めようとしたが、黙っていられなくなった。
 「歯を治さないと脳に悪いそうですから」
 「歯じゃないっ、庭仕事が次々あって、肩が凝って歯が浮いてるんだ」
 「じゃあ庭なんかしないでください。私は絶対歯が悪いと思うけど」  
 「うるさい! 愛子には分からん」
 こんな分からず屋とは知らなかった。もう我慢できない。昼ご飯の支度なんかするもんか。
 「ちょっと家出しまーす」
 庭の夫に声をかける。
 「ああ買い物か? ゆっくり行っておいで」
 ちっとも分かっちゃいない。ひるんだ心にむちを入れ、デパートへ。服も靴もバッグも気が済むまで買おうと思っていたが、やがてむなしくなってしょんぼりバス停へ。結局、夫がメモっていた差し込み肥料20ケースを買って帰った。
 夫は目を丸くし、そして言った
 「ええっ、愛子、こんな……。よく持てたなあ。ありがとう。明日、絶対歯医者に行くからなあ」
  北九州市 上西愛子 2012/5/1 の気持ち欄掲載

朝のひととき

2012-05-01 15:16:27 | はがき随筆
 退職して10年たった夫。今朝も政治に関するテレビ番組を念入りに見ている。話しかけようとすると「黙っていろ、テレビが聞こえないが」「もう、だったらテレビにご飯を作ってもらえば」、こちらも行きあたりばったりに声かけするから、かみ合わないのは当たり前だが。
 新聞の地方版を読んで驚いた。鹿児島県の夫婦仲が日本一と。思わず夫に話すと即座に答えが返ってきた。「それはうそだ」「本当、我々にとってはね」。お互い顔は合わさずそれぞれ声を出して笑った。いつものことで、変なところで意見が一致するのだ。
  いちき串木野市 奥吉志代子 2012/5/1 毎日新聞鹿児島版掲載

春の訪れ

2012-05-01 10:03:10 | はがき随筆
 降ってわいた婿の単身赴任。残された娘と2人の孫をふびんに思い、隣家に呼び寄せた。
 しまった。甘かった。案の定、実家に居座った。こんなはずではなかった私の人生。入り浸られ、一切合切関わるはめに。てんやわんやの歳月は1年余り。血の病がピークにさしかかった時、女神がほほ笑んだ。保育所に入所決定! ピッカピカの孫が、元気に手を振り、さっそうと朝陽に溶けていく。心が揺れる一瞬がもどかしい。突拍子もない孫語録がありがたい。
 疎ましくさえ思えた孫の存在は、いつしか生きる明日への活力源となった。
  指宿市 池元民子 2012/4/30 毎日新聞鹿児島版掲載