はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

恩師に感謝

2012-11-20 17:31:54 | はがき随筆
 私が7歳の時、父の貴重品である書道用大筆を遊び道具にしたので父が激怒した。
 「誰だ」。私に向かって叱責。「怖い」。夢中で土間に飛び降り、夕暮れ時の庭に逃げた。
 「どこへ?」。床の間の近くの雨戸が開いていたから、部屋に上がりほっと一息。私の早業に怒り心頭の父が笑顔になった。
 その後、中学・高校で父から書を習い、さらに日展審査員のK先生に師事。大筆は私の必要品となり、現在まで数多い生徒たちとの出会いがあり、恩師はすでに他界。
 思い出は脳裏に深く刻まれ、感謝の気持ちでいっぱいだ。
  肝付町 鳥取部京子 2012/11/18 毎日新聞鹿児島版掲載

新燃岳

2012-11-20 17:23:51 | はがき随筆
 あの度肝を抜いた新燃岳の噴火から1年半、どうしてもこの目で確かめたくて登山解禁を待って韓国岳に向かった。先を行く夫から「煙が見えるよ」の一声に、へばりそうな心体に気合いが入り頂上へ立った。見えた!
 黒いフライパンを伏せたように盛り上がり青空にのろしを上げている。エメラルドの池はうそのように跡形もない。ミツバツツジや中岳への道も灰に覆われている。過去に新燃岳を一周した興奮がよみがえり、貴重な経験だったことを改めて知る。山は元気になれるから穏やかでいてほしいと願いつつ下山した。
  薩摩川内市 田中由利子 2012/11/17 毎日新聞鹿児島版掲載

駅跡の風景

2012-11-20 17:17:49 | はがき随筆
 テレビで、トピックスニュースを何気なく見ていると、見覚えのある田舎の景色が映っている。
 説明によると、駅跡を整備して地域活性を進める一事業とのこと。
 48年ほど前、伊集院の高校に通学するため、毎日通ったプラットホームである。
 晴れの日、雨の日も、学生服にカバンを持って、待っていた駅のプラットホームである。
 南薩鉄道の古い型のディーゼルカーに乗るために通った、懐かしい思い出のいっぱい詰まった駅跡である。
 その駅名は吉利駅。
  鹿児島市 下内幸一 2012/11/16 毎日新聞鹿児島版掲載

旅するチョウ

2012-11-20 17:11:45 | はがき随筆


 数年来、庭に来たアサギマダラに印を付けて放している。チョウの大好物のフジバカマを植えていると勝手にやって来るので、それを捕らえるのである。
 毎年平均50頭ほど来るが、印の付いたのは来なかった。しかし、10月22日、くっきりと印の付いた1頭が花にとまった。はやる気持ちを抑えて網で捕り、写真に写し印を付けて放した。ついでに知人に紹介してもらった徳島のOさんに電話した。印から8月22日に久住でFさんが放したものと分かった。長旅の末に、また印を付けられたチョウ。今年来た他の50頭共々、無事に南に渡れただろうか。
  薩摩川内市 森孝子 2012/11/15 毎日新聞鹿児島版掲載

シレイトク

2012-11-20 17:04:38 | はがき随筆
 「家庭にクーラーがないんでみんな困ってんですよ」と知床遊覧船々長。8月21日午前、道東の気温は既に30度を超えていた。船べりの風が心地よい。
 連続した断崖絶壁に鳥たちのコロニーが次々に現れる。「あっ、オジロワシ!」。岩場に羽を休めた雌雄の姿があった。
 温泉の滝、カムイワッカの滝つぼは深い緑色だ。ウミネコの集団が入浴しているように見える。シレイトク<知床>はアイヌ語で地の果ての意味だという。シレイトクは鳥たちの楽園だった。見上げると、シレイトクの空はやさしく、もう秋の気配に満ちていた。
  出水市 中島征士 2012/11/14 毎日新聞鹿児島版掲載

約束

2012-11-20 16:56:30 | はがき随筆
 携帯の着信音。「抗がん剤が効かなくなってさ。女房と水入らずで信州の温泉だよ」。がんは他の臓器へ転移していると聞いた。今のうちにあちこち旅するとも。「だってさ、たまには落ち込むだろう?」「ないね」。こともなげに言う。「若い時さ、土地を買いたいって、オマエに借金申し込んだことあったよな。頭金の50万」。忘れたと友は言う。実際は借りずに済んだ。「本当にありがとな。今でもずっと感謝しているよ」。遠く離れて住むが、やつのことは忘れない。「この次また会おうや」。果たせるか分からない約束をしてケータイを切った。
  霧島市 久野茂樹 2012/11/12 毎日新聞鹿児島版掲載

いちすけ号に父思う

2012-11-16 21:12:06 | 岩国エッセイサロンより

岩小HPより

    岩国市  会 員  片山 清勝

 「日本のエジソン」と呼ばれた岩国市出身の工学博士、藤岡市助は、その故郷に中国地方で最初の路面電車を走らせた。

 それは1909(明治42)年から現在のJR岩徳線開通までの20年間だった。この電車をモデルにしたレトロなバスが、岩国駅ー錦帯橋間で運行されている。

 市助の名前をとって「いちすけ号」と命名された。木製のシートや電車に似せた外観は、乗客をタイムスリップさせる。

 また錦帯橋近くの城下町通りでは、軒下すれすれに走るため、車窓からは趣のある古い町並みが楽しめる。

 そんな城下町を走るいちすけ号を撮っていた。すると運転手が右手を上げて軽く頭を下げあいさつしてくれた。

 観光を大きな旗印にする市にとっていちすけ号は大きな存在。その乗務員のちょっとした心遣いが観光客の心象をよくする。

 電車運行開始の年は父の生まれ年。運転手があいさつをくれた日は父の命日だった。偶然ではあったが、きもちよい一日を過ごせた。

   (2012.11.15 中国新聞「広場」掲載)岩国エッセイサロンより転載

「音色」

2012-11-11 23:12:14 | 岩国エッセイサロンより
    岩国市  会 員   樽本 久美
広島港から宮島を巡るランチクルーズが当たった。快晴で絶好のクルーズ日和。船内で珍しい物を発見した。手動式のオルゴールで、100年前のアメリカのレジーナフォン。「椰子の実」や「おぼろ月夜」「ハッピーバースデー」などを聴かせてくれた。重厚な温かみのある音色だ。

この夏、忙しかった私。神様がご褒美をくれたのかな? のんびり、ゆったり、食事をいただいた。デッキの風もやさしく、ゆるやかな時聞か流れた。今まで聴いたオルゴールの中で最高の音色で、何だか100歳まで生きられそうな気持ちになった。

(2012.11.06 毎日新聞「はがき随筆」掲載)岩国エッセイサロンより転載

「図書館のおかげで毎日充実」

2012-11-11 23:10:09 | 岩国エッセイサロンより
山陽小野田市  会 員   河村 仁美

「今日、図書館行く?」というのが、休日の朝の娘との会話だ。私の家族は無料でいろんな本が読める図書館が大好きだ。

 ずぼらな母は読み聞かせをするわけでもなく、ただ娘の隣で自分の好きな本を読み続けた。そんな母を見ていた娘は、同じように本を読む習慣がつき、読書好きに育った。

 本を読みたいけれど時間がないと言う人がいる。私は、たとえ十㌻しか読めなくても心を休ませてあげる時間をひねり出す。ベッドに寝転がって本を読む。好きな読書をすると疲労やストレスが軽減され元気をもらえる。

 最近は予約システムを利用する頻度がふえた。「この本は他の図書館から借りた本です。大事に取り扱って、返却期日を必ず守ってください」裏を見たら岡山県立図書館と書いてある。県外の図書館からも本を借りられるシステムに感激した。

 秋の夜長は読書に最適。読書は「心の栄養剤」と本を開ける。もちろん図書館の本だ。自分の時間があるお陰で毎日が充実したものになっている。

(2012.11.04 朝日新聞「声」掲載)岩国エッセイサロンより転載

「母親の選択」

2012-11-11 23:06:25 | 岩国エッセイサロンより
2012年11月 4日 (日)
  岩国市  会 員   安西 詩代
2匹が戯れてボールのように転がってゆく。友人の倉庫で4匹の子猫を産んだ野良の母猫は、2匹を人の目につく所に運び、2匹は手元に置いた。4匹を育てるのは無理だと悟り「2匹一緒なら寂しくないだろう。可愛がってください」とばかりに友人に託した。
 数年前、私に懐いていた野良猫が3匹の子猫を産み、そのうちの1匹を飼おうと家に入れた。母猫は家の周りを「ミャオー、ミャオー」と必死に大声で呼ぶ。それに呼応して子猫も「ニャオニャオ」と力いっぱい鳴く。とうとう私は諦めた。今は両方の母猫の心が分かる。

(2012.11.04 毎日新聞「はがき随筆」掲載)岩国エッセイサロンより転載

山口国体が結んだ縁

2012-11-11 23:04:19 | 岩国エッセイサロンより
   岩国市  会 員  山下 治子

 初物のレンコンを届けてくれたのは、昨年の山口国体で知り合い、活動を共にした仲間の一人だった。

 今年の岐阜国体で、山口県は15位だったが、昨年は悲願の優勝を勝ち取るために、山口県全体が燃えた。

 地元ではカヌー競技が催され、私は地域の主婦たちと、選手の食事作りを担当した。初対面の人が多く、不安だらけのスタートだったが、わが子のような選手たちのためにと、母心を持っての集団行動で心意気が高まった。

 選手たちと燃えた10日間を昨日のように思い出し、話が弾んだ。会場となったダム湖を仲間と訪れて、今は静かな湖面を眺めた。

 「この年で、友達が増えたのがうれしいね」と彼女が言った。言わずもがな、私もうなずいた。

 頂いたレンコンは、選手たちに「ぶち好評」だったレンコンカレーにして、夕食の膳に載せた。1年ぶりの懐かしい味だった。

  (2012.11.04 中国新聞「広場」掲載)岩国エッセイサロンより転載

ツルマラソン

2012-11-11 22:31:14 | はがき随筆
 <冬の使者くる前にランツルマラソン>鳥インフルエンザを恐れ、ツルマラソンは昨年から10月に変わった。種目は3㌔、10㌔、フルマラソンの三つ。参加者は2500人を超えた。
 私は3㌔の部に出た。中学生以上は275人。そのうち70歳以上は29人。号砲一発、競技場を後に田園地帯を走る。黄金色の稲穂がまぶしい。今年は北風がないので楽だ。後半の上り坂で「頑張れ!」「ファイト」の声援が腕振りを強くする。
 ゴールインは笑顔。タイムは16分11秒。全体の101位で年齢別では7位。満足感に浸ってのビールの味は格別であった。
  出水市 清田文雄 2012/11/11 毎日新聞鹿児島版掲載

ウサギって!

2012-11-11 22:22:40 | はがき随筆


 秋風が立つと、みそものが恋しくなる。たっぷりダシをとって残った野菜を使い、みそ汁を作る。里芋、大根を主に、小松菜、薄揚げも。薄揚げと言えば、新婚時代、しゅうとめに頼まれて買い物に行く時、薄揚げが「ウサギ」と聞こえて、ホントに困ったことがあった。田舎では豆腐を買って家で薄揚げを作っていた頃のこと。買い物に行く時に確かめもせず、店でうろうろ。「ウサギって何ですか」と尋ねると、「何に使うの? みそ汁だったらウスアゲでしょう」と助けてもらった。何十年前のことながら、あざやかに記憶がよみがえる。
  鹿児島市 東郷久子 2012/11/10 毎日新聞鹿児島版掲載

はがき随筆10月度

2012-11-10 15:17:07 | 受賞作品
 はがき随筆10月度の入賞者は次の皆さんです。

【月間賞】10日「更地とチョウ」小村忍(69)=出水市
【佳 作】7日「運動会」清水恒(64)=伊佐市
     28日「たまには」永瀬悦子(62)=肝付町

 更地とチョウ 亡き家族の遺品の整理でさえ、なかなか簡単にはいかないものです。それがたくさんの家族の思い出の詰まった、旧居の解体となると、いわば一家の歴史がなくなるようで、寂しさも格別のものでしょう。「断捨離」とかが話題ですが、それも一つの生き方には違いありません。更地に飛ぶチョウに亡父母のイメージを重ねたため、素晴らしい文章になりました。
 運動会 義理の祖母が運動会好きで、どこかで運動会があると弁当持参で出かけていたらしい。単に好きなだけかと思っていたら、ある時、走るのが速かった2人の息子を早く亡くしていた事情を知り、運動会はその子供たちの帰ってくる日かと思い知らされた、という内容です。日常に人生の深奥を感じ取る、深みのある文章です。
 たまには 散歩に出かけただけの文章ですが、精細な色彩感覚と的確な観察力が、美しい文章に仕上げています。とくに「ピンクの雨傘としゃれる」という表現が光っています。毎日の生活の中で、爽快な気分へと転換できる、ささやかな決断と行動をもつことも、やはり生活の知恵でしょう。
 この他に 3編を紹介します。有村好一さんの「村祭り」は、中学時代は、遅れた友達のために、小枝や小石で道しるべを作って村祭りへ誘導したりするなど、知恵と工夫を出し合って過ごしていた。物はなくても、時間はたっぷりあった時代への懐旧の念が、生き生きと描かれています。
 若宮庸成さんの「秋魚の味」は、サンマは昔は七輪で今はロースターで焼くが、はらわたの美味と熱かんはまさしく大人の味である。それにつけても「被災地の秋を思う」という結びは、3.11以来の日本人の心情に見事に触れた文章です。
 田中健一郎さんの「中秋の名月」は、台風接近でつい忘れそうだった中秋の名月を、老母と見ることができ、母はその喜びの表現として名月にとを合わせていた。長寿を自然に感謝するのも日本人の心情で、快い文章です。
  (鹿児島大学名誉教授・石田忠彦)

最高、最高

2012-11-10 14:58:58 | はがき随筆
 県公立学校講師として小学5年生を教え、市学習支援ボランティアとして小学2年生の授業の補助をしている。勤める日の朝は気分上昇である。子供たちは、じいちゃん先生を快く受け入れてくれる。まあ、最高というところか。68歳の時、通信教育で小学校の教諭免許を取得。これが人生を運良く開かせてくれるとは予想もしなかった。通信教育のスクーリングで知り合った学友たちと再会し、京都・琵琶湖に旅したことも。20代、30代の学友は、「昭ちゃん、昭ちゃん」と親しく呼んでくれる。学友も教諭免許も、私へのプレゼント。最高、最高!
  出水市 岩田昭治 2012/11/8 毎日新聞鹿児島版掲載