はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

善悪の彼岸から

2014-10-11 21:17:57 | はがき随筆
 「怪物と戦う者は、自らが怪物とならぬよう心せねばならない。なぜなら、深淵を見つめる時、深淵もまたお前を見つめ返すのだから」
 哲学者、ニーチェの「善悪の彼岸」から。
 私が、あることに憤慨していた時、17歳の一人娘が「お母ちゃんに見せたい言葉がある。ちょっと待ってて……」と言い、書いてくれたニーチェの言葉である。怒り狂って、同じような怪物の仲間にならないでね。心配だよという気持ちでいっぱいだったのだろう。
 戒めの言葉としてしっかりと壁に貼った。
  鹿児島市 萩原裕子 201/10/11 毎日新聞鹿児島版掲載

御乗艦記念碑

2014-10-11 21:08:36 | はがき随筆
 潮騒と共に松林を渡る風に乗ってかねや太鼓、三味線の音と歌声が心地よく響いてくる。碑の周りの広場で碑を取り囲んで老若男女が踊りに興じている。
 数本の桜の花が季節を教えてくれる。農繁期突入を前にした一時の休息。花見運動会を名として楽しみの少ない頃の地区総出の慰安の1日。かねては食べられない巻きずしがとてもおいしかった。準備した母に息抜きはあったのだろうか。今でもその味は忘れられない。
 今は訪ねる人も少なく寂れた中にひっそりとたたずんでいるその碑は、皇太子裕仁親王殿下御乗艦記念碑。
  いちき串木野市 新川宣史 2014/10/10 毎日新聞鹿児島版掲載

愛犬は17歳

2014-10-11 21:02:34 | はがき随筆
 愛犬「ラン」は17歳。ダックスフント。息子が「飼えなくなった」と、我が家へ連れてきてから16年。血統書付きらしい。来客の多い我が家の中では飼えず、外につなげている。長年、番犬として来客を知らせてくれたが、近年、白内障と難聴ですっかり年老いた。何よりも雷と稲妻が大嫌いだったが、怖がりもしなくなり、餌をカラスに横取りされてものんびり昼寝。雷に関しては「よかったね」と……。何を考えているのか、無我の境地でいる姿を見ると今は亡き実母の認知症になってからの様子と重なり、悲しさが増す。まだまだ長生きしますように。
  阿久根市 的場豊子 201/10/9 毎日新聞鹿児島版掲載

ささ舟

2014-10-11 19:31:17 | はがき随筆


 幼少の頃、ささ舟で遊んだことを孫娘に話したら、ささ舟の作り方を教えてと頼まれた。早速、近くの水路沿いに竹取に出向いた。ササで作る舟を見たことがなく、興味ありげでササ採りから着いてきた。一舟一舟作る度に上手に作れるようになった。出来上がったささ舟に夏スミレをひとひら、ひとひら載せた。いざ進水式。水に浮かべ流す。一舟ごと、走って追いかけ、見えなくなるまで見送る孫娘が「誰が見るかな」と。振り向いた孫娘の額に汗が光る。汗の一つ一つが田舎の思い出になればと思う。手をつなぎ帰る夕陽が大きく赤い。
  出水市 宮路量温 2014/10/8 毎日新聞鹿児島版掲載

気負いせず

2014-10-11 19:24:26 | はがき随筆
 もう17年も陶芸に打ち込んでいる妻は、今日も生き生きと新作に取り組んでいる。週2回教室にいそいそと行く。それに比べ、私は取りえもなく満75歳になってしまった。今まで詩、俳句、随筆と挑戦したものの、10年も続かずダウンしてしまう。ただ、今は1日に日記2㌻を書くくらいである。情けなき自分の存在の現実を見つめる。
 どうにか充実した生活を創り出すことが出来ぬか。妻に見習って10分の1でも成果を上げたい。後期高齢者の自分に「気負いせずに、1日に30分ずつでもよい。ぼちぼちゆっくりね」と言い聞かせている。
  鹿児島市 岩田昭治 2014/10/7 毎日新聞鹿児島版掲載

プラハの街で

2014-10-11 19:16:52 | はがき随筆


 午後からの自由時間に教会を訪ねた。ノルウェーから来たという約20人のアマ混声合唱を聴いた。ハーモニーが美しい。聖歌や各国の民謡、そして最後の「家路」に胸がジーンとなった。アンコールの拍手。ヴェルタヴァ川に架かるカレル橋には観光客や大道芸人であふれていた。花嫁さんもいた。体にピタリとしたミニ丈の簡素なワンピースに髪飾り。手には小さな花束。寄り添う新郎。路上の演奏曲に2人は踊り出した。父親らしい人と兄弟らしい2人も踊る。幸せいっぱいの笑顔で踊る家族を取り囲む。私たちは盛大な祝福の拍手を送った。
  霧島市 秋峯いくよ 2014/10/6 毎日新聞鹿児島版掲載

昭和

2014-10-11 19:10:14 | はがき随筆
 昭和天皇実録。昭和の世で半世紀生きたぼくには、昭和は懐かしく耳に心地よい。つい、昭和写真集に目がゆく。著名な写真家が撮ったもの、1人が撮り続けたもの、共通するのは戦争を挟んでの激変である。モボ、モガから一途に戦争協力者へと変貌する庶民の姿が映しだされて愕然とする一方、青空だけが残ったような敗戦からは、ぼくの成長と重なる。衣類を食べ物に替える母の姿も、その食料で飢えをしのいだのも昭和であり、平穏を手にしたのも昭和であった。昭和は遠くなったが、あの教訓で得た平和は永遠であってほしい。
  志布志市 若宮庸成 2014/10/5 毎日新聞鹿児島版掲載

信じてほしい

2014-10-11 14:30:24 | 岩国エッセイサロンより
2014年10月11日 (土)


      岩国市    会員   山本 一

「私が先で良いのね」「いや、俺が先だ」「だって、間違っても妻より先には逝きたくない、と書いてあったよ」

妻は毎週日曜日に手作りパン屋を開店。私は毎回のビラにエッセーを連載している。妻は風邪も引かないし、下痢は結婚以来一度もしない。私は、風邪はよく引くし、すぐに下痢する。腹が立つが、先に死んでもらっても困るし、これで良いのだ。そんな趣旨の、最後の1行を書き間違えた。

「やっぱり本音は私に先に逝ってほしいのね」と根に持つ様相。趣味の川柳を寝室に貼った。「俺よりも先に逝くなと妻に言う」



  (2014.10.11 毎日新聞「はがき随筆」 掲載)岩国エッセイサロンより転載

聴こえた?

2014-10-11 07:16:13 | 岩国エッセイサロンより


2014年10月10日 (金)

    岩国市  会員  横山 恵子


 脳梗塞の後遺症に苦しんだ夫。帰省した息子に「カラオケがリハビリになるんだって」と言うと、翌日、私たちを連れカラオケ店へ。まず、夫が「黒田節」を披露。思わず、息子が「お父さん、うまいじや」と声をあげた。

私には「お母さんが、あれほど下手とは思わんかった」。

以後、「黒田節」は夫の十八番。しかし、声が出にくくなりカラオケから遠ざかった。少しでも元気づけたいと夫の十八番をフルートで練習した。

 だが、そのさなかに急死。先日の納骨前夜、遺影を前にして吹いた。もう二度と会えぬと思うと写真の夫がにじむ。


   (2014.10.10  毎日新聞「はがき随筆」 掲載)岩国エッセイサロンより転載

極楽の余り風

2014-10-05 04:55:47 | はがき随筆


 毎日数回、境内にある手水鉢に早朝から来て、ジージーとさえずりながら水浴びをするヤマガラは、いかにも涼しげだ。
 夏の昼下がり、うだる暑さをかきたてるアブラゼミの鳴き声は遠くなり、夕方には虫たちの声がにぎやかになってきた。
 この季節になると、「秋来ぬと目にはさやかに見えねども風の音にぞおどろかれぬる」と口ずさんでしまう。気温35度以上の猛暑日が続いた今夏も、いつの間にか秋の気配を肌で感じるようになった。ああ! この風を「極楽の余り風」というのかな。生かされている老夫婦に至福の一時を味わわせてくれる。
  志布志市 一木法明 2014/10/4 毎日新聞鹿児島版掲載

紅白のハイビスカス

2014-10-05 04:36:46 | はがき随筆




 

今年も白のハイビスカスにピンクが混ざった花が咲いた。一昨年から咲き出したのだが、昨年には一輪そっくりピンクが咲き、今年は見事に半々の花が咲いた。このような現象はどうして起きるのか、種子島開発総合センター「鉄砲館」の植物先生に写真を持参して尋ねてみた。
 「ハイビスカスの白は珍しく数が少ない。ピンクを改良して白を作り出したのではないか。そのためにピンクが顔を出すことが考えられる」という。
 買い求めてきた時は白一色だったのだから、ピンクのDNAが目覚めたのかも……。ことによったら貴重な存在?
  西之表市 武田静瞭 2014/9/29 毎日新聞鹿児島版掲載
 写真は武田さんのブログより

孫娘

2014-10-03 15:30:53 | はがき随筆
 「息子が結婚するまでは」。そう思いながら7年がたった。
 「いちご」大好きな4歳の孫娘がいて、2人目が誕生した。
 心優しい嫁と可愛い孫。
 遠くにいてもブログとメールが届く。〝浮き浮き〟の日が楽しくて、もっと孫たちとたくさん接したい。
 料理した皿を「私が運ぶからネ」とテーブルまで1品ずつ盆に乗せてゆっくりと。
 ばあちゃんの胸がキューントなります。
 痛みの消えない体。それでもゲームやシャボン玉、あちこちドライブも楽しかったネ。
  鹿屋市 三隅可那女 2014/10/3 毎日新聞鹿児島版掲載

ありがたい

2014-10-03 15:24:00 | はがき随筆
 目は裸眼、耳は生まれたまま、足は使いに使ってまだ健在。口は多弁ではないが、必要を告げる程に働き、脳もこの瞬間まではどうにか。思えば80年、この方お世話になりっぱなしで感謝あるのみです。大きな病気は胆のうを手術。インフルエンザで入院を2回しました。小さな石のいたずらにこらえた痛み。薬の副作用に伴う恐怖、不快は1度きりでもういいです、と叫びたくなる体験をまでいたしました。今後、元気で長生きしたいという願いを実現していきたいものです。新聞を読み、花を植えて、語り、歩いて、食べて、人と出会ってです。
  鹿児島市 東郷久子 2014/10/2 毎日新聞鹿児島版掲載

ぐずたらべぇ

2014-10-03 08:35:15 | 岩国エッセイサロンより
2014年9月30日 (火)



  岩国市  会 員   山下 治子

 5年日記をつけていて気がついた。
この時期、「ぐずたらぐったり、しんどいえらい」とため息ばかり書いている。
正月、ゴ-ルデンウイーク、盆と主婦の三大多忙期が済み、人の出入りが収まるとがっくり気が抜ける。
なのに定まらぬ天候に振り回された今夏は、カビと雑草が思い切り繁殖した。
体は重いが見過ごせない。夫と手分けして草刈りとカビ清掃を始めた。
昼食に冷やしソウメンのリクエスト。食べる人には涼感だけど、作る者には蒸し風呂なのよねと、心がぐずる。

食後、ソファでごろ寝してしまった。テーブルの食器が片付いていた。あっ……。


    (2014.09.30  毎日新聞「はがき随筆」掲載)岩国エッセイサロンより転載

2014-10-01 23:55:36 | はがき随筆
 字の地名が「野堂」という仏教地名らしい墓地団地がある。
 その一角に家の墓地もある。
 街の墓と違って、田舎の墓地は彼岸の中日というのに、人一人いない。 墓の中にはきれいに花が飾られた所もあれば、枯れたままの花の所もある。
 崩れかかった墓は訪れる人もなく、寂しく悲しい気にさせる。家の墓には34柱の無銘者の合葬銘がある。
 しかし、墓も建てられないほどの貧しさの中、亡くなった先祖を思う時、此岸の今に感謝したい。
  鹿児島市 下内幸一 2014/10/1 毎日新聞鹿児島版掲載