はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

フォークダンス

2015-09-21 10:19:23 | 女の気持ち/男の気持ち
 近所の高校の体育祭をのぞいてみた。
 プログラムを見ると、フォークダンスに出られるのは3年生の女子全員と男子選抜とある。共学だが女子の方が多いのだろう。招集場所からぎこちなく手をつないだ2人組がフィールドに向かって小走りで駆けて行く。時々「そこの2人、ちゃんと手をつなぎなさい」と教師に怒られているのがおかしい。
 肩と腰のところで手を重ねる。あんなふうに校内で手をつないだら「不純異性交遊」のかどで校則違反として挙げられた末、謹慎ものだ。握手という習慣が無い日本では、おおっぴらに同世代の異性の手を握れる貴重な機会がフォークダンスなのだから、もっと勇気を出して楽しみながら手を取り合って踊ればいいのに。もったいない。
 「ほら男の子は横に並びなさい」と男性教師にせき立てられ、「ちゃんとエスコートしてあげなさい」と女性教師に追い打ちをかけられている男子生徒の困ったような照れたような表情。どの2人も無言で目を合わさずにすましているか、よくて照れ笑いと苦笑いを足して二で割ったようなはにかみを浮かべるので精いっぱいだ。
 「だらしない。しっかりしろよ」と、かつて自分もそうだったのに、ついやきもきしてしまう。
 あのどっちつかずな距離から近づくことも離れることもできず、気恥ずかしげにしている彼らの初々しさに、自分が嫉妬していたのだと気付いたのは、皆が退場したあとだった。
  出水市 谷口歩 2015/9/20 毎日新聞、男の気持ち欄掲載

ウカゼと停電

2015-09-21 10:05:31 | はがき随筆
 ようやく暑さが峠を越した頃、ウカゼが大暴れして去っていった。緊張感のない生活にどっぷりだったので、台風被害と停電にはジョジョンヒッタマガッタ。遠い遠い昔の話、あの頃詳しい台風情報はなく緊張感をもって風向きなどで、ウカゼがクッドと雨戸をツッパイなどで支え備えていた。夜はきまって停電、ろうそくで十分だった。
 便利さに慣れきってしまった昨今「停電にチイワイチイワイ」、ご飯も炊けず生活もできない。この便利さで得ている物、失っている物を改めてもう一度考えさせられた。
  さつま町 小向井一成 2015/9/20 毎日新聞鹿児島版掲載


にがごい

2015-09-21 10:04:45 | はがき随筆
 夏野菜の定番、ゴーヤーは、にがうり、レイシなどと親しまれる。東南アジアから中国、沖縄へと伝わり栽培が始まった。ヨーロッパでは「ビターキューカンバー」と、その名の通り観賞用だったとか、苦みは食欲を増し夏バテ防止にぴったり。我が家ではゴーヤーチャンプルーの出番は多かった。種を除きニガゴイとニンニクを油で炒め、更にベーコンと豆腐を加え鶏ガラスープの素で味を整える。最後に卵を流し入れ完成。減塩に努め、素材に含まれる塩分だけで調理した。ゴーヤーの苦みを減らすべくレンジを使うのがポイントかも、お試しあれ!
  鹿屋市 中鶴裕子 2015/9/19 毎日新聞鹿児島版掲載

2015-09-21 10:03:59 | はがき随筆
 選択物を干し終えて空を見上げたら、北海道の形に似た雲を見つけた。礼文島、利尻島にも見える雲を見ていると、旅の思い出がよぎる。「あれあれっ」。島が離れていく。目で追っていると、北海道全体の雲も青空に広がって消えていった。
 雲はさまざまな形を作り、いろいろなことを想像させてくれる。見ているだけで楽しくなる。動物の形に見えたり食べ物にも変わっていくから面白い。もこもこと盛り上がった雲は、サクランボがのった「白熊」に見えてくる。
 「そうだ、白熊の買い置きがあった」と冷蔵庫へ向かった。
  鹿児島市 竹之内美知子 201/9/18 毎日新聞鹿児島版掲載

感謝のみ

2015-09-18 22:17:15 | 岩国エッセイサロンより
2015年9月15日 (火)

岩国市  会 員   横山 恵子

 今年2月ごろから車椅子を使用するようになった89歳の母。左の大腿骨を骨折した。
 手術しなければ骨がつくのに約2ヵ月かかる上に寝たきりになるという。
 弟が「2ヵ月もかかるのは可哀そうだから、手術してもらった方が良いよ」。  
 妹と弟と3人で医師から手術のリスクなどについて話を聞いた。
 痛みから解放されベッドから車椅子に乗り降りできればとお願いした。
 手術2日後、車椅子に座る笑顔の母がいた。想定外の出来事だったが、現代医学と献身的な看護には頭が下がる。

(2015.09.15毎日新聞「はがき随筆」掲載)岩国エッセイサロンより転載

象形文字

2015-09-17 09:37:05 | はがき随筆
 こどもの書く字は、どういうわけか昆虫に似ている。たどたどしいはらいや、迷いのある角がそういう印象を与えるのだろうか。特に『見』という字は、昆虫じみている。横にはみ出した線は足のように曲がり、はらいもはねも、触覚のように伸びている。そのまま土に潜り込みそうな勢いだ。
 彼がこんな字を書くのは、きっと今だけだろう。あり数年たてば、どこかつんとした、よそゆきの字を書くようになるのかもしれない。
 象形文字さながらに自由な線を描く今の彼がいつまでもいとくれたらと思う。
  鹿児島市 堀之内泉 2015/9/17 毎日新聞鹿児島版掲載

藤色の和服で

2015-09-17 09:36:28 | はがき随筆
 父亡き後、母は75歳から一人暮らし。その心境も知らず、実家に行っては気楽に「ではまた」と帰った日々。ある日野菜畑に行くと、地面ぺったりに腰をおろして草取り。「腰が重い」と。子供たちのため丹精こめた尊い産物。みそ、しょうゆは自家製だった。82歳の秋、脳梗塞で即入院。毎日をベッドの中、車いす生活に耐えて13年間。95歳の2月、危篤。生と死のはざまで感謝や別れの言葉を互いに交わせず、闇の中で命は尽きた。花いっぱいの寝棺に藤色の和服は自らの手縫い。来世への旅立ちにそっと小遣いを愛用の貴重品袋に入れてあげた。
  肝付町 鳥取部京子 2015/9/16 毎日新聞鹿児島版掲載

台風15号

2015-09-16 00:43:48 | はがき随筆
 8月25日、鹿児島県の薩摩半島近くをかすめた台風15号には驚いた。
 台風の後、出水の特攻碑公園の桜並木を通りかかると、いつも、春は、人々を楽しませていた樹齢50~60年ほどの大木や太い幹が10本ほど倒れたり,折れたりしていた。出水市の中心街の交差点の信号機は、停電らしく機能していない。
 自宅での植物栽培用の小屋も屋根が吹き飛ばされてしまった。
 なんと、ウスバキトンボが私の自動車のワイパーに挟まれ、黒揚羽がビニールの袋の中に隠れていたのにはびっくりした。
  出水市 小村忍 2015/9/15 毎日新聞鹿児島版掲載


桃色吐息

2015-09-16 00:42:42 | はがき随筆
 秋雨前線が、よく活動しています。世間は憲法9条問題で騒がしい? これは考えれば考えるほど、分からなくなります。
 突然高橋真理子さんの咲かせて咲かせて 桃色吐息……とかメロディーが口から出てきました。そしてギリシャのチプラス首相のしたたかなこと。頭をよぎりました。日本政府は真面目過ぎるのかしら。何が何でもと必死になり、国民や有識者が、もの申しても、聞く耳は持っていないのだと感じております。
 平和、これを維持する。本当にむずかしい。存じております。9条解釈、戦争につながらないこと、ただ祈るばかりです。
  鹿児島市 津田康子 2015/9/13 毎日新聞鹿児島版掲載

45年目の絵手紙

2015-09-16 00:41:30 | 女の気持ち/男の気持ち
 かつて私は大隅半島東岸にある小さな中学校の教師だった。先日、45年前の卒業生から還暦同窓会の案内が届いた。担任した45人の生徒のうち3人が早世し、26人が参加するという。
 当日、出水市から集合場所の中学校へ車で向かった。最後の峠のトンネルを抜けると太平洋が見える。ゆっくりと坂を下る。明らかに過疎化が進んでいる。45人中30人が集団就職したのだ、当然だろう。彼らの実家はまだ存在するのだろうか? 泊まる所はあるのだろうか?
 4時間足らずで学校に着き、私と私の家族の人生のスタート地点に立つ。涙があふれ出す。現在の生徒数は7人だという。
 校門で待っていると、次々に教え子たちが集まって来る。
 「先生、誰だか分かりますか」じっと見つめていると中学時代の顔が浮かぶ。
 「あ、ハルキ」
 大自然の中で共に遊び暮らした彼らの名はよく覚えている。が、顔と一致するかが心配だった。生徒同士も同様のようだ。
 「あれは誰?」
 私を遠くから見て問う声。しばらく誰も答えない。
 「先生だがね」
 全員が笑った。
 3人の墓参りの後、宴会場へ。アラ、イシダイ、オウギガニ……。郷土料理を見て驚きの声が上がる。そう、彼らも久しぶりなのだ。ここでも時間は矢のように過ぎた。
 出水にもどってもまだ余韻に浸っている。そうだ、42人全員に絵手紙を書こう。私を育ててくれた彼らに感謝を込めて。
  鹿児島県出水市 中島征士 2015/9/12毎日新聞鹿児島版掲載

大型台風15号

2015-09-16 00:35:46 | はがき随筆
 8月23日に台風15号の情報を見る。出水地方を直撃だ。24日の台風情報でも、進路のど真ん中から出水は逃れようがない。風速50㍍強の大型台風に、居ても立ってもいられず、私は屋根にネットをかぶせた。打ち付けも終えて「来るなら来い」と私は腹を据えた。
 25日の午前2時ごろから4時までは、生きた心地がしなかった。台風が通過した夜明けに庭に出た。屋根瓦が11枚も吹き飛び,雨漏りがしていた。大型台風の直撃にもかかわらず、近所には被害がなく、私の家だけの小被害で済んで、何よりも嬉しい限りである。
  出水市 道田道範 2015/9/12 毎日新聞鹿児島版掲載


元気が何より

2015-09-16 00:34:41 | はがき随筆
 梅雨が明けるや暑い暑い夏になった。老体だから夏バテするのだろうと軽く考えていた。が、ひょっとしたら……と不安な気持ちがよぎった。
 MRI検査で脳腫瘍の再発がわかって愕然となった。再発する前に人生を卒業したかったのに。
 日課のようになっていた夫との口げんかをする元気もなかった。私自身、身も心もすり減るほど苦しんでも、脳腫瘍は居候の分際のくせしてのうのうと大きくなりやがって腹立たしい。
開頭手術ではなくガンマナイフの治療を受けました。もう一度元気になりたい。
  鹿児島市 馬渡浩子 2015/9/10 毎日新聞鹿児島版掲載

夕顔の花

2015-09-16 00:32:29 | はがき随筆
 隣家の鉢植えに夕顔の花が見事に咲いている。大輪の白いアサガオを思わせる。
 子供の頃、田舎の家の垣根にも咲いて、それが大きなスイカのような実をつけたのを思い出した。母から、これがカンピョウになるんだと教わったものだった。
 源氏物語で、光源氏に愛された「夕顔」がはかなくうせていくくだりや、粗末な家の垣根に咲く夕顔の楚々とした白い花の姿が、懐かしく思い出された。
 誰も住んでいない故郷の、埴生の宿には、今ごろ千草が生い茂っていることだろう。
  鹿児島市 下薗英俊 2015/9/10 毎日新聞鹿児島版掲載

風鈴 

2015-09-16 00:25:05 | はがき随筆
 自室に、チリン、チリンと風鈴の音が聞こえる。今時分に毎年、妻が軒先に下げる。
 結婚した頃、義母に「軟らかくいい響き」と言ったら「短冊が古いから取り換えて、絵でも描いて使っていい」と頂戴した。早速、短冊を作り、表に「地道にこつこつと」、裏に「着地が大事」と書いた。
 あれから四十数年。緑の生け垣を通り抜ける風に、変わらぬ音色。懐かしい音に、地道に歩んだ人生を振り返り、終の時をきちんと着地したいと思う。今年は亡き義母が言った短冊に絵でも描こうかな。風鈴は今日も蝉と鳴き合っている。
  出水市 宮路量温 2015/9/9 毎日新聞鹿児島版掲載

祖母の手仕事

2015-09-16 00:16:29 | はがき随筆
 齢96歳、長寿に生きるのは高い雲の上にたたずんでいるかのよう。幼少期、祖母は小柄で色白、気品の人。針仕事に精を込めていた。縮緬の生地でちゃんちゃんこをこしらえた。手には星の数ほどしわが寄り、型紙なしの勘と知恵が働く。夏は祖母の額の汗が光にまぶしく、ときに手を休めて深呼吸。カエデのような手で汗を拭いてあげる。澄んだ目は潤み、しわだらけの顔から美しい笑みがこぼれた。「ありがとう」。出来上がったちゃんちゃんこの袖に手を通すと「べっぴんさんよ」と祖母が言う。変身したね。感無量。かわいいネ。ありがとう。
  姶良市 堀美代子 2015/9/8 毎日新聞鹿児島版掲載