はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

衝撃の一枚

2016-03-26 19:06:03 | 岩国エッセイサロンより
2016年3月26日 (土)
  岩国市  会 員   横山 恵子

 亡き父の写真を整理していたら、目に飛び込んできた一枚。それは「兵士の遺骨帰還」。白木の箱を抱く多数の兵士を迎える群衆。その行列はいつ果てることもなく続いていた。
 早速ボランティアをしている原爆資料館の仲間たちに見せたら「まーよう保存しとったね」とか「箱の中に髪の毛があれば良い方、ほとんど砂よ」などといろんな感想を述べてくれた。
 職員に「複写させてもらって良いですか」と言われ71年目にして日の目を見た思いがする。あの世に行ってもなお、戦争の酷さを伝えたかったのでは・・・・・・と思うと胸がジーンとなった。

   2016.3.26  毎日新聞「はがき随筆」 掲載岩国エッセイサロンより転載

Tシャツ

2016-03-26 11:42:36 | 岩国エッセイサロンより
2016年3月22日 (火)
    岩国市  会 員    樽本 久美

 下関の火の山ユースホステル(YH)が新しくなった。学生の時、吟道部の合宿で3泊利用した。そこで、先輩に詩吟のイロハを習った。
 「さんせん、そうもく・・・・・・」と大声をあげて、吟じた。あれから34年、今でも私の詩吟は続いている。その後、一人で火の山YHで新年を迎えた。
 そのとき買ったYHのTシャツが偶然出てきた。懐かしいな。新しくなったYHでも、ミーティングがあるのだろうか? ここで、いろいろな人との出会いがあった。
 それから、私は毎年7回は、一人旅に出かけるようになった。
「青春18きっぷ」とYHを使って。岩国エッセイサロンより転載

「桜もいいけど」

2016-03-17 20:13:58 | 岩国エッセイサロンより
2016年3月12日 (土)
    岩国市  会 員     吉岡 賢一

 笑いと涙と汗と我慢の歴史を重ね、45年目の春を迎えた老境の夫婦。
「サファイア婚式のお祝いに、少し遠出して花見と温泉でも楽しもうや」と、ささやかな夢を描いていた。
 ところが、孫兄ちゃんが高校進学、三男坊は小学校入学というダブルのおめでたをつきつけられた。こりゃ大変、半端な出費ではない。
 孫の祝いの前にはジジ・ババの小さな夢など物の数ではない。春霞の彼方へ飛んでった。
「桜もいいけど紅葉もねー」と、遠出は紅葉の秋に先送りし、春はお祝いに専念することにした。
「桜はやっぱり、錦帯橋が一番よー」

        (2016.3.12 毎日新聞「はがき随筆」岩国エッセイサロン より転載

里山を歩く

2016-03-17 19:56:02 | はがき随筆
 小川と田んぼ、そしてかの山があれば「里山の風景」といわれるが、最近の自分は深田久弥級の山より名もない里山を歩くことが多くなった。茂頭の観音、三重野の観音、岩屋観音とまるで観音様巡りをしていると思われるほどである。
 故郷の山は校歌に詠まれた大谷山、向江山と幾多あるが、如何にいます父母がなき現在、足が遠のいている。
 里山の風景を求めて歩くことは、ふるさとの子供のころの情景を思い出して、いつの日にか帰らんの心境になりつつあるか?
  鹿児島市 下内幸一 2016/3/17 毎日新聞鹿児島版掲載

都市対抗野球

2016-03-17 19:41:10 | はがき随筆
 亡夫の父親の古い写真の裏に「昭和八年度都市対抗出場、明治大学代田橋ニテ」と書かれ、練習風景か、体格のよい義父が笑顔で見ている。
 義父は早稲田大学の野球選手だった。卒業後、台湾に帰り、社会人野球へ。台湾では名を知られた選手だったという。
 都市対抗野球はこんな昔からあったのかと思っていたが、本紙の特集記事「レガシー」の第1回「企業スポーツ」で、昭和2年に始まったこの大会の由緒や沿革を知った。生前の義父を知らないが、野球に打ち込んだ若き日の義父をしばし追想した。
  鹿児島市 内山陽子 2016/3/16 毎日新聞鹿児島版掲載

ある隠れ念仏者

2016-03-17 19:39:44 | はがき随筆
 鹿児島の浄土真宗の礎を築いた大魯の墓は旧吹上町の光専寺にあることはあまり知られない。大魯は幕末に本願寺で起きた教義上の論争で異端者として追放され、肥後、天草を経て薩摩に逃れた。当時藩では浄土真宗を厳しく禁じていた。それでも大魯は煙草講などの名で人々を集め、洞穴に逃れて念仏の教えを説いた。明治の初め、藩の政策で薩摩半島の技術者が大隅半島に移住したが、その中に大魯の影響を受けた念仏者がいて教えを伝えた。やがて念仏禁制が解かれると浄土真宗は県全域に広まった。その礎を築いた大魯の功績は大きい。
  志布志市 一木法明 2016/3/15 毎日新聞鹿児島版掲載

大雪

2016-03-17 19:21:50 | はがき随筆
 朝から降り始めた5年ぶりの大雪が、すべての澱さえ覆い隠した。辺り一面、白銀の世界へ誘い、光に反射し周囲を明るく照らした。近所の子らは雪だるまを玄関脇に飾ったり、降りしきる雪の中を雪合戦に興じていた。静寂を破り、弾む声だけがにぎやかに響き渡った。子供の頃、なぜだかワクワク興奮し、うれしかった記憶がよみがえった。こんな日は、外出を控え、コタツの番人に徹するに限ると決め込んだのだが、さすが、夕方にはシャーベット状の路面に滑らぬよう慎重に石橋をたたいて買い物へ。雪国の人々の苦労を垣間見た気がした。
  鹿屋市 中鶴裕子 2016/3/14 毎日新聞鹿児島版掲載

じっと手を見る

2016-03-17 19:16:05 | はがき随筆
 この冬左人さし指の皮膚がむけてピリピリと痛み、日を追うごとにひどくなった。受診して1カ月、塗り薬でやっと快方に向かいつつあり、少しほっとする。それにしても年とともに治癒力も落ちたと痛感。
 76年間も使ってきた手を改めて見てみると、右の親指はがっちりして爪も立派である。それにひきかえ甘えさせた左手の指は右手に比べて小さい。指はある日突然使えなくなって初めて、その指でなくてはならないことに気づかされる。
 じっと、手を見る。皺としみだらけの手に、これからもよろしくと。
  霧島市 口町円子 2016/3/13 毎日新聞鹿児島版掲載

町工場の手業

2016-03-17 19:09:18 | はがき随筆
 学生時代、下請けの中小企業でアルバイトをした。そこは小型のモーター製作所。部品を組み立て、検査機で合格すると元請け会社に納品していた。
 手作業による銅線のコイル巻きは、隙間が出ないように竹べらを上手に差し込み、絶縁紙も挟み込んだ。銅線の被膜が少しでも傷付くとショートする。ヘラ先は柔らかく細やかに動いた。働いていたのは、ほとんどが20歳前後の女性。元請け企業は、今では世界の先進ロボット会社として注目を浴びている。下町の企業が活躍するテレビドラマを見ながら、竹ベラを操る彼女らの手を懐かしく思った。
  鹿児島市 高橋誠 2016/3/12 毎日新聞鹿児島版掲載

いとしのグローブよ

2016-03-17 18:51:39 | はがき随筆
 革製のグローブは仏壇の横の紙箱に納められた。「僕は窮屈でこの箱の中にいるのはいやだよ。息が詰まりそうだよ。早く外に出てあの広い草原で草野球でもしたいよ」。野球が大好きな夫は闘病中でもベッドにグローブやボールをしのばせた。ユニホームやグローブには汗や泥が染み通った。健康な頃、高校野球時代の話を自慢げに話した。瞳が生きていた。叱咤もあり罵声も浴びて随分、労苦したようだが、一回りも二回りも人間的に成長した。先輩やコーチ監督のおかげ。心から「感謝、ありがとう」。希望の星。巨人の星。長嶋選手を尊敬した。
  姶良市 堀美代子 2016/3/11 毎日新聞鹿児島版掲載

生真面目勘三郎

2016-03-17 18:42:24 | はがき随筆


 〈勘三郎〉が我が家に来るようになってもう何年になるだろう。朝、昼、夕の3回必ずやってくる。仲間と分担して我が家方面の縄張り巡視をしている。
 コッ、コッ、コッ。今朝も定刻に来て、我が家の屋根上の温水器の影に潜む侵入者をくちばしで突いている。根気強く執拗に突き続ける。
 カラスの勘三郎君! 君は真面目だねえ。責任感の強いカラス君と見える。だけど、もうそろそろ気付いてもいいのじゃないか。敵は勘三郎君にそっくりだろう? よーく見てごらん!
 勘三郎は鏡に写った自分の顔を見たことがないのだろうか?
  出水市 中島征士 2016/3/10 毎日新聞鹿児島版掲載

幸福のツバメ

2016-03-17 18:35:10 | はがき随筆


 1月22日、息子が結婚写真の前撮りをすると聞き、鹿児島市へ出かけた。市内に入ると十数羽の鳥が飛び回っているのに気付いた。どう見てもツバメだ。戸惑いながらホテルに着くと、そこの庭園でも飛んでいた。
 幸せいっぱいの2人が、次々にポーズを決めて写真を撮られいく。さらに私たち夫婦も入れて撮ってくれ、楽しい思いをして帰ってきた。
 翌々日鹿児島に大雨が降った。あのツバメたちは大丈夫だったろうか。気がかりでならない。幸せを分け与えてくれたツバメよ。凍死などせず、まだまだ幸せを運び続けておくれ。
  出水市 清水昌子 2016/3/9 毎日新聞鹿児島版掲載

幸福のツバメ

2016-03-17 18:28:22 | はがき随筆
 1月22日、息子が結婚写真の前撮りをすると聞き、鹿児島市へ出かけた。市内に入ると十数羽の鳥が飛び回っているのに気付いた。どう見てもツバメだ。戸惑いながらホテルに着くと、そこの庭園でも飛んでいた。
 幸せいっぱいの2人が、次々にポーズを決めて写真を撮られいく。さらに私たち夫婦も入れて撮ってくれ、楽しい思いをして帰ってきた。
 翌々日鹿児島に大雨が降った。あのツバメたちは大丈夫だったろうか。気がかりでならない。幸せを分け与えてくれたツバメよ。凍死などせず、まだまだ幸せを運び続けておくれ。
  出水市 清水昌子 2016/3/9 毎日新聞鹿児島版掲載

『仮免許証』まで

2016-03-17 18:22:38 | はがき随筆
 2年前に夫が亡くなってから、18歳の一人娘と2人暮らし。その娘が、大学の研修で海外に出ていくことになった。研修会やテーマ別チームでの打ち合わせ……。本当に出発したときは、心からホッとした。
 その日から初めての1人暮らしスタート。なぜか落ち着かない。テレビを見て大笑いしても、むなしい感じは否めない。「お母ちゃん、オフロ入るときは気をつけるんだよ」という娘の言葉を思い出し、いつかくる「本当の1人暮らし」のために頑張るつもりだ。帰ってくるまでには『1人暮らし仮免許証』までは取っておきたいから。
  鹿児島市 萩原裕子 2016/3/8 毎日新聞鹿児島版掲載

はがき随筆

2016-03-17 11:45:00 | はがき随筆
 3月になると80歳を迎える。この日、遠くの姉妹が集まる。記念に「はがき随筆」の投稿、掲載を文集にしようと思いついた。10年前、頭の体操に始めた投稿、掲載された文を読み返し、当時が思い出されて懐かしい。
 視力も衰え出した姉妹に太めの文字でワープロで打ち、A5判の手作りの文集。152㌻、拍子は菜園に咲いた野菜の花の写真で飾り、製本だけは専門店に頼もう。つつがなく過ごしていることを文面から察してくれるだろう。毎日新聞「はがき随筆」ありがとう。傘寿の記念ができそう。
  出水市 年神定子2016/3/7 毎日新聞鹿児島版掲載