はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

里山を歩く

2016-06-17 04:50:00 | はがき随筆
 認知症には運動、好奇心、社交力の三つが予防であると、物の本には書いてある。亡き親父が80歳を過ぎて軽い認知症になり、明日は我が身と思わないでもない。
 最近、旧松元町の「春山いこいの森」のことをかごしま自然百選で知った。さっそく好奇心が湧き、人に聞いてようやく現地到着。里山を歩き山道を息を弾ませいくと、山頂は期待以上であった。
 三つの予防を実践しただけでなく、大きな感動をも生きている証しとしてふれた。これからも里山を歩こう! そして里人と語ろう。
  鹿児島市 下内幸一 2016/6/11 毎日新聞鹿児島版掲載

群生

2016-06-17 04:36:02 | はがき随筆


 庭端に大きく枝を張った梅の根元に、群生して咲いたシランが辺りの静寂さを増す。その中に惰円形の葉と葉腋から筒状の花が1個垂れ下がり、花先が緑色をした草花を見つけた。調べてみると、寺院の四隅につるしてある宝鐸に似ているので宝鐸草とある。増やしたい。北側はアヤメが群生し、つぼみをつけている。
 垣根の辺りは繁殖旺盛な白雪ケシが、花は楚々として茶花に喜ばれ、私も好きだ。庭の雑草抜きは加齢とともにつらくなってきたが、花の群生を楽しみながら雑草の場を狭めている。
  出水市 年神貞子 2016/6/10 毎日新聞鹿児島版掲載

登山家

2016-06-17 04:26:13 | はがき随筆
 「逆に下のほうをじっとみつめるのですよ」と、知り合いの登山家が言われた。断崖絶壁で「下をみるな」とよく言われる。「そういうものなのですか」と尋ねたときの答え。「むしろ、あえて下のほうを凝視して、覚悟を決めるのです。すると不思議に落ち着いてきますよ、私は」。最悪の結果を想像することで、かえって心を静める。私には、なかなかできない。でも登山家は「慣れれば、大丈夫」とにっこり。この人生の先輩は、日常のさまざまな場面でもそうやって乗り越えてこられたのかな、と想像しながらビールをもう一杯おつぎした。
  出水市 山下秀雄 2016/6/9 毎日新聞鹿児島版掲載

うまく巻けない

2016-06-10 05:45:52 | はがき随筆
 娘とランチに出掛ける。お店の2階はおしゃれなたたずまいでリッチな気分になる。運ばれてきて前菜、ピザとたっぷりチーズのパスタ。「うわー」と、私は少々興奮気味なのにパスタがうまく巻けない、もどかしく思いながら娘の方をチラッ。いとも簡単にくるくると……。
 おぼつかない手付きで巻きながら、なんとか口へ運ぶ。濃厚になっていく胃袋はもう限界。「無理しなくてもいいのよ」と、娘は会計をすませてくれた。感謝の気持ちで2人は店を出た。
つつじ咲く母娘のランチ盛り上がり
 鹿児島市 竹之内美知子 2016/6/8 毎日新聞鹿児島版掲載

はがき随筆5月度

2016-06-10 05:38:13 | はがき随筆
 はがき随筆の5月度月間賞は次の皆さんでした。(敬称略)

【優秀賞】12日「ミルク」塩田幸弘=出水市下知識
【佳作】21日「贅沢日和」堀美代子=姶良市加治木町
▽24日「地震と夫婦の会話」本村守=湧水町木場


 「ミルク」は、孫がかわいくてたまらない。熊本地震のときも、孫のためにミルクの買い出しに走り、4本だけ残っていたのを買い占めようとして、ハタと気づいて2本だけにし、どこかの赤ちゃんのために2本残した、という心温まる内容です。このような優しい思いやりが、私たちの社会の秩序を守っていると、つくづく感じます。
 「贅沢日和」は、華やかにキラキラ光っている文章です。贅沢日和と書かれた卵形の弁当箱を食器棚から見つけた。早速、料理をつめて花見に出かけ、夜桜の下で、仲間たちと交歓の宴を楽しんだ。弁当箱の形状と色合い、料理のとりあわせと色模様、夜桜の淡い香りなどが、文章の効果を引きたてています。
 「地震と夫婦の会話」は、熊本の震災は鹿児島でも心配で、とくに老夫婦には不安が高まります。壊れた場合、立て替えなどできないと、嘆かれる奥様に「タッゴランの家」で暮らせばよいと慰めたという内容です。方言で、藁葺き、丸太柱、竹の床造りの家をいうようですが、考えれば終戦後はそのような生活でした。まずは、生き残ることだというのは実感です。
 この他に3編を紹介します。
 竹之内政子さんの「孫台風」は、お孫さんは、遊びに来たときに留守だと機嫌が悪い。元気そのもので、台風のようにやってくる。遊びの相手で疲れ果ててしまうのも、台風襲来に似ている。孫の話題は多いのですが、台風への見立てがいいですね。
 武田静瞭さんの「サル年はクル年?」は、色彩のある夢を見るが、正夢はほとんど見ない。それが、娘さんが里帰りする夢が実現しそうで、来るのが待ち遠しい。語呂合わせが洒落ている文章です。
 山下秀雄さんの「図書館」は、図書館の話題は珍しく、それだけ利用者が減ったのでしょうか。充実した清潔な施設も満足できるが、それ以上に係の人たちのあいさつが快い。図書館が文化の向上の役割だけでなく、あいさつを通して人の和を保つことにも効果を上げているという内容です。
  鹿児島大学名誉教授 石田忠彦

虫歯予防

2016-06-09 06:58:33 | はがき随筆
 6月4日は虫歯予防の日。この頃の小学生には虫歯が少なくなったとか。関係者の方々の努力のたまものでしょう。
 私は歯周病で病院に通ってもう十年余。言われた通り、5種類の歯ぶらしを使って自分なりに、まじめに、歯にあてる角度に気を使い、十分に磨いているつもりですが、いつも検査に行く度、歯肉のポケットが深い、磨きが十分でないところがあるとか注意をうけます。そこで、まためげずに一生懸命に手入れに精出します。部分入れ歯は、2カ所ありますかま゛、自分の歯で何でも食べられ、ありがたいことです。
  鹿児島市 津田康子 2016/6/4毎日新聞鹿児島版掲載

ニオイバンマツリ

2016-06-08 21:40:49 | はがき随筆




 縁側に出るとニオイバンマツリが甘い香りを送って来る。種子島に移住して間もなく植え、成長してから庭師さんに二段重ねに丸く剪定してもらった。
 生前の母はなんでも丸く刈り込むのが好きだった。サザンカ、オガタマ、ツバキ……皆頭が丸い。ニオイバンマツリは近所の庭で見かけ、まねたのだが、母の好みに合わせた形になった。その母が亡くなって10年になった。オガタマも小さな花から強い香を漂わせている。回覧板を届けに来た奥さんが「お宅の庭はいつもいい匂いがしますね」とニッコリ。カミさん、「母も深呼吸しているかもね」。
 西之表市 武田静瞭 2016/6/6 毎日新聞鹿児島版掲載

天道虫

2016-06-08 21:30:13 | はがき随筆
 1歳半の孫に「外へ行くよ」と声を掛けると、私の胸に飛び込んでくる。その仕草に私は弱い。大根の花、菜の花の揺れる散歩道を孫はよちよち歩いてくる。振り向くと、座り込み手を動かしている。見ると蝶が孫の前で舞っている。近づくと蝶は離れて行ったが、孫は立ち上がろうとしない。大根の葉に天道虫が動いていた。初めて見た天道虫を小さな手のひらに乗せてやる。孫がつまもうとしたら青い空へ飛んで行った。きょとんとした目が「なぜ」と私に訴えている。「天道虫は家に帰った」と手を取り歩く。やがて孫も私から飛び立つと思いつつ。
  出水市 宮路量温 2016/6/5 毎日新聞鹿児島版掲載

ヨーロッパの夜

2016-06-04 07:19:01 | はがき随筆
昔、「ヨーロッパの夜」という映画があった。ヨーロッパのナイトクラブで活躍する芸人を紹介する映画で評判となった。私は当時、学生で見ていない。
 長い間、幻の映画だったが、ビデオが発売され、初めて見ることができた。デ・プラターズの歌に続いてチャニング・ポロックが登場。鳩が次々とハンカチから現れる。彼は世界で最も美しいマジシャンと言われた。
 最近は光と音響を駆使したマジックが多くなり、見るのも疲れる。だがポロックの演技は独特の雰囲気で品があり、落ち着いて見られる。こんな映像は何度見ても飽きることはない。
  鹿児島市 田中健一郎 2016/6/4 毎日新聞鹿児島版掲載

家庭訪問雑感

2016-06-04 07:12:54 | はがき随筆
 初任地が太平洋のへき地の中学校だった。学校のボロ自転車で家庭訪問した。断り切れず1軒目で茶わん酒を頂いたら、後の5件全てで飲まされる羽目に――おおらかな時代だったのだ。帰りに小ウサギをもらったこともある。そう、生ダコ付き小ネコ2匹もあったなあ。娘たちは喜んだが〝三角眼〟の人もいたな。M子の家に行くとすぐ「おとなしく積極性がないとずっと言われてきた」と先手を打った母親。「君は君のままでいいんだよ」と言うと、2人ともニッコリ。自信を持ったのか、その後、M子は胸の内に力をひめているように見えたものだ。
  出水市 中島征士 2016/6/3 毎日新聞鹿児島版掲載

大人の階段

2016-06-02 15:41:52 | はがき随筆
 コーヒーが飲めるようになった。わさびが食べられるようになった。いくつかの階段をのぼり、気がつけば三十路。子どもも2人授かり、もう立派な大人であらねばならない今日このごろ。桜が散り、緑まぶしいこの季節、「あー新緑が美しい!」なんて言いながら、花と葉どちらが美しいって、子どもの頃は当たり前に「花」だった。
 空から降り注ぐエネルギーを一身に受け輝く新緑に心奪われ、また一つ階段をのぼる。でもね、まだ三十路。今こそ私自身が新緑となって人に元気と勇気を与えられる存在になろう! 
 人生の盛り謳歌を誓う。
  兵庫県篠山市 西野奈緒 2016/6/2 毎日新聞鹿児島版掲載

「できる」

2016-06-01 07:06:51 | はがき随筆
 豊富な品ぞろえに引かれて時々、鹿屋の大型スーパーにでかける。今日は、どのレジも先輩の指導を受けながら新人さんが奮闘中。
 いよいよ私の番がきた。まだ高校生の香漂う彼女は、先輩に手助けを受けながらポスレジの操作をこなしていく。それを待っている私の目が、彼女の左手に留った。よくよく見る。左手の甲にマジックで〝できる〟と書いてある。しかも大きな字で。
 代金を払うとき「上手にできてますよ」と声をかけた。それまで、こわばっていた彼女の顔が少し緩んだ。
  垂水市 竹之内政子 2016/6/1 毎日新聞鹿児島版掲載

少年の日

2016-06-01 07:00:26 | はがき随筆
 季節は初夏へと移っていく。こどもの頃、縁側に腰掛けて漫画ヒーロー「鉄人28号」などに夢中だったあの日を思い出す。正真正銘マンガ世代であった。「少年画報」、これらの月刊マンガ誌はふろくもいっぱいついていて、これも楽しみの一つだった。しかし母ちゃんからマンガばっかし読んでいると「ロッナ オセ」になれないとヤジョロシク言われつづけてきたが、まあ~それは間違いだった。今も時々書店に立ち寄り、復刻されたマンガ本を見つけると手にとり、懐かしくて、つい買ってしまう。団塊のおじさんの心は今もここ(少年の日)にある。
  さつま町 小向井一成 2016/5/31 毎日新聞鹿児島版掲載

子どもの声が

2016-06-01 06:53:09 | はがき随筆
 孫と同世代の関連ニュースは人ごとではなく、見逃せない。私は子どもの声に元気をもらい好感をもつのだが、個人差なのか、それを騒音、ストレスとしか思えない方もあり、新たな園の設立案がキャンセルになったとか。こんな世知辛い世の中に変貌してしまったことに驚きを隠せない。夜中まで騒ぐならまだしも、理解に苦しむ。
 子育て世代が安心して仕事に専念できるよう皆で育てる優しさはどこへ、少子化に歯止めを。一億総活躍社会の実現を目指し、古き良き時代の寛容の心を取り戻してほしいと切に願うのだった。
  鹿屋市 中鶴裕子 2016/5/30 毎日新聞鹿児島版掲載