はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

出会いは何百人

2017-06-08 16:15:02 | はがき随筆
 職業がら転勤が多く、故郷に帰るまでに11回の引っ越しをした。東京を中心に千葉、埼玉、神奈川、静岡、愛知と移り住んだ。知り合えた人も、北海道は旭川から南は石垣島までと幅広く、その言葉遣いが面白く忘れ難い。
 方言が心に残っている。その人を思い出すことがある。無我夢中で働いた日がよみがえる。知る人もいない大都会で、自分を見失うこともなく頑張れたのは、田舎育ちだったからか。今、自分を褒めてあげたい気分だ。母と妹が訪ねて来てくれたことがあった。ただただ天国の両親に感謝。
  伊佐市 坂元佐津夫 2017/6/1 毎日新聞鹿児島版掲載

切ない別れ

2017-06-08 16:09:16 | はがき随筆
 連休に次男一家と4日間共に過ごし、最後の夜は霧島に宿泊して空港で見送った。
 10か月の女の孫はまだごそごそだが、5月末に3歳になる男の孫はいっときもじっとせず、階段も一気上りするので手をつなぐ爺婆はもう必死。ホテルでは私たちの部屋に入り浸った。
 空港に着いて「また会おうね」と言ったら「帰りたくない」と泣いたので、出発時刻を待たずにカフェの前で別れた。
 少し歩いてふり帰ったら目線が合って切なかった。「振り返る勇気はなかった」と言った夫の目も潤んでいた。
  鹿児島市 馬渡浩子 2017/5/31 毎日新聞鹿児島版掲載

誠の心

2017-06-08 15:33:48 | はがき随筆
 中学時代、休憩時間で庭に出て遊んでいると、担任のS先生が近くに。科目は英語の指導だった。先生に「英文法を教えてください」。すると即答。「僕は英語はまぜくりはできるけど教える事はできない」と。本当に素直で実直、心の底がすぐ言えるなんてすばらしい。ちなみに私の父は上の立場。もちろん告げ口など子供なので考えつかないから、私の耳だけに残った言葉である。清流のように澄んだ誠の心を持たれた先生。2年間の担任をありがとうございました。今ごろ千の風に吹かれて、仏様になられ、遠い昔の若いお姿がまぶたに浮かびます。
  肝付町 鳥取部京子 2017/5/30 毎日新聞鹿児島版掲載

広島

2017-06-08 15:27:01 | はがき随筆
 昨年、アメリカのオバマ大統領が広島を訪問。今年3月、愛子さまの「世界の平和を願って」の全文が本紙に掲載された。深い感銘を受けた。
 四十数年ぶりの広島行きを決行した。リュックにスニーカー。今回は、我ながら意気込みを感じる。平和について考える広島の旅にしたい。
 原爆ドーム、平和記念公園、広島平和記念資料館などを見学。被爆者の遺品や惨状を目の当たりにし、原爆の恐怖、平和の尊さを強く思った。
 江田島の旧海軍兵学校を訪ねると、ちょうど入学式。空気も満開の桜も凛として……。
  垂水市 竹之内政子 2017/5/29 毎日新聞鹿児島版掲載

相聞歌

2017-06-08 15:08:43 | はがき随筆
 懐かしい歌に出会った。平安遷都1200年の頃、民放の番組で毎朝流れていた。歌詞も雅なバラードだった。タイトルは「相聞歌」。夫から妻への愛にあふれる言葉に満ちている。
 当時はCDを買うでもなく、月日は流れ2年ほど前に勝った宇崎竜堂のCDにこの曲が入っていた。
 あの頃、ひそきに想う人がいたから、一層心に染みたのだと思う。
 車の中でCDをかけ、選曲ボタンを押して、この曲ばかりを繰り返し聞いている。当時を懐かしく思うと同時に、重ねた年月の長さを感じる。
  鹿児島市 本山るみ子 2017/5/28 毎日新聞鹿児島版掲載

明るいエッセー

2017-06-03 18:48:25 | 岩国エッセイサロンより
2017年6月 3日 (土)
岩国市  会 員   山本 一

 今日は午後からエッセーの同好会がある。合評に持参するはがき随筆がまだ書けない。「明るい前向きなエッセーを書け」。これが私に対する会員の意見だ。   
ところが浮かんでくるのは老いた五体に絡むものばかり。この4、5月だけでも「突然の声帯異常」「ギックリ腰」などで、春爛漫の時季を暗く過ごした。家族ものが手近だが、妻が嫌がるのと安直過ぎるので、最近書かないようにしている。と、あれこれ悩んでいてこの文章を書き始めた。
何だか心が晴れてきたぞ。日常で出会った感動や思いを、率直に切り取れば良いのだ。
   (2017.06.03 毎日新聞「はがき随筆」掲載)

思わぬプレゼント

2017-06-03 18:47:53 | 岩国エッセイサロンより
2017年6月 2日 (金)
岩国市  会 員   上田 孝

 周防大島でのランチの帰り、いつもの道路から外れて集落に寄り道。行き止まりの小さな漁港に車を止めた。左手目の前の浅瀬に何と鳥居が。リトル宮島だ。港の突端まで歩きエメラルドグリーンの海と島々が織りなす絶景に見とれた後、神社に行ってみることに。
 木々の迫る小道を抜けると鎮守の森に囲まれた古いたたずまいの社。誰もいない。遠い昔にタイムスリップして静寂の時間を過ごした。一緒に行った義母は亡き義父の郷里なので大島はなじみ深いが「こんないい所があるとは知らなかった」と大喜び。思わぬ母の日のプレゼントになった。
      (2017.06.02毎日新聞「はがき随筆」掲載)

病気に負けないで

2017-06-01 21:03:24 | はがき随筆
 パーキンソン病の病名が判明したのは数年前のこで、義兄は病名が判明するまでに病院を何軒も訪れた。
 筋肉の収縮の働きが悪い難病。「歩」の第一歩を自らの力で踏み出せず、健康的な真の姿がよみがえる日に夢や望みを掛けた。
 やがて27年間の闘病、在宅介護にピリオドを打った。後を追うように姉も半年後にすい臓がんで生涯を閉じた。
 4分の1世紀にわたりパーキンソン病のため命を削られた。悲痛でふびんな五体の数年間を見守った姉とめいには深くありがとうの例を贈りたい。

  加治木町 堀美代子 2017/5/27 毎日新聞鹿児島版掲載

小さな横綱

2017-06-01 20:56:07 | はがき随筆
 生来弱体の私は3歳まで生きられるかと医者から言われ、母が懸命に育てて今の私がある。それだけに、我が子が生まれる度に健康でと祈ったものだった。幸い子供たちは小柄ながらも健やかに成長し、妻似のたくましい母親になり、子育てに奮闘中である。近く3歳になる孫は小柄なため娘は案じているが、妻は小さく産んで大きく育てとエールを送る。過日、娘からメールが届いた。稀勢の里の奉納土俵入りのテレビを見た孫は、食卓の上で雲竜型の土俵入りをまねている。様になっている姿がほほえましく、人生の横綱をつかんでほしいと思う。
  出水市 宮路量温 2017/5/26 毎日新聞鹿児島版掲載