はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

秋の深まり

2019-12-07 21:35:04 | はがき随筆
 未明に目が覚めたら静寂の世界。浸っているとポソッ…ポソッというかすかな音がする。
 雨の音だろうが10秒くらいの間隔であり、音といい実に控えめな降り始めである。聞き入るほどにその控えめな音は心に沁み込んでくる。しかし、睡魔も少しずつ襲い掛かってきた。
 朝起きると予想通りの雨だったが、優しい小糠雨りで木々もしっとり濡れている。何だか落ち着いた気分にしてくれた。
 終日降り続いた雨も退庁時には上がったが少々冷え込み、秋を深めてくれたようだった。
 立冬が近いことを控えめに教えてくれた雨だったのだろう。
 宮崎市 杉田茂延(68) 2019/11/30 毎日新聞鹿児島版掲載

待つという事

2019-12-07 21:28:12 | はがき随筆
 いつという確かな日時のない時ほど、長く感じられる事はない。もうそろそろと何度ポストをのぞくことか。もしかしたら届いているような気がしてまたのぞいてしまう。バイクの音に敏感になる。心ここにあらず。
 あぁ、今日も来なかったと首を引っ込めるしかない。残念! 
 友達からメール。「果報は寝て待て」。なんだか少し落ち着いた。そうだな、届かないということはまだ望みがあるってこと。読みかけの本でも読もうか。
 不如帰の花を見る。文化祭に描いた花もなんと清々しいことか。おおらかにと笑っている。
 熊本県八代市 鍬本恵子(74) 2019/11/29 毎日新聞鹿児島版掲載

お月様

2019-12-07 21:20:48 | はがき随筆
 迎えた決勝戦。県代表を決める頂点の戦い。もう一歩のところで敗れた。最後のシュートが外れ、うずくまった選手たち。よくぞそこまで昨年の王者を苦しめた。ボールの奪い合いは互角。女神がこちらにほほ笑んでもおかしくない試合。見る者の胸を熱くする83分だった。
 私は知っている。積み上げてきた日ごろの姿。真っ黒の顔に汗しながら練習場へ走る背中たち。ほの明るい夜道、寮へ戻る道すがら、直立不動で言ってくれた「こんばんわ」。報われてほしかった。だが、お月様も知っている。これからもきっと君たちを照らしてくれる。
 鹿児島県出水市 山下秀雄(50) 2019/11/28 毎日新聞鹿児島版掲載

強く生きよう

2019-12-07 21:07:02 | はがき随筆
 夫が長期入院となり1歳の息子と見知らぬ当地に来た。
 義父の留守中に台風が来て義母は4枚の雨戸を物干し竿とロープでしばった。避難をするという考えはなかった。
 二つの川の合流地点の我が家は地下二階造りで道より下にも部屋があった。5か所の発電所が放流すると、地下は危ない。
 何十年もの間台風に手向かうこともできずにである。
 今、台風19号に避難し悪戦苦闘をしている人たち頑張って下さい。生きてさえいれば何とかなる。人は弱くて強いもの。生きよう。
 強く、強く。
 宮崎県延岡市 逢坂鶴子(92) 2019/11/28 毎日新聞鹿児島版掲載

香港

2019-12-07 21:00:09 | はがき随筆
 初めての海外旅行は、返還前の香港。大学生の娘と2人で「香港・マカオツアー」に参加したのである。今思うと、娘と過ごす貴重な時間だったが、何せ初めての海外、うぶな私には刺激があまりにも強かった。
 香港国際空港はビルの谷間。観光、グルメ、ショッピングがうたい文句で、目に入るもの全てが驚きの連続だった。
 娘から「パスポートは持っとるね」と何回も言われた。最後には「うるさい」と怒鳴るが、それでも「持っとるね」とやめなかった。
 最近の香港情勢が心配だ。香港が揺れている。
 熊本市北区 岡田政雄(72) 2019/11/28 毎日新聞鹿児島版掲載

弔いの赤いバラ

2019-12-07 20:49:37 | はがき随筆
 精神科医の斎藤茂太さんの近著に、母上の葬式の時のことが書かれている。祭壇にご自分の著書をバラの花で埋めた、とあった。なんと、故人にふさわしい!
 ささやかな自分の弔いには、ぜひ深紅のバラを一輪と書き遺している私は、思わず拍手をしたくなった。せめて自分で自分を褒めてやりたい。
 主婦を専業として60年。ひたすら家族の健康と幸せを願い、結婚生活を全うしただけ。もはや崖っぷちに立っていて、反省ばかりの日々。写真の傍らにふるさとの唐津焼にと書き添えた。
 熊本市中央区 木村恵子(88) 2019/11/28 毎日新聞鹿児島版掲載

龍踊

2019-12-07 17:26:30 | はがき随筆
 「ヨイヤー」「モッテコーイ」。諏訪神社の特設桟敷を埋め尽くした観客からかけ声がかかる。令和最初の長崎くんちは龍踊も奉納される。私と同様にそれが目的の人も多いのだろう。本踊りから始まり、川船、獅子踊り、オランダ船。目の前ではじめて見るくんち、年甲斐もなく興奮してしまう。いよいよ龍踊だ。笠鉾が入ってくると会場は大きくどよめく。そして龍が登場。異様な熱気が。50年ぶりに新調された龍が、10人の龍衆に操られ、境内狭しと玉を追って舞走る。アンコールのあと、「モッテコーイ」のかけ声を背に去っていく龍。次は7年後か。
 宮崎県日向市 福島重幸(66) 2019/11/2/ 毎日新聞鹿児島版掲載

日本語教師に

2019-12-07 17:19:34 | はがき随筆
 甥君が鹿児島市から姶良へのサイクリングで立ち寄った。娘が中国へ日本語教師として赴任するという。浅黒い瞳から満面の笑みがこぼれた。まあ、誇らしい。
 中国語が得意だったようで、少女期の面影がちらつく。オカッパ刈のカボチャ顔があどけない。いまだ見ぬ中国の街の風景、環境、風土に大いなる夢と希望を抱いているが、一抹の不安もよぎる。
 時を暮らせば自然と身は養われる。日本語教師は要だと。強靭な精神力に敬服。日々の勉学、努力の積み重ねのたまものと感謝。
 鹿児島県 姶良市 堀美代子(75) 2019/11/28 毎日新聞鹿児島版掲載

ロシアでの一会

2019-12-06 17:56:21 | はがき随筆
 古都サンクトペテルブルクでは3連泊。ホテルと池の間には長い真っすぐな遊歩道が通っていた。早朝に娘と散策していると、初老の大柄の婦人が大地を踏みしめるように、本当にゆっくりと歩いてきた。お互いに会釈した。翌日もまた会ったが、夫人は立ち止まってしゃべり出した。一気にしゃべるとほほ笑みを残してゆっくりと去っていった。「ここはロマノフ王朝の宮殿も庭園も素晴らしいし、誇りよ。でも寒さが厳しくてこの池も凍るわ。親子なの? いい旅をね」。きっとこう言ったのだ。こんな出会いがあるから旅はいい。
 鹿児島県霧島市 秋峯いくよ(79) 2019/11/28 毎日新聞鹿児島版掲載