はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

月見草

2020-07-15 19:49:54 | はがき随筆
 月見草を探して野道を1時間位歩いた。だが、長い間ウオーキングをさぼっていたせいで時期を逸したようだ。花が終わり枯れ残っている状態のものばかりだった。残念な思いでなおも探していると、何と! 一つ小さな黄色い花があった。かわいい、ありがとうと思わず言った。
 故郷の家のそばに、今は廃線になったが線路があった。その両側に月見草がたくさん咲いていた。駅までその線路のわき道を通っていた。月見草を見ると、少女の頃の私が黄色い花の中を駅へと駆ける姿が思い浮かぶ。
 今日は、貴重な月見草に出会えて本当に良かった。
 宮崎市 堀柾子(75) 2020/7/11 毎日新聞鹿児島版掲載

往復はがき

2020-07-15 19:42:23 | はがき随筆
 ぱあちゃん元気にしてる。わたしはげんきだよ。コロナにまけないでね。小学2年の孫娘から往復はがきが届いた。母の日に、感無量。うれしくてありがたく、最高の幸せ。挿絵にはアルプスの少女ハイジのスカートの子。コロナのバイキンは、ピカチュウのとげに変身して棒でたたいてやっつける。「じょうずなえをありがとう。マスク、手あらい、うがいもきちんとしてね」。返信ハガキにしたためた。コロナへのやるせなさが無邪気に子ども心に伝わる。葉書の活躍が、宝のごとく思えた。パプリカのような深紅の太陽が山の端に隠れた。
 鹿児島県姶良市 堀美代子(75) 2020/7/11 毎日新聞鹿児島版掲載

会いたい

2020-07-15 19:33:49 | はがき随筆
 5月で5歳になった、ひ孫の誕生祝は我が家で行うことにしていた。好物のサクランボも真っ赤に色づき待っていたが、鳥たちの餌になってしまった。
 ひらがなで「たんじょうびおめでとう」と手紙を出した。返事がきた。「ばあちゃんたんじようびおめでとう」とあった。私の誕生日は12月なのに……。
 お皿を洗う動画やテレビ電話で何度も会ったけど、会いたい。
 「パパのママと同じお医者さんになる」と言って、私の具合が悪い時は「体調どうですか」とおもちゃの聴診器をあててくれたが、最近では船長になるという。大分に住む彼女に会いたい。
 宮崎県日向市 榎田安恵(79) 2020/7/11 毎日新聞鹿児島版掲載

曽祖母の死

2020-07-15 19:18:46 | はがき随筆
 曽祖母は折り紙が得意で、老人ホームに入所していても千羽鶴を完成させるほどでした。ところが肺炎で入院となり日に日に容体は悪化していきます。「もってあと1日」と言われた時は家族一同ぼうぜんとなりました。主治医の先生、看護師さんの懸命な対応、周囲の励ましのおかげで持ち直し、3ヶ月も頑張ってくれました。
 ホームの部屋の片付けに行くと、日記を発見。毎日最後に「さみしいな」と書かれていました。涙がこみあげてきました。
 今、看護師への道を歩き始めた私を、曽祖母が応援してくれているように思います。
 熊本県八代市 中本歩花(18) 2020/7/11  毎日新聞鹿児島版掲載

これなあに

2020-07-15 19:03:51 | はがき随筆
 小学4年生になった孫が「じいちゃんキャベツある?」と言うので畑に取りに行く。
 夫の育てている野菜は青々と育ち、どれもみずみずしい。私はいたずら心を出し「ハーイ今から野菜の名前当てクイズよ」と言い、まず人参さん。「ハイッ」と元気な声。キュウリさん、レタスさんと読み上げて行くと、孫の首は傾くばかり。
 思えば、葉っぱや泥つきのままの野菜をあげたことはなく、いつもきれいに洗っていたなあと私も反省した。
 最後にトマトさんと言うと、「ハイッ」と喜びの声が畑中に響いた。
 宮崎県日南市 永井ミツ子(72) 2020/7/11 毎日新聞鹿児島版掲載

やりがいを感じる時

2020-07-15 18:56:25 | はがき随筆
 今年の4月から看護助手として病院に勤務している。入院患者さんに、優しく几帳面な性格のAさんがいる。
 ある日、環境整備のためAさんのお部屋を訪れた。「Aさん、こんにちは。お部屋のお掃除をしに来ました。ベッド柵と床頭台を掃除してもいいですか」。Aさんは快く「うん、よろしく。ありがとう」と言ってくれた。掃除していると「こんなにきれいにしてくれるのはあなただけよ。ありがとう」と言葉をいただいた。リップサービスにしてもうれしい一言。「はい、済みました。また来ますね」。ルンルン気分で部屋を出た。
 熊本市中央区 大賀悠衣(18) 2020/7/11 毎日新聞鹿児島版掲載

面白てか時間

2020-07-15 18:49:04 | はがき随筆
 先日、関東に50年近く住む同級生より電話があった。
 「仕事で週3日出社、あとは家。息抜きの場にも行けず、うつうつとしている。かごっま弁で語りたか」と、さっそく「おやっとさあ」と応じる。
 久々に彼女からも面白いかごっま弁が飛び出すので、少々シャクに感じながらも他愛ないさえずりで小一時間。「鹿屋に帰ったごちゃ、わっぜ笑ろた!」と満足してくれた。
 昔と変わらない、でも私の数倍辛酸をなめた彼女である。故郷を思い出してくれてありがとう。図らずもコロナ禍がもたらしてくれた面白てか時間。
 鹿児島県鹿屋市 日高美代子(73) 2020/7/11 毎日新聞鹿児島版掲載

7人目の曽孫

2020-07-10 12:36:20 | はがき随筆
 関東に住む長男の長男(孫)に長男(曽孫)が生まれた。6月予定とは聞いていたが、新聞で妊婦PCR検査の記事があり、心配していたその日だったのでホッとした。更に誕生日が長男と一緒。二重の喜びに、おめでとうの声もはずんだ。短時間での面会の様子、赤ちゃんの元気で可愛いしぐさ、2歳になるお姉ちゃんも、ちゃんとマスクしてのぞき込んでいる。長女のスマホに贈られる映像を見ながら、日々コロナで沈みきっている私への最高の贈りものだ。7人目の曾孫。一番上が今年1年生。みんなのランドセル姿見たいなあ?
  熊本市中央区 原田初枝(90) 2020/7/10 毎日新聞鹿児島版掲載

コロナ世代の一年生

2020-07-10 12:27:14 | はがき随筆
 コロナ禍の中で、孫は小学校新一年生に進んだ。入学式は感染症対策で、両親のみの出席という質素なものになった。楽しみにしていた私も自宅待機。
 新学期はスタートしたが、1週間ほどで緊急事態宣言の発出で休校に。5月の連休中に遊びに来た孫は「ぼく小学校に行き始めたばっかりなのに休みになって、学校てどんなところなのかよくわからない」と。学校は再開されたが、手洗いとともに人との距離が強いられる。磁石の両極のように、近づけばすぐ引っ付いてしまう年ごろの彼ら。友との新しいふれあい方を見つけてほしいと願うだけだ。
 鹿児島市 高橋誠(69) 2020/7/9 毎日新聞鹿児島版掲載

墨田の花火

2020-07-08 20:31:45 | はがき随筆
 梅雨本番、雨がアジサイの花を引き立てる。色や種類も多くなり、人の庭や道脇に咲いて、目を楽しませてくれる。 
 墓に行く道の土手でも見ごろになった。20年前、枝を1本貰い挿し木した。以降、もらった株や挿し木で増えた。
 その頃、友達の庭に白い珍しいのが咲いていた。「墨田の花火」の名が、かの夏の風物詩を連想させた。浴衣を着て一度だけ友達と行ったのを思い出した。
 色と名が気にいって枝をもらった。桃色の横に挿したのは薄桃色に、青色の隣のは淡い水色に色を変えて咲く。不思議がらせるが、それはそれで面白い。
 宮崎県串間市 武田ゆきえ(65) 2020/7/8  毎日新聞鹿児島版掲載

母の命日

2020-07-08 20:21:51 | はがき随筆
 平成17年6月23日、昼まで元気で近所の人たちと楽しくしていた母が、その夜、腹痛で苦しみ、次の日、80歳で天に召された。冠動脈の閉塞であった。
 それから15年、今回、妻が階段から転倒したが、救急車で病院に運ばれ、一命をとりとめた。その後4ヶ月、妻は2ヶ月間の入院生活から現在は我家で暮らしている。妻の70年の人生は、家族や孫のための献身的な生活であった。
 現在、家事はできないが、笑顔の中で平安を得ている。私は母の介護は一日もできなかったが、不自由な妻の姿に15年目の母の命日をおもいだした。
 熊本県大津町 小堀徳廣(72) 2020/7/7 毎日新聞鹿児島版掲載

むこ殿の心遣い

2020-07-08 20:14:03 | はがき随筆
 冷蔵庫が閉まらなくなった。なぜだろうと庫内をチェックするが分からず、娘に電話した。「ちょっと待ってて」と言われたが、ピーピーピーと異常な音が不安でならない。やがてマスクを着けたむこ殿が駆けつけてくれた。開閉する扉にちょっとした不具合があったらしく、すぐに直り、まずは一安心でした。我が家の冷蔵庫も後期高齢者になったようです。
 むこ殿が話すには「熱は測ってきました。36度2分です。なにかあったらまた来ます」と、蜜を避けるように帰っていった。優しい心遣いにありがたく感謝するのみでした。
 鹿児島市 竹之内美知子(86) 2020/7/6 毎日新聞鹿児島版掲載

一瞬の出会い

2020-07-05 17:55:54 | はがき随筆
 昨夜12時まで書道出品の準備をし、朝9時前に郵便局の駐車場に待機していると、見知らぬ老婦人が後ろ向きの私に明るいあいさつ。「あと5分ですよ」とこちらも返事。出入り口が開き、5.6人の方たちが中へ。局の事務窓口は透明ビニールで外来からのコロナ予防。手先だけ客との交流ができる。開始一番の職員に「今日もやるぞ」と気力がみなぎっている感じ。用事が終わり、出口の方へ行くと、先ほどの婦人が椅子に座っておられる。今度は私の方が声を。「先に失礼します」と言うと破顔一笑、どこの誰ともしれる一瞬の出会い、楽しい心。
 鹿児島県肝付町 鳥取部京子(80) 2020/07/04 毎日新聞鹿児島版掲載

言われなくても

2020-07-05 17:49:28 | はがき随筆
 相田みつをさんの「あたまじゃわかっているんだが」は言い得て妙だ。手の内を見透かされそうで、面はゆい気もするが。
 コロナ禍で、終日自宅で暮らす。居間で新聞をみると、すぐ書斎にこもる。散文を書いたり、退屈しのぎにクイズを解いたり。何かと落ち着かない。書斎は雑本で足の踏み場もないだらしなさだ。妻も「ケガしたら大変よ」と心配するが、当分その気にならない。
 外出もままならず、ストレスが満杯。願わくば妻に「よく片付きました」と二重丸をもらえる日が早く来るといいんだがなあ。言われなくても分かるよ。
 宮崎市 原田靖(80) 2020/7/4 毎日新聞鹿児島版掲載

聴診しますね

2020-07-05 17:42:36 | はがき随筆
 診察も終盤、「聴診しますね」と言われた。長いこと通院しているが初めての事でびっくり。「聴診してくださったのは、先生が初めてです」「そうですか」と涼しい顔。これまで医師はずっとパソコン相手に手は器用に動き患者はそれを見ているだけ。そう、データ主義とみていた。
 昔、あの時触診があったら死ぬことはなかったはずと思う事例がある。時間内の診察には限度もあろう。患者の希望として触診、聴診等の基本をぜひお願いする。長生きのために病院では、積極的に訴え、納得するまで聞きそして受け入れよう。
 熊本県八代市 鍬本恵子(74) 2020/7/4 毎日新聞鹿児島版掲載