前回の授業で、子どもの文学はメッセージ性が強いということを学びました。
では、子どもの文学を読むということと、「書く」ということに、どんな関係性があるのでしょうか?
子どもの本の中でもっとも大切なテーマとして選ばれるのが、「生きる」とか「死ぬ」ということです。
子どもたち自身の身の回りにいる生き物や、身近な人たちの死は子供にとってどういう意味があるのでしょう?
“そこ” をこそ書く意味というのを、作家として見つめていかなければならないと高科先生はおっしゃり、
ご自身の著書『ぼっちたちの夏』(絵/渡部洋二・佼成出版社)にも、愛犬との別れが書かれていることを教えていただきました。
読み聞かせてくださったのは、ナネット・ニューマンの『ぼくのイヌ』(訳/掛川恭子・絵/長新太・国土社)です。
これは、愛犬を亡くして悲しんでいた少年が新しい相棒を得るまでの話で、訳者の掛川さんは後書きで、「生きとし生けるものの命は、単独では一つかもしれないが、亡くなってしまった愛するものたちを思い出すことで、命の鎖はどこまでも繋がっていく」と言っています。
このように、「死」と「死への恐怖」、そして「愛するものの死をどうやって乗り越えるか」ということは、子どもの文学にとって重要なテーマなのです。
次に読み聞かせてくださったのは、谷川俊太郎の『おばあちゃん』(絵/三輪滋・イソップ社)です。
1981年に出版されたこの本は、まだ「認知症」という言葉が一般的ではなかった時代に、「おばあちゃんは赤ちゃんみたい」「宇宙人になっていく」と書いて、問題提起をしています。
「老いる」ことを受け止め、受け入れるということは、当時まだあまり話題にはなっていませんでした。
子どもの文学は、前回も言ったように向日性です。それでも避けて通れない、子どもの本には書かれないタブー(老い、両親の不仲・親による虐待・いじめ・性の問題)があり、それは子どもの本には不向きなので書かないようにしましょう、と言われてきました。
それでも、そのことについて書いてきた作家はたくさんいます(松谷みよ子・神沢利子・石井桃子など)。
次に紹介していただいたのは、木葉井(きばい)悦子の『ぼんさい じいさま』(瑞雲社)です。
これは、たくさんの盆栽を大事に育てているじいさまが、ひいらぎ少年に連れられて旅立っていく、じいさまを慕う動物たちとの別れを描いた作品です。残念ながら作者は若くして亡くなったのですが、晩年は仏教についての作品が多くなったそうです。
その頃の作品が、『みずまき』(講談社)と『カボチャありがとう』(架空社)です。
続いて紹介していただいたのが、写真絵本『こいぬがうまれるよ』(著/ジョアンナ∙コール・翻訳/つぼいいくみ・写真/ジェローム∙ウェクスラー・福音館書店)です。仔犬が生まれて成長していく過程を、ていねいに描いています。
犬の寿命は10〜15年くらい。人間の子どもも一緒に大きくなって、やがて別れの時を迎えます。
子どもは、命は順番につながっていくのだということを学ばなければなりません。
「老い」や「死」と「生」は、紙の表裏のように一体になっていて、どちらか片方だけではなく両方とも書く必要があります。
どちらか一方を書けば、もう一方をあぶり出すことになるのです。
子どもの本の作家たちは、書くことを通して「生きる」とか「死ぬ」ということを探求しているのです。
もう一冊。福音館書店のかがくのともより『えぞまつ』(文/神沢利子・絵/吉田勝彦・監修/有澤浩・福音館書店)を。
色鉛筆で丁寧に書き込まれた絵で、北海道の森の中の命の移り変わりを描いていて、死ぬ(木が枯れる)ことを悲しみの対象とせず、新たな命へ受け継がれていく様子がわかるようになっています。※ 倒れた木の幹で新芽が育つ=倒木更新
休憩を挟んで、後半は教科書『文章のみがき方』(辰濃和男 著/岩波新書)の「Ⅲ 推敲する」から「4. いやな言葉は使わない」「5. 比喩の工夫をする」「6. 外来語の乱用を避ける」のところを交代で音読していきました。
ジャンルや言い回しを問わず、自分の中に「いやだと思う言葉」や「居心地が悪いと思う言葉」を蓄え、それを使わずに文章を書くように気をつけましょう、ということで、2002年に出版された 江國滋の『日本語八ツ当たり』(新潮社)には江國さんが当時気になっていた言葉がたくさん出ていると教えていただきました。
比喩表現については、瀬戸賢一の『日本語のレトリック』(岩波ジュニア新書)に載っている、30ものレトリック表現(隠喩・直喩など)をまとめた表を見ていきました。次回から、文章を書くときに参考にしてください。
アリストテレスの時代から、レトリックは魅力的な言葉で人を説得する技術ですが、使い過ぎはくどくなるので、オリジナルで洒落た比喩表現を的確に使うように心がけましょう。
カタカナ語は乱用を避ける、の一語に尽きます。特に新しい技術や経済用語をカタカナで表記することは多いですが、日本語で表現できることは日本語で表すべきでしょう。
最後に、前々回に出た「まっちゃん」「ふとん」「じゃり道」の3つの言葉を使って創作するという、いわゆる「三題噺」の課題を返却してもらいました。
最近では、企業の入社試験でも使われるというこの手法は、同じ言葉を使っても、使い方によってずいぶん雰囲気が変わるので、その人の資質や性格を見るのに良いのだそうです。
前回の課題「木をテーマにした絵本のテキストをひらがなで書く」は、次の20日に提出して」いただきますので、皆さんよろしくお願いいたします。