8月9日(土)東京文化会館小ホールに藍川由美「古関裕而を歌う」を
聴いた。(ピアノ森美加)以下はその詳報である。
藍川由美の名を知ったのは「古関裕而歌曲集」という10年以上前に発
売されたCDだった。
古関裕而の名前に惹(ひ)かれて買ったのだが、一聴「これはいいっ」
と手を叩いた。私の大好きな「三日月娘」が入っていることもよかっ
た。
1ヶ月ほどして『レコード芸術』最新号で特選盤になった。(『レコー
ド芸術』の CD評は発売後1ヶ月以上たって掲載される。)嬉しくな
った私は、レコ芸評論のお一人である畑中先生に手紙を書いたことを
憶えている。
藍川由美の「ライヴ」を聴くのは、せっかく東京にいるにもかかわら
ず、初めてである。藍川由美が「古関裕而を歌う」を続けている(も
う15年だそうだ。)のは、宇野功芳を読んで知っていた。
聴衆は見るからに70歳以上の方が多いが、若い人も 散見される。
入場率は小ホールに70%くらいであろうか、意外と低かった。
プログラムは
1.六甲颪(おろし) S11年
2.愛國の花 S12
3.露営の歌 S12
4.海の進軍 S16
5.海を征(い)く歌 S18
6.栄冠は君に輝く S23
7.闘魂込めて S38
8.高原列車は行く S29
9.長崎の鐘~新しき朝の S24
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10.福島夜曲 S4
11.山櫻 S5
12.船頭可愛や S10
13.三日月娘 S21
14.雨のオランダ坂 S21
15.イヨマンテの夜 S21
16.黒百合の歌 S28
17.モスラの歌 S36
18.西夏の女の歌 S36
19.長城の子守唄 S39
20.ピッカリの歌 S42
7時過ぎ藍川さんがピアニストともに入場。身長は160cm前後かし
ら?髪の毛は肩まであり、市松人形のようだ。
<六甲颪(おろし)>
リサイタルは元気よく「六甲颪(おろし)」から始まった。身体一杯
に拍子をとりながら、左手を前で動かし、目をつぶって歌う、絶唱で
ある。最初から全力投球、野球でいえば9回まで完投できるのかしらん
と思われるほど。発声、発語のキレがまことにいい。一番が終わった
ところ、間奏で拍手が起きた。
2曲目に入る前に5分間ちょっとのオシャベリがあった。「今日は有難
うございます・・・・・・」に対しておじさんの「頑張れ~」という声が掛
かった。内容的には、
古関裕而は曲によっては数種類の伴奏を用意していた。クラシック
畑の作曲家としての自負を持っていたに違いない。軍部が作らせた
軍歌と新聞社が作った戦時歌謡は分けなければいけない。8分の6拍
子もゆっくり3拍子にとる場合と2つにとる場合がある。4拍子もザ
ッザという行進曲とヤーンパヤーンパととるものがある
など、なるほど『これでいいのか、にっぽんのうた』(文春新書)を
書いておられる音楽博士らしい、問題意識のあるお話だった。
<愛國の花>
戦時中の歌が4つ続いたが、中では「愛國の花」のワルツがよかった!
(当時は渡辺はま子が歌ってヒット。)
<栄冠は君に輝く>
「栄冠は君に輝く」は大好きな、甲子園の歌であるが、昭和23年学制
改革で中等学校が高等学校になったのを機に朝日新聞社が公募した歌
詩だとはうかつにも知らなかった。
前奏が始まると、首と腰を振ってリズムを取る。気持ちがいいくらい
の熱唱である。
<闘魂込めて(巨人軍の歌)>
次の曲「きょじ~んぐん~」では「ん」で(当たり前だが)口をふさ
がない、いかにも鼻に響かせている。
<高原列車は行く>
「高原列車は行く」は武蔵野出身の岡本敦郎が歌って爆発的にヒット
した曲で、大正7年生まれの父がよく歌っていた。藍川さんめずらし
く目を開け、身体を左右に動かし歌っていた。拍手がひときわ多い。
<長崎の鐘>
「長崎の鐘」の前でちょっと間をおき集中した。目をつぶり、ブレス
を大きくとっての絶唱である。最後の「ながさきのかねがなる」でp
にした。続けての「新しき~」もよく知っているが、今回聴いたら
「救い」と感じた。
休憩時間にロビーに飛び出し、一番でCD「『栄冠は君に輝く』古関
裕而作品集」を購入する。平成14~15('02~'03)年の新録音である。
休憩中に、推定年齢77歳とおぼしき、隣の上品なご婦人に「お一人で
来られたのですか?」と話しかけたら、「もう10年以上通ってるんで
すよ。勤労動員の世代でしてねぇ。藍川ネットにも入ってまして。古
賀政男も聴くんです」と言っておられた。
第2部では茶系のノースリーブで登場した。
<福島夜曲>
「福島夜曲(セレナーデ)」はゆっくり。「今までは12番まで歌って
いたのですが、今日はその中から5番をお送りしました。古関はドシド
ではなく、ソで終わる半終止が多いんです。次の『山櫻』拍子の概念
がヨーロッパとは違うということです」。(お隣さんは盛んに「ハ~
なるほど」とつぶやいておられた。)
<船頭可愛や>
「船頭可愛や」は音丸(おとまる)の大ヒット曲である。4拍子に左手
を大きく、膝を沈め、目をつぶる歌い振りだ。
<三日月娘>
「三日月娘」は先に書いたが大好きな曲だ。3拍子に膝で拍子をとり、
ややゆっくり、珍しく目を開いて歌った。
<イヨマンテの夜>
「イヨマンテの夜」も伊藤久男でずいぶん聴いた。伊藤久男は、古関
と同郷(福島県)、本当にうまかった。藍川さんによれば、アイヌの
4拍子は、2と4が強拍になるとのこと、なるほどであった。膝を使い、
目をつぶる、もはやおなじみのスタイルの絶唱、この日の白眉(のひ
とつ)であった。
<黒百合の歌>
「黒百合の歌」は菊田一夫の「君の名は」で織井茂子が歌ったものだ。
「黒百合は恋の花 愛する人に捧げれば 二人はいつかは結びつく」
織井茂子もしばしば聴いたがうまい人だった。藍川さんは目をつぶり、
大きく沈んで、ゆれにゆれ、太い声で歌い上げた。
<ピッカリの歌>
最後の「ピッカリの歌」は初めて聴いたが、藍川さんも愛着のある歌
らしい。目を開け、明晰な発声で歌った。大拍手であった。
藍川さん、いったん引っ込んだ後、続く拍手によって再登場。
「来年はいよいよ(古関裕而の)生誕100年。8月9日(日)のお昼が
(文化会館を)予約できましたので、ぜひお運びください。最後に
『長崎の鐘』を皆さんとご一緒に」。
私も「長崎の鐘」を1番から4番まで、そして「新しき~」まで一緒に
暗譜で歌った。
隣のご婦人が「お若いのによくご存知ですねぇ」と驚いておられた。
藍川さんは一言も言っておられなかったし、聴衆の全員が知っていた
が、言うまでもなくこの日は長崎原爆の日であった。
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