北緯38度線上にある仙台野草園のフジバカマの葉っぱに一匹のアサギマダラさんが停まっている。フジバカマは秋の七草であり花の咲くのは8月以降になると思われ、なにゆえ、さっきからフジバカマの周囲をひらひら飛んで、この草の葉にやってくるのか分からない。チョウの成虫は、花の蜜を吸うので葉っぱは食べないからだ。
アサギマダラさんはタテハチョウ科に属する大型の美しいチョウであるが、「旅する蝶」として知られていて、沖縄や奄美諸島と本州を行き来することは何となく知っていたが、いま図書館から借りてきた栗田昌裕先生の「謎の蝶アサギマダラはなぜ海を渡るのか?」(ベスト新書)を読み進めてみると、南西諸島方面で生まれて本州にやってくるいわば避暑型の北上個体と本州で生まれて寒さ対策のため南に渡る南下個体とがあって、例えば、春先に羽化した北上個体が海を渡り、夏ごろまで生き延びて産卵し、秋の初めに羽化した南下個体が海を渡って南西諸島へ行ってそこで産卵し役目を終える、という年に二度の羽化というサイクルを繰り返しているようなのだ。
とすると、5月の終わりに野草園にヒラヒラ舞っているアサギマダラさんは、南の国からやってきた北上個体ということになり、なつかし奄美や喜界島、沖縄本島、先島諸島いずれかの出身ということになろうか。でも、荒天の日もあったろうが2000km近くも旅をしてきたにしては、翅も傷んでいないし、お疲れの様子もない。こんな「美しくもか弱そうな」チョウといういきもののどこにそのようなエネルギーと航空技術があるのかと不思議になってくくる。謎である。
それから、栗田先生のご本をチラリと斜め読みをしていると、北上個体の好きな食べ物?は、キク科のヒヨドリバナやフジバカマ、アザミなどの花、産卵は、幼虫の食草として、もっと山の上に生えているというガガイモ科のイケマなどで、この野草園のアサギマダラさんも、これから夏までにはイケマの生えている山に向かうのだろうが、まてよ、ヒヨドリバナもアザミもフジバカマも花が咲くのは8月頃とまだ先、さっきも言ったようにどうして花の咲かないキク科の草にじっとしていて、花咲くまで何を栄養源にしているのだろう。謎である。
いずれにしても、南国生まれのアサギマダラさん、あと2,3か月の余命のうちに、パートナーを見つけてイケマの山に行って産卵しなければならない。長旅の後もゆっくりしてはいられない。大好きなヒヨドリバナやフジバカマは、頑張ったご褒美としての最後のごちそうなのだろう。
思わず、この「美しくもか弱そうな」、されども、2000kも海を渡る勇気と体力を秘めたチョウにひとかどならぬ敬意と脅威をいだくのはオイラだけだろうか。