8月18日(土)晴れ
2時半から映画『かぞくのくに』を見た。終了後、ヤン・ヨンヒ監督の話を聞いた。
こういう人が(やっと)出てきたのか、僕は深い敬意を感じた。
兄に「北のスパイになれるか」と聞かれる場面がある。兄役の井浦新も妹(ヤン・ヨンヒ)役の安藤サクラも好演でこの映画の最大の見所といってもよいシーンである。
ヤンさんは語っている。「(この)シーンを映画に入れるかどうかが一番、悩みどころでした。これを出したらお兄ちゃんに迷惑がかかるとか、母が知ったときのショックを考え、ずっと黙っていましたから。でも、どこか心の底で、こういうことを表に出せば、それ以上はできなくなるんじゃないかと考えました。拉致も明らかになるとできませんからね。」「スパイのことはすごく深い傷を負いました。それは兄から負った傷というよりは、今の組織とか国とか、すべての状況の中で、この強烈な記憶があるから、この映画を作ったのかもしれません。」(「民団新聞」8・15)
横田滋・さきえ夫妻が「めぐみ」の名前を表に出すことを承知してわが娘の救援に立ち上がっていったときのことを思い出した。娘の「命」を見据えた夫妻のこの決断が北朝鮮の独裁者に立ち向かう不退転の闘いの出発点になった。いまだ成果を挙げるにはいたっていないが、全世界に問題の所在を知らせ、国論を統一して独裁政権をあわてさせ追い込むところまではきている。
30歳過ぎのときに兄の口から出た独裁政権の「スパイになれ」という意思をきっぱり断ったヤンさんが10数年の歳月の後にそれを映画という形で社会に押し出した。横田夫妻をはじめとする拉致被害者家族が切り開いてきた運動がヤンさんという優れものの開き直りの精神を後押ししたのではないか。僕はそんな風に思う。
10万人に近い人たちが北に送られた。金日成の還暦の貢物として贈られた朝鮮大学生だけでも100人はくだらない。その人たちの家族や友人の中からヤンさんに続く人が出てくるだろうか。朝鮮総連と北朝鮮の王朝にはっきりと背を向けて自分を語り始める人が続出してほしい。そのことだけが北の地で塗炭に苦しむ帰国者たちの運命を切り開く。
自分たちの村内で日本の社会の批判には長けていても自分たちが直面し続けてきた独裁政権の罪業にはただただ沈黙するだけ。そんな在日朝鮮人「知識人」を僕は尊敬しない。一緒に歩みたい、友達になりたいなどととても思えないのだ。
ヤンさんはわたしの家族にはまだまだ映画にできる話がある。できることなら続きを作って行きたいといっておられた。自分にできる応援をしたいなあと思う。
皆さん映画館に足を運んで「かぞくのくに」を見てください。どんな感想を持ったかを教えてください。この映画が多くの人に見られたらヤンさんがつぎの作品に挑戦できるのです。