
しかし、炭素鋼の刃物はよく切れる。
炭素鋼はステンレス鋼や特殊鋼より製造
段階では柔らかい。
四角錐の押圧硬度試験のロックウエル
数値で同じ数値であっても、炭素鋼は
柔らかい。
その柔らかいというのはロックウエルや
ヴィッカースで表す数値とは別な要素と
して柔らかい。説明が難しいが。
刃物の不思議な面がある。
同じロックウエル硬度の炭素鋼とステン
レス鋼の刃物では、切れ味は同じでも切り
味が異なる。
刃物好きの中には時々異様な程に炭素鋼
に執着する人がいるが、あれは多分炭素
鋼の切り味(切れ味ではない)に魅せられ
た人なのではなかろうか。
ゴリゴリガリガリバリバリではない。
ヌーッと切れる。滑らかに吸い込まれる
ように。それが炭素鋼の切り味だ。
ステンレスの場合はもの凄く切れても、
なんというか貼り付くような触感を与え
るのだ。
これらはごくほんの微細な差異として
現出する。切れ味試験器なる刃先だけで
重ね積んだ紙を切った数値だけでは絶対
に検出はできない。刃先の切れ味ではな
く、切り味なのだ。
料理がいくら栄養成分や他もろもろの数値
的な何かでもその味を捉えることができな
いという、その料理の味に刃物の切り味は
似ている。というか全く同じ。人間でない
と差異と個別の特性が感知できない。
炭素鋼の刃物は、空気と触れることで
必ず錆びる。
これなども、防錆コーティングはしてある
が刃先の小刃は研ぎ面が剥き出しだ。
手入れを怠ると錆びる。
特にこのケラム(製造はマルティーニ)の
プーッコは錆びる。
そこで出てくる防錆油。
日本刀にもバッチリのヤマハバルブオイル
のビンテージグレードだ。
食材を切らない限りは、これを刃先に塗布
しておく。

そして、それから仕舞う。

そして、それから仕舞う。
このシースは本革ではないので、シースに
入れっぱなしでもOKだ。

本物シースに炭素鋼の刃物を入れたまま
だと、まず錆びる。
革はなめす前の皮段階で多量の塩漬けに
されているので、革製品と鋼を密着させ
ていると確実に錆びる。ステンレスでさえ
錆びる。要注意だ。
本革シースとナイフは別々に保管する事
が正しい。ナイフ愛好家は皆そうしてい
る。理由はそれが正解だからだ。
カイデックス等のシースにはナイフを入れ
たままでも問題は起きない。
なお、本式プーッコのように、中に木や
プラスティックのインナーシースがある
物は、本革のアウターシースでも出錆の
影響は少ないだろう。
