以前「ざんねんな日本史」のレヴューで厳しい目の評価をしたのですが、そうは言っても本郷和人さんの本は目につくと読んでいます。
今回の「考える日本史」は、本郷さん自身が至極まっとうな本と言っているのですが、歴史という学問は知っていることではなくて考えることであって、歴史をどう考えるかを河出書房新社の藤崎さんが出した漢字一字のお題に従って書いていったもの。
お題は「信」「血」「恨」「法」「貧」「戦」「拠」「三」「知」「異」の10です。
本郷さんの中世だけでなく、古代から明治まで話は縦横無尽に飛ぶのですが、事実関係を積み重ねて行って、それをどう考えていくのか、暗記ではない歴史の見方に目を開けさせられました。その面では前回読んだ「ざんねんな日本史」よりも知的好奇心への刺激に富んだものでした。
なるほどと思ったところを触りだけ紹介すると
・「国家の信用」は「銭」で量ることができる。日本最初に作られた銭は和同開珎か富本銭かと言われていますが、実際に通貨として流通していたかどうかは怪しい。実際に銭が普及したのは、中国から大量の銭が流入した鎌倉時代中期。その頃にようやく国家として信用が大きくなったと言うことであって、古代律令体制と言うものは実態として律令に定められていたことが適用されていない絵に描いた餅だった。
・古代以来中国の制度を取り入れてきたはずなのに日本では科挙制度は取り入れていない。政治は官僚ではなく世襲の貴族が行ってきた。日本では表向きの地位よりも「血」の原理によって動いてきている。ただし、必ずしもDNA的な繋がりの血統を意味するものではなく、養子制度などもあり、その「家」の繋がりの方が重視されてきた。豊臣秀頼は多分DNA的には血統は繋がっていないのだが、秀吉が認めた以上「家」の継承者として秀吉の子どもになる。
・世襲原理が打ち破られた時代が明治時代なのだが、そこでは学歴を重視した「立身出世」の実力主義となり、高度経済成長迄連なるのですが、今の政治状況は世襲主義が戻りつつあるような雰囲気も。そこに失われた30年の通奏低音があるかも。
・戦いの3要素は「戦術」「戦略」「兵站」なのだが、日本は敗戦後、戦争を科学することがタブー視されてきた。戦術では義経の鵯越の戦いとか信長の桶狭間の戦いのように小が大を打ち破ることばかりもてはやされてきたが、信長、秀吉の時代からは野戦陣地を構築するなど土木技術を駆使したり新兵器を運用したりしている。因みに信長は桶狭間以降は寡兵で果敢に挑むことはせず物量で圧倒する戦術を取っている。戦略論ではどちらが戦争を引き起こしその目的は何かをきちんと把握することが重要。戦いの勝敗についても、その目的が達成された同課で考えることができる。そして日本軍が軽視していた「兵站」。戦争に勝つためにはきちんと準備をすることが当然で、兵力や装備をきちんとそろえなければ勝利はおぼつかない。現実を見ることなく精神論と現地調達では、結果は明らかです。
・古代日本の統治範囲は何処までと言う議論になるのですが、古代の3の関(愛発の関・不破の関・鈴鹿の関)より東の東国は古代の朝廷にとって「異なる存在」。戦国時代では地域レベルで「駿河国の人間」「甲斐国の人間」という意識で他国の人間はあくまで他国の人間。列島全体で自分たちは日本人と意識されたのは豊臣秀吉の天下統一の後だった。
こんなさわりだけでも興味を持てたら、新書ですぐ読めるのでぜひ読んでみてください。話は古代から明治大正昭和まで飛ぶこともあって、現代の日本の在り様も考えさせられ、あまり期待もせずに手に取った本ですが、予想外と言うと失礼ですがお勧め本でした。
一緒に写っているのは、今野敏の「大義」です。
「ハマの用心棒」と呼ばれている横浜みなとみらい署暴対係長の諸橋夏男が主人公のシリーズです。係長補佐の城島、ヤクザまがいの風貌の浜崎、一見優男で頼りなさそうな倉持などの係員と常磐町のとっつあんこと神風会組長の神野義治などが絡み合いながらの刑事ものです。
何時もながら今野敏の小説はテンポがよくてすいすい読むことができます。
今回はいつもの長編小説ではなくて短編集。それぞれの登場人物のエピソードが語られていて、このシリーズのファンには興味深くて楽しめました。
今野さんの小説の難点はテンポよく一気に読ませるのですが、そのせいか話の展開が記憶に残りにくい。図書館に並んでいる本のどれを読んだかよく分からず、最初パラパラ読んでもさらに読んだかどうかわからず、ままよと借りて読んだら三分の一ほど読み進めて初めて読んだことあるかもと気が付くと言う点。それは私の記憶力の問題なんでしょうけど…
それでもハマの用心棒シリーズも新しい小説が読みたいので早く新刊が出てほしいのですが、やっぱり人気があって新刊が出るとなると暫くはすごい予約件数となりなかなか順番が回ってこないのも難点です。
今回の「考える日本史」は、本郷さん自身が至極まっとうな本と言っているのですが、歴史という学問は知っていることではなくて考えることであって、歴史をどう考えるかを河出書房新社の藤崎さんが出した漢字一字のお題に従って書いていったもの。
お題は「信」「血」「恨」「法」「貧」「戦」「拠」「三」「知」「異」の10です。
本郷さんの中世だけでなく、古代から明治まで話は縦横無尽に飛ぶのですが、事実関係を積み重ねて行って、それをどう考えていくのか、暗記ではない歴史の見方に目を開けさせられました。その面では前回読んだ「ざんねんな日本史」よりも知的好奇心への刺激に富んだものでした。
なるほどと思ったところを触りだけ紹介すると
・「国家の信用」は「銭」で量ることができる。日本最初に作られた銭は和同開珎か富本銭かと言われていますが、実際に通貨として流通していたかどうかは怪しい。実際に銭が普及したのは、中国から大量の銭が流入した鎌倉時代中期。その頃にようやく国家として信用が大きくなったと言うことであって、古代律令体制と言うものは実態として律令に定められていたことが適用されていない絵に描いた餅だった。
・古代以来中国の制度を取り入れてきたはずなのに日本では科挙制度は取り入れていない。政治は官僚ではなく世襲の貴族が行ってきた。日本では表向きの地位よりも「血」の原理によって動いてきている。ただし、必ずしもDNA的な繋がりの血統を意味するものではなく、養子制度などもあり、その「家」の繋がりの方が重視されてきた。豊臣秀頼は多分DNA的には血統は繋がっていないのだが、秀吉が認めた以上「家」の継承者として秀吉の子どもになる。
・世襲原理が打ち破られた時代が明治時代なのだが、そこでは学歴を重視した「立身出世」の実力主義となり、高度経済成長迄連なるのですが、今の政治状況は世襲主義が戻りつつあるような雰囲気も。そこに失われた30年の通奏低音があるかも。
・戦いの3要素は「戦術」「戦略」「兵站」なのだが、日本は敗戦後、戦争を科学することがタブー視されてきた。戦術では義経の鵯越の戦いとか信長の桶狭間の戦いのように小が大を打ち破ることばかりもてはやされてきたが、信長、秀吉の時代からは野戦陣地を構築するなど土木技術を駆使したり新兵器を運用したりしている。因みに信長は桶狭間以降は寡兵で果敢に挑むことはせず物量で圧倒する戦術を取っている。戦略論ではどちらが戦争を引き起こしその目的は何かをきちんと把握することが重要。戦いの勝敗についても、その目的が達成された同課で考えることができる。そして日本軍が軽視していた「兵站」。戦争に勝つためにはきちんと準備をすることが当然で、兵力や装備をきちんとそろえなければ勝利はおぼつかない。現実を見ることなく精神論と現地調達では、結果は明らかです。
・古代日本の統治範囲は何処までと言う議論になるのですが、古代の3の関(愛発の関・不破の関・鈴鹿の関)より東の東国は古代の朝廷にとって「異なる存在」。戦国時代では地域レベルで「駿河国の人間」「甲斐国の人間」という意識で他国の人間はあくまで他国の人間。列島全体で自分たちは日本人と意識されたのは豊臣秀吉の天下統一の後だった。
こんなさわりだけでも興味を持てたら、新書ですぐ読めるのでぜひ読んでみてください。話は古代から明治大正昭和まで飛ぶこともあって、現代の日本の在り様も考えさせられ、あまり期待もせずに手に取った本ですが、予想外と言うと失礼ですがお勧め本でした。
一緒に写っているのは、今野敏の「大義」です。
「ハマの用心棒」と呼ばれている横浜みなとみらい署暴対係長の諸橋夏男が主人公のシリーズです。係長補佐の城島、ヤクザまがいの風貌の浜崎、一見優男で頼りなさそうな倉持などの係員と常磐町のとっつあんこと神風会組長の神野義治などが絡み合いながらの刑事ものです。
何時もながら今野敏の小説はテンポがよくてすいすい読むことができます。
今回はいつもの長編小説ではなくて短編集。それぞれの登場人物のエピソードが語られていて、このシリーズのファンには興味深くて楽しめました。
今野さんの小説の難点はテンポよく一気に読ませるのですが、そのせいか話の展開が記憶に残りにくい。図書館に並んでいる本のどれを読んだかよく分からず、最初パラパラ読んでもさらに読んだかどうかわからず、ままよと借りて読んだら三分の一ほど読み進めて初めて読んだことあるかもと気が付くと言う点。それは私の記憶力の問題なんでしょうけど…
それでもハマの用心棒シリーズも新しい小説が読みたいので早く新刊が出てほしいのですが、やっぱり人気があって新刊が出るとなると暫くはすごい予約件数となりなかなか順番が回ってこないのも難点です。