【仲間には花穂が2本以上の「フタリシズカ」も】
この山野草、優美な名前を誇らしげに思っているに違いない。この名前を付けてもらっていなかったら、これほど注目も集めなかったかもしれない。艶のある4枚の葉に囲まれて中央から1本の花穂が伸びる清楚な佇まいを、白拍子の静御前が舞う姿にたとえて「一人静」と名付けられた。
センリョウ科の多年草で、北海道~九州の丘陵や低山の林床に自生する。花期4~5月。花といっても花弁もガクもなく、長さ3cmほどの穂に白い花糸がブラシ状に左右に伸びるだけ。それが化粧道具の眉刷毛(はけ)に似ていることから「マユハキソウ(眉掃草)」とも呼ばれる。静御前が源義経に従って身を隠した吉野にちなんで「ヨシノシズカ」の別名も。
仲間に花穂が2本以上の「フタリシズカ(二人静)」もある。花期はヒトリシズカよりやや遅く、花穂は時に5本もあるそうだ。片岡寧豊著の『万葉の花』(青幻舎)によると、万葉集に出てくる「つぎね」がヒトリシズカまたはフタリシズカを指すともいわれる。その一方で、これは植物名ではなく「数多く続く嶺々」という説もあるそうだ。
近縁の「キビヒトリシズカ」は近畿以西に分布する。「キビ」は最初に見つかった「吉備」地方に由来し、草丈や花糸がヒトリシズカより長いのが特徴。環境省は「絶滅の危機が増大している」として絶滅危惧Ⅱ類に登録し、都道府県段階でも岡山、山口、福岡など8県で絶滅危惧種になっている。ヒトリシズカは鹿児島県で絶滅危惧Ⅱ類、和歌山県で準絶滅危惧種。「きみが名か一人静といひにけり」(室生犀星)。