【別名「ルリチョウソウ」、唇形の紫花はシソ科で最大級】
本州、四国、九州の山地や丘陵地に自生するシソ科の多年草。4~5月頃、直立した花茎(高さ30~40cm)の上部に、鮮やかな青紫色の筒状唇形花を数個ずつ付ける。花冠は下側の幅が広く、内側には縞模様が入って長い白い毛が生える。1つ1つの花の長さは4~5cmあり、国内のシソ科の花では最大級の大きさ。「カズラ」の名は花後に根元から長いランナー(走出枝)が伸びることによる。
問題は「ラショウモン」という名前。「原色牧野植物大図鑑」はこの和名の由来について「花冠を渡辺綱が羅生門で切り落とした鬼の腕に見立てた」と記す。渡辺綱(源綱)は平安中期の武将で、大江山の酒呑童子や鬼同丸退治などの武勇伝で有名。京都・一条戻橋で美女から姿を変えた鬼の腕を名刀で切り落とした説話でも知られる。謡曲「羅生門」では舞台が一条戻橋から羅生門に移し変えられた。
それにしてもこの紫花を「鬼の腕」に見立てるとは! 誰がいつ頃名付けたのだろうか。江戸中期の百科事典「和漢三才図会」(1713年頃成立、寺島良安編纂)には既に「羅生門(本名未詳)」として紹介されている。18世紀前半にはチョウが舞うような花の形から「瑠璃蝶草(るりちょうそう)」とも呼ばれていた。
植物研究家の一部では、「ラショウモン」=「鬼の腕」という解釈は牧野富太郎博士の説とみる向きも。怪奇的な名前はこの花にふさわしくないという指摘もある。この山野草も例に漏れず自生地が減少。東京都では既に絶滅したとみられ、千葉、静岡、和歌山、徳島、高知の各県では絶滅危惧Ⅱ類、奈良県では準絶滅危惧種に指定されている。