【「国難」研究の最前線~南海トラフ巨大地震と首都直下地震の被害の定量化】
「京都大学未来フォーラム」が4日、京大百周年時計台記念館で開かれ、阪神・淡路大震災記念人と防災未来センター長で関西大学社会安全研究センター長・教授の河田惠昭(よしあき)氏(京大名誉教授)が講演した。演題は「『国難』研究の最前線~南海トラフ巨大地震と首都直下地震の被害の定量化」。河田氏は「災害と私たちの知恵比べで、〝想定外〟となるような巨大な災害を起こさないことが重要」とし、そのためにも想定される被害全体の定量化と最悪被害のシナリオが不可欠と強調した。
河田氏はまず「起こってほしくない地震群」として3つを挙げた。①首都直下地震がウイークデーの朝のラッシュアワーに起きる②南海トラフ巨大地震が台風接近中あるいは梅雨前線豪雨時の夜中に起きる③京都東山36峰と平行して南北に走る花折断層帯地震が、祇園祭の宵山あるいは山鉾巡行の最中に起きる。「こんな最悪な事態も想定されるものの、現実には全く対策が立てられていない」。
河田氏は首都直下地震と南海トラフ巨大地震は「国難」となって日本衰退を招く恐れがあると警告を発する。過去の例として江戸幕府解体につながった江戸末期の複合災害を挙げる。1854年に安政東海地震と南海地震、55年には安政江戸地震、さらにその翌年には安政江戸暴風雨に見舞われた。巨大災害群の襲来で幕府の財政は逼迫し、外圧(列強の開国要求)と内圧(倒幕運動)と相俟って、幕藩体制崩壊の大きな要因の1つになったとみる。
平安時代の9世紀後半にも富士山貞観大噴火、貞観地震、仁和南海地震が相次ぎ発生し国難に直面した。貞観地震は京都の祇園祭が始まるきっかけになったことでも知られる。18世紀初めにもわずか4年の間に元禄地震、宝永地震、富士山宝永噴火と大災害が続いた。「歴史は繰り返す。(大災害が連続して)起こるということを考えておく必要がある」。東日本大震災に続いて首都直下地震、南海トラフ巨大地震が発生すると、日本は立ち行かなくなって先進国から落ちこぼれていく恐れもあるという。
首都直下地震は30年以内の発生確率70%で、被害想定は死者2万3000人、被害額200兆~300兆円、震災がれき量は約1億トン(東日本大震災の3倍)。南海トラフ巨大地震は死者32万人、被害額220兆円、がれき量3.1億トン。「ただ、公表数字はあくまでも限定的なもの。社会・経済的な被害額はカウントできるものしか含まれておらず、現実的にははるかに超える数字になる」と予想する。
河田氏は上場企業の86%が本社を東京に置き、人口が集中する首都圏一極集中の現状を憂慮する。「フランスと英国もパリ、ロンドンに集中しているが、日本と違って両国には活断層がない。東日本大震災は復興に20年を要するといわれるが、首都直下地震の復興には少なくとも100年はかかる」と指摘する。そして「首都圏一極集中を意識的に破壊することができるかが(防災・減災上の)最大の課題」とも力説していた。