【別名「花ジュンサイ」、若葉は食用にも】
ミツガシワ科アサザ属の浮葉植物。北半球の温帯地域に広く分布し、日本では北海道を除く各地の池や湖沼の比較的水深の浅い所で群落をつくる。葉はスイレンに似た艶のある緑色で、6~8月ごろ、葉の間から茎を伸ばし先端に径3~4cmほどの色鮮やかな黄花を付ける。5枚に分かれた花びらの縁にはヒラヒラのひだ飾り。半日花で、早朝に開いて昼ごろにはしぼんでしまう。
名前の由来には諸説。「朝咲く」や「浅く咲く」からの転訛、地下茎が絡まることを意味する「あざなふ」から来ているといった説など。アサザは若葉が食用になり「花ジュンサイ(蓴菜)」とも呼ばれる。そこから「水の浅い所に生える野菜」として「浅浅菜(あさあさな)」に由来するという説もある。アサザには「イケノオモダカ(池の沢瀉)」という別名も。英名は「イエロー・フローティング・ハート」。
アサザは万葉集に「あざさ」として登場する。「か黒き髪に真木綿(まゆふ)もち あざさ結ひ垂れ……」(豊かな黒髪に木綿であざさを結い垂らし……)。万葉の時代、アサザの花は女性の髪飾りにもなっていたというわけだ。この長歌の前半には「うち日さつ三宅の原ゆ常土(ひたつち)に足踏み貫(ぬ)き……」とある。「三宅の原」は奈良盆地のほぼ中央にある今の奈良県磯城郡三宅町の辺り。その三宅町はアサザを万葉名の「あざさ」として町の花に指定、町内各所で栽培している(写真は三宅町保健福祉施設「あざさ苑」で)。
仲間のアサザ属には白花を付ける「ガガブタ」や「ヒメシロアサザ」などがある。ある植物辞典によると、ガガブタの「ガガ」は「スッポン」を指し、亀の甲羅に似た葉っぱで水面に蓋をしたような姿から、こんな奇妙な名前が付けられたという。花はアサザより小型だが、ヒメシロアサザはさらに一回り小さい。アサザは環境省のレッドデータブックで準絶滅危惧種。都府県段階では大阪、京都、愛媛、鳥取など既に野生種が絶滅したとみられる地域も多い。「舞ひ落つる蝶ありあさざかしげ咲き」(星野立子)。