ルース・ベイダー・ギンズバーグについてはビリーブ(男女平等ランキング110位の国から見る「ビリーブ 未来への大逆転」https://blog.goo.ne.jp/kenro5/e/2f938f020190349ea2fe880a0ef4586a)である程度述べたので、本作で気になったところだけ書くことにする。その大きな点は、字幕でルースが夫のことを話す時には「夫は」と訳しているのに、ルースに質問するすべての人が夫のことを尋ねる時には「ご主人は」と訳していることだ。
フェミニズムの成果を持ち出すまでもない。主人の反対語は奴隷である。主婦だという意見もあるだろうが、主夫の場合、その配偶者を「主人」と呼んだりするだろうか。主人はかくもジェンダーにおける非対称性を明らかした用語であり、そもそも英語の主人、例えば、MasterとかLordとかは妻の側から見た夫を指すものとしての用語ではない。字幕者が自己の極めて日本的ジェンダー規範に縛られた用語を当てはめたのである。
クリントン大統領の時代に女性として史上2番目に最高裁判事に任命されたRBGは、「ビリーブ」で描かれたように、1950年代優秀な成績で法曹資格を取ったのに、どの弁護士事務所も雇わなかった時代を生き、その後、70年代になって性差別、少数者差別を問う重要な訴訟を勝ち抜いてきた。しかし、アメリカとて性差別がなくなったわけではもちろんない。初の女性大統領になるはずだったヒラリー・クリントンは女性差別主義者の権化であるかのようなドナルド・トランプに敗れた。ハリウッドの大物による性差別、犯罪行為に端を発した「#Me Too」運動が起こったのが2017年、その後の「#Times Up」運動は性に限らず、少数者差別・排除を許さない動きにつながった。これらの動きに先駆的に最高裁の差別容認判決に果敢に反対意見を述べ続けてきたのがRBGだった。しかも、現在連邦最高裁判事の構成は、保守5、リベラル4と保守派が強い上に、最高齢のRBGが引退すれば、トランプは超保守派の裁判官を送り込むことは目に見えている。だから86歳のRBGは倒れるわけにはいかないのだ。
RBGの功績は偉大で、尊敬を集めるのは理解できるが、その人気がグッズになったり、モノマネ芸人が出るなどアイドル的なのには戸惑ってしまう。しかし、日本の最高裁判事のように普段どう働いているのか、姿が全くわからないより、テレビ番組に出演し、オペラ鑑賞などの私生活、健康維持のためのトレーニング風景など、裁判官も人間だとわかる方がいいのではないか。最高裁には弁護士枠があって、大阪弁護士会からもこれまで弁護士から最高裁判事になられた人もいるが、退官後しか最高裁当時のことをお話しされないし、退官後早く亡くなられた方も数人いる。それほどの激務だったのであろうか、弁護士との差が激しかったのだろうか。ちなみに現在大阪弁護士会出身の最高裁判事はいない。
いや、安倍政権になってからの最高裁判事の指名は、政権に都合のいい判断をしそうな人ばかり送り込んでいるとのもっぱらの話。どこまでもトランプについていくポチらしい振る舞いとは言い過ぎだろうか。