韓国映画の「共犯者たち」と「スパイネーション」で韓国メディアの対政権姿勢、真っ当なジャーナリズムの姿を紹介したが(韓国の民主主義にならう 「共犯者たち」と「スパイネーション 自白」https://blog.goo.ne.jp/kenro5/e/29d2c9e778aaa6edb8c378b322436a9b)、日本でもやっと対政権に見合うものができたかと思える作品である。
映画はここ2、3年で起こっている政権スキャンダルそのままに進行する。本筋は大学新設に関わる疑惑、脇に政権の独善に批判的なトップ官僚の醜聞、首相のお友達ジャーナリストによる性暴力スキャンダルのもみ消し…。言うまでもなく、大学新設は設置申請者が安倍首相とお友達、特区を利用した無理くりな加計学園認可、その加計学園認可に疑義を呈し、発言した前川喜平元文科省事務次官に対する「出会い系バー」出入りについての疑義発言直前のマスコミへのリーク(もちろん読売新聞)、ジャーナリストの伊藤詩織さんに対する安倍首相に近いTBS政治部記者でワシントン支局長だった山口敬之氏からの性暴力告発と逮捕状の失効、をそれぞれ指している。こうまで好き放題できるのか、「最高権力者」とのたまった人の政権では。
映画はあの菅官房長官が最も目の敵にする東京新聞・望月衣塑子記者の『新聞記者』(角川新書)に着想を得た、完全なフィクションである。とは言っても、多分フィクションには思えない、描き方が。韓国人俳優のシム・ウンギョン演じる新聞記者吉岡エリカ、大学新設疑惑を追うが、父親もジャーナリストで「誤報」で自殺に追い込まれている。内閣情報調査室勤務のエリート官僚杉原拓海を演じる松坂桃季。子どももでき、家庭は順風満帆だが、仕事は政権に批判的な勢力に関するマイナス情報を捏造する日々。内閣情報調査室、「内調」は実際の組織で、まさに映画で描かれているような業務を日々こなしていると言う。前川元事務次官の「醜聞」も内調が集め、読売にリークしたと言うのがもっぱらの話だ。それほどまでに内調は「政権の安定」のためにはなんでもする。杉原が上司の指示、「(首相官邸前の安保法制反対デモに写った)人物の素性を調べろ」に対し、「民間人じゃないですか」と問うが、多分、「新左翼・党派」監視が主な業務だった公安調査庁が、組織防衛もあって内調と一体となって一般市民監視にシフトしていると言うのもまたもっぱらの話である。今や監視カメラが街を写し続け、携帯・スマホのGPSやNシステムで被疑者の確保も簡単になってきている。武器輸出は「防衛装備移転」と言い換えられ、沖縄に「寄り添う」は「見捨てる」の意である。これではオーウェルの『1984年』の世界だ。アメリカがイランを盛んに挑発しているが、もし、武力攻撃になれば簡単に安保法制は発動されるだろう。「日本の存立が脅かされ、国民の権利が根底から覆される明白な危険がある」と判断すれば。イランを始め中東から石油を供給している日本からすれば、その可能性は大で、そういった実態があるのに憲法を変えないのはおかしいと。
政権与党の安定的勝利とも報道される今夏の参議院選挙。「新聞記者」が制作、ヒットしたのを映像世界の強かな抵抗と見るか、有権者のカエルのぬるま湯と見るか。本作とともに志葉玲さんの記事(「都合の悪い者」陥れる官邸のフェイクー『新聞記者』のリアル、望月記者らに聞く
https://news.yahoo.co.jp/byline/shivarei/20190705-00132919/)も強くオススメする。