きものは着るものそれ以外の何物でもない、日本人はきものと洋服を上手に着分けている民族なのだ
と簡単に思っていた時
新宿の伊勢丹百貨店で「万葉の色を染める」というブースを見つけ、そこに吊り下げられた布の色の美しさに惹かれふらふらと会場に入った
そこには年配の品のいい女性と、羽織袴の文士風の年輩の男がテーブルに座って談笑をしていた
入場者は一人チャ子ちゃん先生だけ、そこに近づいてきた男は、万葉数のことをあれこれ私に質問してきた。そしてその答えに対して、注釈を加え、万葉集の中には植物染料のことも多く歌われているのだと解説した
植物染料という言葉も初めて聞く
その植物染料からどうしてこんな美しい色が出るのかという疑問、そうすると、一つ一つテーブルに置かれた染料の素材を持ってきて
「この根は赤根草の根だがこんなきれいな茜色が生まれる」
これは紫根で染めた紫、これは黄肌で染めた黄色と説明を受ける。しかも茜は血流をよくする漢方、紫根は痛みを取る、黄肌は傷を和らげる
「色を出す植物のすべては漢方でもある」
こんな話今まで聞いたことがない
しかも私は腎臓とか気管支炎を幼少のころ煩い、それを母がすべて漢方薬で根本から治してくれたという経験がある
そのことを告げると、更に色の説明に力が入り、こちらはますます「万葉色」の虜になっていった
テーブルに座って居た婦人も加わり、その婦人は男の染めた糸を布に織った人だという、お二人は無知な私の質問に丁寧に嬉しそうに応対してくれた
男の名は山崎斌、婦人は上田光乃さん
山崎斌さんはもともとは小説家、島崎藤村の弟子で、若山牧水の親友これだけ聞くともう無条件に「ご尊敬申し上げる」になってしまう文学少女
一方の上田光乃さんは華族女学校のご出身、ヴァイオリンの名手でもあり夫とヨーロッパ暮らしをして帰り、ご自分で考案した織機を使って機織りを若いお嬢さんたちに教えているのだという
この出会いがチャコちゃん先生を着物に向けた