チャコちゃん先生のつれづれ日記

きものエッセイスト 中谷比佐子の私的日記

着物を繫ぐもの 99

2019年02月22日 18時03分29秒 | 日記
タンスの引出しから出された着物を見て
溢れる涙を拭うのに必死だった

その着物は熊谷好博子さんの江戸解模様だ(今は東京友禅という)
一枚二枚ではない次から次に現れる袷、盛夏、単重全部江戸解
その他にも熊谷さんが後年に楽しんでいた木版刷のきものもーー
全部を拝見できなかったが見ただけで10枚はくだらない

江戸解を描く現場に何回も立会い
また私も色留め袖を持っていて大事に着ている
ここににあるのは大事に着ているというレベルではない
「先生ーーと思わず声が漏れそうに懐かしく、また作品の精緻な美しさに言葉もないため息ばかり
先生は亡くなって20年以上にもなる

精魂込めた作品が今ここにこうしてひっそりと布に包まれていた!

それはほかの着物と帯を拝見していて美しい紫の色の着物に出会い
「あっこれ熊谷好博子さんの紫だわ江戸前ねえ」と感嘆したら
「熊谷好博子さんのタンスがあります」
熊谷さんだけの着物が収められているのだという
「ええええーー一竿全部?」
「ええ こちらです}
すべてを拝見する時間はなかったけどあの手仕事の凄さを知っている身には10枚を見せていただければ大満足
熊谷好博子さんの江戸解をこんなにもたくさん見ることが出来たなんてしれだけでも感動感謝

持ち主は2006年に亡くなった新制作座の座長真山美保さん

私達が青春の頃「泥かぶら」で一世を風靡した劇団の創始者だ美しい方でいつも着物を着ていらした
真山美保さんが一番好んだ染色作家が熊谷好博子さんだったなんてーーー

熊谷家に電話をした時
「あのー博子さんいらっしゃいますか?」
「どちらにかけてますか?」
「くまがやこうひろこさんの宅ではないのですか?」
「わたし くまがやこうはくし といいますがーー」
「ええーすみません読み方がわからず失礼しましたお仕事の取材に伺いたいのです」

こんな失敗があったにもかかわらずとても丁寧に仕事のあれこれを説明してくださった
長野の飯田の出身でおじさんのところで紺屋の職人見習いをしていたが日本画が好きで川端龍子の弟子になり20代は絵画の勉強に明け暮れる

あるとき芸者の座敷着に出会い
「着物にはいろんな模様の可能性があるそちらに行ってみよう」
と思ったのが36歳のときだという

細やかな江戸解と大胆な石摺や葉摺り木目染め同じ作者とは思えないのは
職人肌と芸術魂の為せる技なのだろう

いつも着物を着ていて絵の具のかごを下げふらりと我が社に現れ墨絵の牡丹の花の書き方を伝授していた
才能のない子ばかりだったが楽しそうだったな
見本は今も手元にある

江戸解模様は鎌倉時代に遡る(これはまたの機会に解説)という話にも納得
「着物はその人を表す」
という言葉をよく口にしていただから精魂込めて作る
真山美保さんはそういう熊谷好博子さんの心情に共感したのだろう

縁を頂いた人に感謝

#江戸解模様 #熊谷好博子 #真山美保 #泥かぶら #新制作座 #中谷比佐子
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