光や温度を人工制御して野菜など農産物を栽培す「野菜工場」か゛、新たなビジネスとして東京都内で注目されている。都心のビルは屋内に水田を備え、野菜も生産。空き倉庫を使い、販路を広げる商社もある。無農薬で安定生産できる野菜工場は、冬場の露地栽培が困難な道内にも広がる可能性がありそうだ。
ビジネスマンが行き交う東京・大手町。9階建てビルに入ると、90平方㍍の水田が広がっていた。98個のライトに照らされた稲の向こうには、ガラス越しに高層ビルが見える。人材派遣会社「バソナグル-プ」が3月に設けた「ア-バンファ-ム」。就農支援する同社が農業の可能性を伝えようと開設した。レタスやインゲンなども栽培されている。野菜工場は土を使う場合もあるが、多くは養分入りの水で育てる水耕栽培だ。蛍光灯や発光ダイオ-ド(LED) の光は成長を促す赤や、形を整える青などを組み合わせている。水の成分やライトの使い方で味や栄養成分も変わる。天候に左右される露地物に比べ、野菜工場は温度や水、光など最適な生育環境を保てる。閉鎖空間のため、病害虫の影響も受けにくく、無農薬栽培が可能だ。野菜工場は産地偽装が相次ぎ、「食の安全」を求める消費者の志向とともに増えてきた。不況で本業が不調な異業種が「農地以外でも農業に参入できる」と関心を寄せている。東京・日本橋で紙製品を扱う商社「小津産業」は、都内の空き倉庫を活用。2008年からレタス類を年間60万株生産している。千葉大などの協力で、野菜本来の甘みが出るようにし「日本橋やさい」としてブランド化。都内の百貨店などで1株250円で売り、黒字化のめどを付けた。野菜工場は1980年代に稼働が始まり、09年に50ヵ所に増えた。経済産業省と農林水産省も普及に力を入れ、11年度までに150ヵ所に増やす方針だ。天候が厳しい立地でも生産が可能で、経産省によると08年からは南極昭和基地で小型工場が稼働、越冬隊に野菜を提供している。しかし、生産量は少ない。工場野菜は現在、レタスなど葉物類が中心だが、国内のレタスの総生産量約50㌧のち、工場産は1%程度。農水省は「野菜工場が農業の主役になるとは考えにくいが、さまざまな栽培方法が野菜の安定生産につながる」と説明する。課題は採算性だ。財団法人社会開発研究センタ-(東京)によると、工場産レタスの主な小売価格は300円前後で、露地物の2倍。数億円の設備費や、光熱費を回収するため割高になってしまう。同センタ-の高辻正基理事は「普及には低コスト化と消費者へのPRが不可欠と強調する。実際、太陽の当たらない工場で育つ野菜に違和感を持つ人も多い。工場産レタスを購入した男性会社員(33)は「最初は栽培方法が気になったが、購入すると味が良く、日持ちもした」と話す。
安定生産、道内でも利点
道内の主な野菜工場は09年で3ヶ所だが、研究者らは北海道は好立地と口をそろえる。道内の露地レタスの生産は夏場に限られ、それ以外は道外に頼る。ス-パ-や外食チェ-ンにとって、端境期や天候に左右されない安定供給は魅力的だ。岩見沢で工場を稼働する社会福祉法人クヒドフェアも「道内で販路を開拓するチャンスは十分ある」と話す。工場を大消費地の近郊に設置すれば、輸送コストも抑えられる。研究者らは「天候が厳しい地域ほど安定生産のメリットが生かせる。販路などで露地野菜とすみ分けも可能」と話し、道内に熱い視線を送っている。
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