万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

ロヒンギャ問題は公平に-ミス・ユニバース入賞取消問題

2017年10月07日 16時24分59秒 | 国際政治
ロヒンギャ非難、ミス・ユニバース入賞取り消し
報道に因りますと、ミャンマーにおいてミス・ユニバースに入賞した女性が、ロヒンギャ問題においてロヒンギャ側に批判的な動画を投稿したことから、主催者側から「規約違反」を理由に賞を取り消されたそうです。しかしながら、この措置、批判されるべきは、主催者側なのではないかと思うのです。

 表面的な現象だけに注目すれば、如何にも、ミャンマーの多数派である仏教徒勢力が、政府ぐるみでイスラム系少数派のロヒンギャの人々を迫害しているように見えます。実際に、ロヒンギャの人々にはミャンマー籍をはじめとして何れの国の国籍もないため、法の保護も十分には受けられず、その立場が極めて不安定な境遇にある人々であることは確かなことです。しかしながら、この問題は、極めて政治的な問題ですので、ロヒンギャの側の主張のみを以って、ミャンマー側に“悪者”のレッテルを貼るのは公平ではないように思えます。

 この問題の根は深く、現在、ロヒンギャ族の人々のその多くが居住するラカイン州の歴史を見ますと、既に3世紀頃から交易のために訪れていたアラブ商人が、8世紀辺りからイスラム教の布教活動にも従事するより、ロヒンギャ族のイスラム化が進むことになったと言います。暫くの間、仏教徒のミャンマー人とイスラム教徒のロヒンギャ族は平和裏に共存していましたが、この地域が東インド会社の支配下に入り、ベンガル管区(インドの西ベンガル州とバングラディッシュを含む…)に組み込まれると、両者の間には決定的な亀裂が生じます。何故ならば、ベンガルとラカイン(アラカン)との間の国境が消滅し、ベンガル側からイスラム教徒がミャンマー側に労働力として移住することができるようになったかです。こうして、仏教徒とイスラム教徒との人口比が後者に傾き、両者の関係は悪化の一途を辿ってゆくのです。現在では、仏教徒側が969運動といった武装組織を結成すると共に、ロヒンギャ側も外部のイスラム過激派勢力の支援の下で武装組織が活動しており、両勢力間の対立は、武力闘争に発展しています。

 以上の経緯は、国境の消滅が解決し難い深刻な移民問題を齎した前例であり、国境が低くなる一方のグローバル化時代に対する警鐘でもあります。そして、両者の対立要因を見ますと、必ずしも、仏教徒側のみに非があるとも思えません。しかも、入賞を取り消されたシュエ・エアイン・シーさんの批判点は、“ロヒンギャ側が被害者を装っているのではないか”というものであり、常々、日本国は周辺諸国による国際プロパガンダによって、一方的に“加害者”に仕立て上げられているため、“シーさんの主張には公平に耳を傾けるべき”と感じる日本人も少なくないのではないでしょうか。

 複雑な歴史的背景を有する問題については、公平な判断をなすためにも、自由な発言や事実の追求が許されるべきです。ミス・ユニバースの主催者が、ーさんの政治的な発言を咎めるとしますと、それは、一種の言論弾圧となるのではないでしょうか。

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