万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

アメリカの”南シナ海・北朝鮮切り離し策”は正解

2017年10月11日 15時55分19秒 | アメリカ
西沙沖で「航行の自由作戦」=中国の海洋進出けん制―米軍
 北朝鮮問題における協力を取り付ける必要から、アメリカのトランプ政権は、これまで、中国の南シナ海における行動に対して一歩引いた姿勢を見せてきました。しかしながら、報道によりますと、先日、パラセル(西沙)諸島でも「航行の自由作戦」が実施され、アメリカの自制も転換期を迎えているようです。

 今回の「航行の自由作戦」は、トランプ政権が誕生してから4回目となるそうですが、アメリカによる同作戦の再開は、国際法秩序の維持の観点からすれば、安心材料となります。何故ならば、仮に、アメリカが、北朝鮮問題と南シナ海問題とをバーター取引の材料とし、中国に対し、前者での協力を得るために後者について大幅に譲歩すれば、海運の大動脈でもある南シナ海が“中国の海”と化し、不法な軍事拠点化によって国際海洋秩序が著しく損なわれかねなかったからです。

 中国が、常設仲裁裁判所での判決を“紙屑”と見なして破り捨てたのは記憶に新しく、同国は、判決後にあっても歴史、並びに、法的根拠なき「九段線」の主張を取り下げてはいません。仮に、誰がどう見ても無理筋である「九段線」の主張が黙認されるとすれば、凡そ南シナ海全域が中国の海洋権益圏として囲い込まれ、EEZなどの国連海洋法条約において認められている南シナ海に接する他の諸国の権利は無に等しくなりましょう。また、中国の行動は、公海に対する“侵略”ともなり、国際公共財の私物化、あるいは、簒奪といっても過言ではないのです。

 アメリカが方針を転換した理由は、国連安保理での対北制裁決議において石油禁輸に踏み込めない中国に早々と見切りを付けたためとも推測されますが、あるいは、中国共産党全国代表大会が開催される10月18日を前にした、中国に対する強力な牽制の意味があったのかもしれません。同大会において、組織改革(粛清)を通して人民解放軍の掌握に努めてきた習近平国家主席による軍事独裁体制が成立するとの観測があり、今後、北朝鮮のみならず、“中国の夢”の実現を唱える中国が、軍事行動に及ぶ恐れがあるからです。中国がレールガンの開発を公式に認めたとする情報もあり(攻撃兵器としてか?)、その徴候は既に見受けられます。北朝鮮問題の有無に拘わらず、中国そのものが国際社会に対する深刻な脅威として立ち現われてきているのです。

 中国と北朝鮮の両国とも“無法国家”である場合には、取引によって迂闊にもどちらか一方の不法行為を許してしまうと、その途端、国際法秩序は崩壊の危機に瀕します。国際情勢、とりわけ加速化する中国の軍事大国化を考慮しますと、アメリカによる北朝鮮問題と南シナ海問題の切り離しは、国際法秩序を守るという国際社会の課題に対して、極めて適切な対応であったと思うのです。

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