万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

アメリカによるウクライナへの核兵器提供というオプション

2022年02月28日 11時03分53秒 | 国際政治

 報道によりますと、ロシアのウクライナ侵攻に際して同国に加勢したベラルーシは、今月27日に、ベラルーシを「非核地帯」とし「中立国家」と定めた現行の憲法を改正する国民投票を実施したそうです。非核化の方針を放棄する理由として、NATO加盟国である隣国のポーランドやバルト三国における核兵器配備の可能性を挙げていますが、ウクライナ危機をめぐっては、ロシアが核による先制攻撃を仄めかすなど(プーチン大統領は、核抑止力部隊に特別警戒態勢を取るように命じたとも…)、目下、瀬戸際作戦とも称するべき核戦略上の駆け引きが続いています。

 

 それでは、ベラルーシの核保有は、国際法において許されるのでしょうか。非核保有国の核保有に関しては、NPTの第10条1には、「各締約国は、この条約の対象である事項に関連する異常な事態が自国の至高の利益を危うくしていると認める場合には、その主権を行使してこの条約から脱退する権利を有する。…」とする一文があります。脱退手続きとしては、3か月前に加盟各国や国連安保理に通知を行う必要があるものの、同条約は、加盟国が国家存亡の危機に直面するような場合、加盟国に脱退の権利を与えているのです。

 

 同NPT脱退条件に照らしますと、ベラルーシよりもウクライナの方が余程NPTからの脱退条件を満たしているように思えます。前者は、’未来の可能性’に過ぎませんが、後者については、現実にあって核攻撃の脅迫を受けていることは否定のしようのない事実であるからです。ソ連邦崩壊後の1994年における「ブタペスト覚書」に基づいて、ウクライナは核兵器を放棄しましたが、今日の状況は、同国にNPTからの脱退、即ち、核保有の正当性を与えていると言えましょう。

 

 もっとも、ウクライナは、現状にあって核兵器を製造・運搬する独自の技術や設備を備えているわけではなく、自力での核武装を実現するには相当の時間を要します。このことは、たとえ核兵器を保有する権利があったとしても、今般の危機に際しては‘権利はあるけれども使えない’状態にあることを意味します。この点に関しては、ベラルーシも立場が同じなのですが、同国の方針を見ますと、ルカシェンコ大統領は、自国の核武装についてはロシアの核兵器の配備を想定しているようです。そして、この論理が通用するならば、ウクライナに対しても、他の核保有国が核兵器を提供することも認められることとなりましょう。

 

 1994年の「ブタペスト覚書」にあっては、ロシア、アメリカ、イギリスの三カ国が、核放棄後のベラルーシ、カザフスタン、並びに、ウクライナの安全を保障していますので、ベラルーシに対してロシアが核兵器を配備するならば、ウクライナに対して、アメリカ、あるいは、イギリスが核を提供しても、ロシアは法的にも論理的にも、そして、道義的にも批判はできないことでしょう。否、「ブタペスト覚覚書」を誠実に順守するならば、アメリカ、並びに、イギリスには、ウクライナに対して核兵器を提供することは、協定上の義務とも言えるかもしれません(ICBMやSLBMによる提供もあり得るかもしれない…)。

 

 以上に述べてきましたように、アメリカ、あるいは、イギリスによるウクライナに対する核兵器の提供は、国際法上における合法的な行為となり得ます。NATOの東方拡大問題やウクライナ国内における’民族対立、あるいは、背後に蠢く超国家権力体の’等の問題については一先ずは置くとしても、ウクライナに対する核兵器の提供というオプションは、ロシアの軍事行動に対して抑止的な作用を及ぼすかもしれません。もっとも、アメリカのバイデン政権は、非核化に熱心に取り組んできた民主党の政権ですので、ウクライナへの核提供に対しては核不拡散の観点から消極的な姿勢を見せることも予測されますが、今般のウクライナ危機を機に浮き彫りとなった核の抑止力の問題は、今日、NPT体制、あるいは、核兵器禁止条約を含めた非核化体制が曲がり角を迎えつつあることを示しているように思えます。そして、それは、日本国を含む全ての諸国の防衛、並びに、安全保障の行方とも深くかかわっていると思うのです。


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