万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

第三次世界大戦になれば人類の敗北

2023年03月21日 11時23分00秒 | 国際政治
 第一次世界大戦並びに第二次世界大戦の両大戦は、世界の諸国が二つの二大陣営に分かれて戦う構図となったために、教科書の記述ではそれぞれ協商国陣営並びに連合国陣営の勝利に終わっています。二項対立として描くことができるのですが、この世には、二頭作戦という世界支配を究極の目的とするヘーゲル流の‘止揚作戦’が存在している点を踏まえますと、世界大戦を二次元の平面上の対立構図としてのみ捉えることには、それなりのリスクがありましょう。何故ならば、対立構図が三次元であるならば、戦争に敗北した側のみならず勝利した側も、立体的な全体構図からすれば、負けている、あるいは、踏み台にされているかもしれないからです。

 今般のウクライナ紛争にあっても、三回目の世界大戦への発展が懸念されております。ドイツによる主力戦車レオパルト2の供与決定の情報が終末時計の針を進めるほどの衝撃をもって伝えられたように、親ウクライナの立場にあるNATOの関与が深まるにつれ、第三次世界大戦への拡大リスクは上昇する一方です。しかも、今般の紛争では、ロシアを追い詰めれば追い詰めるほど、核兵器が使用される可能性も高く、囁かれている人類の‘人口削減’の噂も真実味を帯びてきます。仮に第三次世界大戦に発展した場合、相互破壊及び相互殺戮により、戦勝国であれ、敗戦国であれ、何れの陣営も壊滅的な損害を受けます。戦争の結果に高笑いするのは、数度にわたる世界大戦を介して世界支配を進めてきた‘世界権力’のみなのかもしれません。

 しかも、事態をより難しくしている背景には、国際法秩序の発展があります。第一次世界大戦時にあっても、ドイツによる中立国であったベルギー侵犯が問題視されましたが、「害敵手段等の制限等に関する戦争法」の成立のみならず、同戦争後の1929年には「不戦条約」が発効したこともあり、領土侵犯行為は、国際法上の合法性を本格的に問われる時代を迎えました。このため、第二次世界大戦では、ドイツによるポーランド侵攻が侵略行為として見なされ、連合国側は、違法な侵略国との戦いという正義を掲げることともなったのです。かくして、戦後、枢軸国諸国に対してはニュルンベルグ並びに東京において国際軍事裁判が儲けられ、戦争責任者が戦争犯罪人として有罪判決をうけたのです。

 確かに、国際法秩序の形成は、全ての国家と全人類に恩恵をもたらすことは否定のしようもありません。司法制度が整うことにより、個々人の基本的な権利や自由が護られることは、国内の司法制度を見れば明らかです。無法とは、野蛮と殆ど同義となりましょう。ところが、司法システムには、国際レベルと国内レベルとでは強制執行力において雲泥の差があります。国内の制度では、警察力、検察力、並びに、裁判所の判決の執行力は、違反者個人が備えている物理的な抵抗力を大きく上回ります。その何れにあっても、公的機関は、違反者の行為を強制的に停止させたり、身柄を拘束したり、家宅捜査をしたり、あるいは、判決に従って刑罰を執行することができるのです。

一方、国際社会においては、そもそも国連には深刻な制度的欠陥があり警察機能が働きませんし、司法の仕組みも不完全です。判決が下されても刑罰の執行能力を欠くため、南シナ海問題で明らかとなったように、敗訴した国によって判決文は簡単に破り捨てられてしまいます。国際法に違反する行為を行なった国が、他の諸国に優る軍事力を保有する場合、国際法秩序を維持することは極めて困難となるのです。国家レベルでも、メキシコでは、マフィアが警察力を上回る暴力を備えたためにメキシコ麻薬戦争が起きています。

この由々しき側面は、法の正義を貫こうとすると、世界大戦を引き起こしてしまうジレンマを意味します。例えば、今般、ICC(国際刑事裁判所)は、プーチン大統領に逮捕状を発行しましたが、令状通りに同大統領を逮捕するためにモスクワまで有志諸国の軍隊を進めますと、当然に、同大統領は全面戦争に訴え、世界大戦が引き起こされましょう。違反者を捕縛しようとした結果、人類が世界権力の罠にかかり、敗北を喫してしまう展開は十分に予測されるのです。法を誠実に執行し、違反者を罰しようとする姿勢は正しくとも、結果が人類の敗北であれば、それは、本当に人類にとりまして正しい判断なのか、という疑問が、ここに呈されるのです。別の見方からすれば、国際法上の違反行為こそ、第三次世界大戦に引き込むための最も効果的な‘挑発’であるかもしれないのですから。

このように考えますと、たとえ国際法に違反することが確定したとしても(もっとも、政治問題でもあるウクライナ紛争の場合には、ロシアにも弁明のチャンスを与えると共に、中立公平なる機関による厳正なる調査も必要・・・)、それが、第三次世界大戦を帰結する可能性がある場合、これを根拠として、迂闊に武力行使に訴えるには慎重になるべきと言えましょう。司法制度が未熟な状況下では、人類の敗北を意味しかねないからです。今般のウクライナ紛争についても、世界権力の存在は妄想であるとする‘陰謀論’という名の心理作戦に惑わされることなく、三次元構造の視点から第三次世界大戦を回避しつつ、事態の早期収束を目指すべきではないでしょうか。そして、同問題の最終的な解決は、ウクライナが自国領としつつもロシアが併合した東南部地域の住民の、内外からの如何なる政治介入や圧力をも排した自由意志による決定に委ねるべきではないかと思うのです。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする