万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

パリオリンピック開会式から読むグローバリストの理想

2024年07月30日 10時08分32秒 | 国際政治
 パリオリンピックの開会式は、それが余りにも狂気と冒涜に満ちていたため、全世界に波紋を広げることとなりました。かつてのオリンピックは、国威発揚に利用するほど、開催国が自国の歴史、伝統、文化のすばらしさをアピールする絶好の大舞台でもありました。過去と現在とを比較しますと、まことに隔世の感があります。逆に、開催国の国民感情を逆なでにし、愚弄しているようにも見えるのですから。

 開会式の演出に対する嫌悪感が広がる中、開催国フランスのマクロン大統領は弁明に追われることともなったのですが、同大統領による反省の弁を聞きますと、グローバリストの世界観がそれとなく伝わってきます。何故ならば、同大統領は、開会式を擁護するに当たって‘進歩的な演出’と表現しているからです。この言葉には、‘開会式は人類の未来を先取りする先進的な演出であったにも拘わらず、一般の人々はその価値が分からずに残念であった’とする認識が滲み出ています。つまり、批判が沸き起こった原因は、‘未来’を理解できない遅れた一般の人々にある‘と言わんばかりなのです。

 それでは、人類の‘未来’がパリオリンピックの開会式にあって表現されているとしますと、人類の多くはこの未来ヴィジョンを歓迎し、喜んで同意するのでしょうか。おそらく、大多数の人々は、‘NON’と応えるように思えます。何故ならば、この未来ヴィジョンは、人類の一般的な理性からも美意識からも道徳心からも逸脱しているため、同演出を楽しめるメンタリティーを持つ極一部の人々にしか共有されていないからです。仮に、同ヴィジョンが、人類がその実現を心待ちにする理想的な未来であったならば、同開会式への反応は賛意一色であったことでしょう。むしろ、その倒錯した病的な世界観に、キリスト教徒のみならず、多くの人々が言い知れぬ嫌悪感と拒否感に襲われたのです。

 そして、グローバリストの基本的な戦略モデルが‘メビウスの輪’であるとしますと、マクロン大統領の言う‘進歩’の先もうっすらと見えてきます。キリスト教への冒涜とされた最後の晩餐のパロディーでは、中央に座るイエス・キリストをはじめ、描かれている人物達は、古代ギリシャ神話に登場するオリンポスの神々に代えられています。このシーンは、オリンピック発祥の地は古代ギリシャですので、多神教の世界である‘古代に帰れ’というメッセージなのかもしれません。そして、殆ど裸に近い‘アーティスト達’の登場も、未来の世界が、文明以前の自然状態に近いことを表しています。旧約聖書の『創世記』には、禁断の木の実を食したアダムとイブが服を着るようになったとする記述がありますが、実際に、動物にはない人類の特徴の一つは被服です(人類に最も近いとされるチンパンジーやボノボでも服は着ていない・・・)。これらの演出は、‘進歩’という言葉とは、その実、人類が他の動物たちと同じ姿で生活をしていた野生時代への逆戻りであり、“未来志向”とは、文明亡き野蛮な時代への回帰であるのかも知れないのです(グローバリストは独裁好きですので、‘猿山’となるかも知れない・・・)。

 道徳や倫理とは、文明の発展と共に人類が共有するようになった、相互に安全を護り、利己的他害行為を抑止するための社会的な規範や知性の働かせ方ですので、グローバリスト達は、文明そのものを破壊してしまえば、犯罪を含む一切の非道徳的な行為や社会的な常識、マナー、慣習等も守る必要もなくなると考えているのでしょう。無秩序で混沌とし、家族制度もなく、殺人も暴力もお咎めなしの世界こそ、彼らの描く理想郷と推察されるのです。

 そして何よりも警戒すべきは、全人類が、グローバリストが理想とする世界に引きずり込まれる事態です。今日、絶大なマネー・パワーで各国の政府を自らのコントロール下に置きつつ、マスコミを介して世論を誘導し、社会全体を変えようとしているのは、これらの世界権力者達であるからです。この残念な現実は、仮に、世界権力が命じる通りに政府が政策を実施したり、法改正を行なった場合、その国の国民は、グローバリストの未来世界に連れて行かれてしまう、あるいは社会が一変し、気がついたときにその世界で生きざるを得なくなっていることを意味します。

 パリオリンピックの開会式は、グローバリストの未来ヴィジョンが披露されたことで、図らずも、人類にこの深刻な危機を知らしめることとなったのではないかと思うのです。あるいは、フランス一流のエスプリを利かせた暴露であったのでしょうか(つづく)。

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