万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

米価高騰の原因は投機?

2025年01月27日 12時08分12秒 | 日本政治
 昨年から続いてきた米価の高騰は、秋の新米の収穫時期を過ぎ、年が開けても収まる気配はなく、国民の家計を圧迫し続けています。お米は主食なだけに、とりわけ所得の低い世帯や子育て世代では、お米の購入を諦めるか、控えざるを得ない事態に直面しています。多くの国民が早期の正常化を期待してきたのですが、政府の動きは余りにも鈍く、国民の苦境を敢て黙認してきた観さえあります。

 ここに来てようやく江藤拓農林水産大臣も、買い戻しの条件付きながら政府備蓄米の放出を口にするようになりました。去年の夏には、坂本元大臣が‘新米が出荷になるので米価高騰は落ち着くので、備蓄米は放出しない’旨を説明していましたので、江藤大臣は、米価の高騰の主たる原因が、需給バランスにおける後者の不足にあるわけではないことには気がついたようです。

 実際に、お米の作柄については、昨年の2024年12月10日に、農水省が「024年産米の収穫量が前年比2.7%増の679万2000トン」と発表しています。そもそも、供給不足とされた去年でさえ、添付されていたグラフを見ますと、平年を著しく下回っているわけでもありません。本当のところは、かくも急激な価格上昇をもたらすほどの不作や凶作ではなかったにも拘わらず、米価格が高騰してしまったのが実情なのでしょう。

 収穫高に然程の変動がないにも拘わらず、米価高騰を招いた原因としては、インバウンドの回復、猛暑の影響、円安による輸入資材の値上がり、国際市場における肥料価格やエネルギー価格の上昇なども挙げられてきました。しかしながら、他の産物や製品分野と条件を比較しますと、何れも説得力に欠けています。複合要因説も唱えられているのですが、うるち米の価格だけが上昇するのは、如何にも不自然なのです。

 そこで、本ブログでは先物取引が原因ではないかと推理したのですが、それは、まさに米価高騰が始まった時期と大阪堂島商品取引所にて「コメ指数先物」が復活した時期と凡そ一致するからです。もちろん、‘偶然の一致’ということもありましょう。しかしながら、米価格の急激な上昇がマネー現象である限り、米市場への巨額の資金の流入、あるいは、投機的マネーの動きを想定せざるを得ないのです。

 投機的行動を主因とする見方については、日刊ゲンダイのデジタル版にあって、本日、「一般的なコメが5キロ5000円も…価格高騰で「コメ転がし」マネーゲーム化の動き」というタイトルの記事を発見しました。同記事では、先物取引ではなく、現物取引における投機的行動を問題視しているのですが、投機マネーが米市場に流れ込んでいるのは事実なのでしょう。

 同記事によれば、お米が最長で2年間は保存できるため、相場の値動きを意識して売却せずに「囲い込み」が行なわれているそうです。この「囲い込み」の主語が、卸売業者なのか、仲買人なのか、農家なのかは明記されておらず、あるいは、凡そ1.5兆円ともされる巨額の損失を抱え込んだ農林中央金庫(農林中金)なのかもしれません。また、堂島の先物取引にはSBI証券や内外の投資家が参加していますので、背後にあって「買いヘッジ」に賭けている人々による「囲い込み」誘導や供給阻害もあり得る推測です。

 何れにしましても、異常なまでの米価高騰は、国民の困窮をよそに、自らの利益を追求している一部の少数の人々の存在を示唆しています。そして、これが‘お米バブル’とも言えるマネー現象であるとしますと、政府の備蓄米放出には複雑な要素が絡んでくるとともに、国民のための軟着陸という課題も浮かんでくるのです(つづく)。

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