万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

北朝鮮問題-話し合い解決より交渉抜きの徹底制裁の方がまし

2017年08月18日 15時04分28秒 | 国際政治
対北朝鮮外交、軍事的裏付け必要=バノン氏発言否定―米国務長官
 北朝鮮の核・ミサイル開発問題は、北朝鮮側が表明していたグアム沖に向けたミサイル発射実験を停止したことから、一先ずは小康状態が保たれています。しかしながら、実験中止を以って一件落着したわけではなく、今なお着地点が見えない状況が続いております。

 この問題に対する最善の解決策は、北朝鮮側の無条件降伏、即ち、北朝鮮側に戦わずして矛をおさめさせ、核弾頭、並びに、ICBMの開発計画を完全に放棄させることです。アメリカの軍事的圧力はまさにこの目的のためにあり、トランプ政権も、一先ずは、先制攻撃を辞さない構えを崩していません。アメリカの言う“交渉のテーブルにつけ”とは、即ち、無条件降伏の勧告に応じ、“敗戦処理のテーブルにつけ”ということになります(アメリカによる検証可能な形での核施設やICBMの破壊等…)。

 そして、北朝鮮があくまでも“降伏”しない場合の次善の策は、核施設やミサイル発射基地を爆撃目標とした米軍による限定的な空爆となりましょう。即時的な破壊が実現すれば、北朝鮮による報復攻撃があったとしても、主要基地が破壊されている以上、被害は最小限に抑えることができます。報復の対象として想定されるのは、国境を接し、かつ、通常兵器による攻撃が可能な韓国ですが、北朝鮮が暴走した遠因には、韓国側の歴代政権による対北融和政策がありましたので、同国を増長させた責任、並びに国防を担う韓国には、北朝鮮と戦う義務があります(ただし、中国による軍事介入、あるいは、第三次世界大戦を回避するためには、米韓両軍は防衛に徹し、地上軍は38度線を越えない必要がある…)。

 軍事的オプションには反対の声があるため、第三番手の策は、話し合い解決、即ち、米朝間での交渉の開始、あるいは、六か国協議の再開と見る向きも多いことでしょう。しかしながら、過去二回にわたって話し合い解決路線は北朝鮮の時間的猶予を与えたに過ぎず、結局は、核・ミサイル開発を許す結果となりました。既に核弾頭、並びに、少なくともグアムまでは到達するミサイルを保有し、それらが対米抑止力を有することが証明された以上、北朝鮮がこれらを交渉によって放棄するとは考えられません。話し合い解決を提案する中国もロシアも、いざ交渉となれば巧妙に北朝鮮擁護に回り、石油禁輸までは踏み込まないことでしょう(仮に、中国の要求を受け入れて、アメリカも話し合い解決に合意するならば、中国に対しては、朝鮮半島非核化のための石油禁輸実施の確約を得るべき…)。交渉の行く末が既に見えている以上、この策を採用すれば、アメリカは三度も同じ相手に騙されることとなり、国家の威信にも傷がつきます。

 それでは、話し合い解決ではない、第三番手の策はあるのでしょうか。あるとすれば、北朝鮮とは一切交渉せず、制裁だけを徹底的に強化する策です。ただし、この方法ですと、公式ではないものの、事実上、北朝鮮の核、並びに、ICBMの保有を黙認する結果となります。結局、北朝鮮による核保有はNPT体制崩壊の引き金となり、他の諸国も核保有に乗り出す可能性も否定はできませんし、ウランを産する北朝鮮は、特に反米諸国を対象としてこれらの核兵器、ミサイル、並びに、これらの原料の売り込みを積極的に図ることでしょう。NPT体制は、根底からの見直しを迫られることとなるのです。もっとも、これらの予測される展開は、話し合い解決でも同様であり、時期が早いか遅いかの違いしかありません。

 以上のマイナス面が多々あるものの、交渉抜きの制裁では、話し合い解決の場合に想定される経済支援は皆無ですので、‘あめ’だけを“もらい逃げ”される心配はありません。また、中国に“借り”を作るどころか、対北制裁の一環として対中経済制裁を強化することもできます。今日、北朝鮮よりも総合軍事力において格段に優る中国が軍事的脅威として立ち現われている以上、北朝鮮問題で中国の協力を得るのと引き換えに、南シナ海の軍事拠点化を許し、国際法秩序が崩壊するよりは、中国を制裁対象国に含めていた方が安全です。また、中国やロシアの核攻撃能力を考慮すれば、北朝鮮問題の有無に拘わらず、日米ともにミサイル防衛網の整備は必要不可欠であり、話し合いという“偽りの雪解け”によって警戒感が薄らぎ、対中防衛力が低下する事態を防ぐこともできます。

 アメリカの政権内部を見ておりますと、トランプ大統領をはじめ、ペンス副大統領、ティラーソン国務長官、マティス国防長官、バノン米大統領首席戦略官・上級顧問など、北朝鮮問題への対応については様々な方針や発言が交錯しています。少なくとも、1994年の日朝枠組み合意や六か国協議型の“話し合い解決”の回帰は、悪しき誤りの繰り返しとなりますので、最低でも、話し合い抜きの制裁強化路線とすべきではないかと思うのです。

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4 コメント

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北朝鮮を核保有国と認めさせてはならない。 (オカブ)
2017-08-18 19:23:10
倉西先生。
ご指導ありがとうございます。
先生ご指摘のように、今回の北朝鮮による核ミサイル「危機」に対する最善の解は、アメリカの先制攻撃によるによる即時的な北朝鮮の核・ミサイル施設の破壊のようです。
しかし現在アメリカの政情が混沌とし、トランプ政権の基盤が安定していないこと、また軍事オプションの行使に対して国際世論の抵抗が根強いことを考慮すると、先生が取られている次善の策の模索というアプローチが現実的だと思います。
しかし先生がご懸念されているように、これらの対抗策は問題の根本的な解決策にはならないと考えられます。まず我々が恐れなくてはならないのは、北朝鮮から核兵器、及び核技術が中東を中心とする過激派勢力に流出すること、それにも増して、世界が北朝鮮を核保有国と認めて、国際秩序の上で対等の国家としての関係に陥ることです。私はここで"Country"としての北朝鮮を貶めているのではありません。"State"としての北朝鮮を他の合理的判断のできる国と同列に扱うことが、国際秩序の維持のために、そしてカタストロフィックな軍事衝突を回避するために余りにも危険と思うのです。北朝鮮を核保有国と認めれば、相互抑止どころか無法な脅迫を乱用して国際秩序を破壊し、世界が極度の軍事的緊張に巻き込まれるという結果が目に見えています。そして世界全体がこの緊張の臨界点に達した場合、破滅的な結末の可能性も考えられます。この北朝鮮を核保有国に加えるということは、先生の仰るように、まさに北朝鮮に"善性悪用戦略"をほしいがままにさせる愚策です。にも拘らず、ある学者が北朝鮮も核相互抑止の仲間入りをさせるべきと論じているのを見て唖然とさせられました。
一方でNPT体制は、はるか昔に有名無実化しているというのが私の見方です。それは私が大学に在籍していた数十年前からのことで、いまは故人となった有名なハト派の教授が、当事国は明示していないもののカナダ、スイス、イスラエルは核を保有していると公然と講義で発言したのを聞いています。ことほど左様に「NPT体制」という概念は張り子の虎となっているのですから、今、必要なのはその空虚な枠組みにすがるのではなくて、いかに危険な国に核を持たせないことを「強制」するパワーを国際社会が行使することだと思います。
さて、本題に戻りますが、私は結論として今、国際社会は北朝鮮に対して徹底的制裁と「対話」を並行して行うべきだと思います。
先生は制裁と対話を二者択一の策とご指摘されていますが、私は同時並行で行うことは可能であると思います。しかし私の申す「対話」とは北朝鮮に主張の機会を与えることではなく、言語空間の場で国際社会が北朝鮮に核放棄を強制することこそが主眼だと思います。もちろん制裁を緩和しない限り、公には北朝鮮は対話のテーブルには着かないでしょうが、水面下での意思表示・・・この場合実質的な国際社会による北朝鮮に対する恫喝になるでしょうが・・・は可能だと思います。この際、留意しておくべきことを下記に挙げます。
①対北朝鮮交渉国は、もはや現状が戦闘のない交戦状態にあることをよく認識しておくこと。
②事態が膠着状態になった場合、必ず対北朝鮮側に足並みの乱れや、対北朝鮮宥和策をとろうという動きが出てくるであろうから、それを封じるためにも「出口戦略」を設けて明確にしておくこと。具体的には期限を設けてそれまでに決着しない場合は軍事オプションの行使を断固行うという意思表示をすること。
③交渉と並行して、制裁を有効化するために、中国、ロシアを自陣営に巻き込む努力を怠らず、もし彼らが北朝鮮支援を継続するのなら、中国、ロシアに対しても経済制裁などの物理的圧力をかける。
④日本としては、こうした国際社会の対北朝鮮政策に参画するのはもちろんのこと、日本国内の「従北勢力」を制圧し、世論が安易な対北朝鮮宥和路線に傾かないよう努めること(私は昼間のテレビのワイドショーを観て眩暈がしてきました)
私は以上のようなポイントをもとに制裁と対話を同時並行で進めることは可能だと思います。
中東の過激派勢力は各国の戦術的な空爆と対抗政府側勢力による地上戦で、なんとか鎮静化に向かっていますが、北朝鮮危機はそのように簡単には解決しないし、場合によっては関係国がクリティカルな損害を被る可能性もあり得ます。
日本社会は単に日常の安寧が破壊されるのでは、という事なかれ主義的な危機意識を煽るのではなく、世界と日本が今、重大な岐路に立たされていることを認識すべきでしょう。そして冷厳な国際社会とそこで機能しているメカニズムをよく理解し、その中にあって自らがどのように行動すべきかを熟考することが必要だと思います。
毎回一介の細民が生意気なことを申し述べて恐縮に感じております。
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オカブさま (kuranishi masako)
2017-08-18 20:21:57
 こちらこそ、示唆に富むコメントをいただきまして、ありがとうございました。

 北朝鮮問題は、南シナ海問題よりも、朝鮮戦争が休戦状態にあるため、法律問題と政治問題の線引きが曖昧です。NPT条約にしましても、オカブさまが指摘のように、有名無実化していることに加えて、北朝鮮側は脱退宣言をしているものの、国際社会はこれを認めず、一先ずは加盟国としての地位が維持されている状態です。仮に、名ばかりとなったNPT体制の維持を最優先としないならば(NPTに基づく厳密な法律問題とはしない…)、北朝鮮は、国際的に、政治的に安全保障を脅かす敵国(テロ支援国家…)、あるいは、平和解決を怠る国連憲章違反国として認定することとなりましょう。つまり、事実上、核やICBMを保有していたとしても、NPTにおいて公式に認められている核保有国でも(もちろん、これは既に無意味ですが…)、”対等な国家”でもなく、国際的な制裁対象国として位置付ける必要があります(善性悪用戦略を封じる…)。

 制裁対象国の状態を維持したまま、仮に、オカブさまのおっしゃるように、制裁と「対話」を並行させるとしますと、当然に、北朝鮮側は、制裁の解除を求めてくることが予測されます。しかしながら、制裁解除や経済支援と核・ミサイル放棄のバーターは、過去において何度も繰り返されており、結局、どちらが先に実施するかの問題でご破算になっております。結局は、振出しに戻り、よりアメリカにとって不利な状況下において軍事オプションを実行せざるを得なくなる可能性もあります。とは申しますものの、オカブさまがお示しになりました留意点からしますと、制裁と並行して開始される「対話」とは、本記事の最善策としての北朝鮮の無条件降伏に伴う交渉、即ち、「敗戦処理のテーブルにつくこと」に近いのではないかと思います。期限をICBMが完成しない程度の短い期間に設定すれば、北朝鮮に有利となる事態も避けられます。

 制裁を不満とするイランの動きも怪しさを増しておりますので、アメリカがどのような決断を下すのか、注目されるところです。NPT体制が公式に崩壊すれば、イランも核保有を主張するでしょうから、北朝鮮一国のみならず、国際社会全体を俯瞰し、人類の未来をも見通した判断を要するのではないかと思います。
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訂正させていただきます。 (オカブ)
2017-08-18 22:40:57
倉西先生。
先生のご文を読み違えていました。
先生は軍事オプションの行使は次善の策であるとおっしゃっているのですね。
そして最善策は外交政策によって北朝鮮を「全面降伏させ」核を放棄させることであるとのこと。
失礼いたしました。
私は戦術的にアウトボクシング的ピンポイント的な攻撃が可能であるならば、不安要因を根本的に除去するために現時点での先制攻撃が最善の策であると思っています。
しかし、それをアメリカの内政及び国際世論が許さないので制裁と「対話」により北朝鮮に全面降伏させる道を選ぶのが良いと結論付けました。
しかし、先生ご指摘のように「対話」することによって、偽装的な核放棄の「姿勢」と、制裁の緩和、場合によっては経済的支援がバーターになるのは目に見えていますね。
私が浅薄でした。
重ねてお詫び申し上げます。
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オカブさま (kuranishi masako)
2017-08-19 09:18:40
 ご訂正のコメント、拝読いたしました。

 こちらこそ、説明不足をお詫び申し上げます。瀬戸際作戦は北朝鮮の得意技なのですが、今般に関しましては、私は、アメリカの軍事的オプションの威圧を前に、北朝鮮側が引かざるを得ない状態となるのが、最善の策ではないかと考えました。北朝鮮側が白旗を揚げた時点で、核・ICBM放棄を確実に実現するための外交交渉が始まる…という手順となります。もちろん、その際に、北朝鮮側に’あめ’を与える必要はなく、交渉の議題は、核・ICBM放棄の方法、時期、査察の受け入れ…となりましょう。
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