万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

公職採用システムに向けた選挙制度改革-有権者は‘採用担当者’

2024年07月10日 10時13分01秒 | 統治制度論
 イノベーションとは、一般的には、旧来型の技術が行き詰まった先に突然に現れ、かつ、旧来型の技術とは全く体系の異なる新たなテクノロジーの開発として理解されてきました。政治の分野は、科学技術上のイノベーションとは無縁のように思えますが、システムという側面からしますと、従来とは全く異なるシステムが誕生する可能性もないわけではありません(近年では、社会的変革をもたらす新しいアイディアとしても使われている・・・)。今日の政治制度は、まさしく‘行き詰まり’の状況にあるからです。そこで、本日の記事では、制度改革の一環として選挙制度をとりあげることとします。画期的なイノベーションとは言わないまでも、以下のような方向性でのシステム開発が望ましいように思えるからです。

 先ずもって確認すべきは、民主的選挙での投票とは、国民による統治機構上の人事権の行使であるという点です。適任者を選ぶ人事である以上、制度もまた、人選に適した方向に変えてゆく必要がありましょう。

 現行の選挙制度では、有権者の多くは、立候補者の氏名ぐらいしか知らない場合も少なくなくありません(しかも、ひらがなでの表記もあり、戸籍上の本名ともかぎらない・・・)。街中や住宅地を走る選挙カーから聞えてくるのは、候補者の氏名と‘よろしくお願いします’の一言です。騒音公害にもなりかねないレベルなのですが、費用対効果の面からしても、現代という時代にあって、選挙カーを用いた選挙活動を続けてゆくべきなのか、大いに疑問なところです。さらには、売名行為を目的とした立候補者の場合、選挙公報の記載は氏名と数行の言葉が並ぶことも少なくないのです。人事の側面からしますと、‘採用担当者’が、名前だけで採用を決めることはあり得ないことです。なお、立候補者の経歴につきましても、今般、都知事選に勝利した小池百合子都知事にあって学歴詐称が疑われているように、自己申告では事実がどうかも確認のしようがありません。

 また、立候補者の各々が公表している政策方針や公約についても、有権者が、その詳細かつ具体的な内容を知ることは困難です。配布された選挙公報に記載された箇条書きの公約では説明不足ですし、政党に属していたり、特定の政党から推薦等を受けている候補者の場合には、政党レベルで作成された公約の丸写しのような場合もあります。‘採用担当者’であれば、追加で説明を求める、あるいは、後日、面接の機会を用意しようとすることでしょう。もちろん、現状では、候補者の人柄を事前に知ることも不可能に近いことです。

 もっとも、広報での説明不足は、街頭演説をもってカバーできるとする反論もありましょう。街頭演説であれば、十分とは言わないまでも、時間をかけて自らの政策について説明できますし、適任性をアピールすることが出来ます。しかしながら、‘採用担当者’がその場で演説を聴いていなければ、何らの効果も生じません。街頭演説のアピール効果は、その場に集まった全体からすれば極少数の人々に限定されているのです。ビラ配りも同様であり、‘採用担当者’がたまたまその場を通らなければ、これを手にして読むこともありません。

 その一方で、現行の選挙制度では、マスメディアに取り上げられている候補者が極めて有利な立場となります。‘採用担当者’が全候補者の政治家としての適性などを調べる前に、既に外部者よって‘有力候補’が決定され、提示されてしまうからです。しかも、これらの‘有力候補者’には、通常、組織的なバックやサポーターが付きますので、潤沢な選挙資金も提供されています。上述した現行の選挙活動には相当の費用を要しますので、資金面からも一歩も二歩も抜きん出るのです(政治家に世界権力のマネー・パワーが及ぶ要因に・・・)。その他の立候補者は、たとえ政治家としての資質や能力を有する‘適材’であっても、泡沫候補者とならざるを得ないのです。

 以上より、現行の選挙システムが、人事システムとしては欠陥に満ちていることが分かります。となりますと、同システムは、‘採用担当者’である国民が、政治家としての適任者を選ぶことができるシステムに変えなくてはならないこととなります。この点、必要とされる職務の内容に照らして最も適した人材を確保しようとする企業の人事システムは、参考となりましょう。もっとも、選挙の場合には、‘採用担当者’は、全国民が務めることとなりますので、企業とは異なる工夫も必要となります。できる限り多くの‘採用担当者’、すなわち有権者に多面的な判断材料をオープンに提供する必要がありますので、この点を考慮しますと、ネットを賢く利用すべきかもしれません。そこで考えられるのが、選挙に際して全ての立候補者の情報を提供する公設サイトの開設です(つづく)。

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