万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

一般参賀の傘現象は美談なのか

2024年03月14日 13時51分14秒 | 日本政治
 今年の2月23日の天皇誕生日には、皇居で一般参賀が行なわれ、小雨の降る中を凡そ1万5千人の人々が訪れたそうです。気温も2度という寒さであったのですが、このとき、稀に見る奇跡的な現象が起きたとの報道がありました。どのような現象かと申しますと、長和殿のベランダに皇族方が姿を見せると、誰ともなく傘を閉じ始め、皇居前広場には一本の傘も見られなくなったと言うものです。最後に閉じたのは、外国人であったそうなのですが・・・。

この現象、最初に報じられた際には美談とされていました。傘を閉じた理由は、前の歩とが傘をさしたままでは視界を遮られて後ろの人が見えなくなるので、他者への配慮が広がったとする見方であり、先ずは日本人の思いやりの精神の現れとするものです。もっとも、‘一般参賀’という特別の場であることを前提としますと、そこには、皇族に対する日本国民の崇敬心の高さやその神聖性や超越性に対する信仰にも似た感情への賞賛が垣間見られます。傘をさし続けることさえ不敬となる、絶対的な存在に対する崇拝が全員一致の行動によって現れたかのように。

明治以来、天皇は現人神として国民から崇められてきましたので、同現象に感動した人々は、おそらく令和の時代に至っても日本人の天皇に対する気持ちが変わっていないことに安堵を覚え、美談として紹介したかったのでしょう。しかしながら、皇室を取り巻く状況が昭和までの時代とは著しく変化し、皇室自身も変質している今日にあって、国民の天皇や皇族に対する意識が全く変化していないとするのは、いささか現実離れしているようにも思えます。全員が傘を閉じた現象は、別の角度から見れば、必ずしも美談ではないからです。それでは、どのような点において由々しき現象となってしまうのでしょうか。

第一に、参賀に訪れた人々の全員が傘を閉じたとしますと、皇族方は和やかに微笑みながら、冷たい雨の中に傘も差さずに自らを見上げている人々の姿を目にしていたこととなります。一般参賀ともなれば、高齢者の方が多いことでしょうから、この光景は、褒められたものではなくなります。冷たい水で衣服が濡れたままでいれば、直ぐに風邪をひいてしまうことは誰もが経験で知っています。真に‘国民思いの皇族’であれば、むしろ、傘を差すように促すべきであったと言えましょう(少なくとも、宮内庁は参賀者に向けて放送すべきであったのでは・・・)。

 第二に、周囲の空気を読んで全員が傘を閉じた現象は、同調圧力に弱いという日本国民の弱点を象徴しているとも言えます。コロナ・ワクチンの接種に際しても、政府は、国民の同調圧力を大いに利用したと指摘されています。今般の一般参賀での同調圧力も、自らの身体を顧みず、皇族あるいは他の参加者のために自己犠牲を払ったこととなるのですが、同調圧力への弱さが克服すべき課題として認識されている今日、同現象の美談化は、課題克服に逆行しているようにも見えます。そしてそれは、全体主義体制に向けて敷かれているレールにもなりかねない危うさがあります。なお、仮に今回の現象が前例となれば、‘一般参賀では傘を差してはならない’という新たな慣行が生まれることでしょう。

そして、第3に指摘し得るのは、一般参賀に集まった1万5千人の内の多くは、何らかの組織による動員ではなかったのか、という疑いです。かつて宮内庁職員の30%程度は創価学会員であるとする説がありましたが、皇室行事では、常々新興宗教団体が動員されているとする濃厚な疑惑があります(‘お声がけ部隊’などが配置されているとも・・・)仮に動員説が正しければ、皆が一斉に傘を閉じた行動も頷けます。組織を統率する現場のリーダーの行動に信者達が従ったのであれば、あたかもマス・ゲームのパネル如くに傘は閉じられてゆいったのでしょう。そして、それは、周囲の一般参賀者に対しても、強力な同調圧力となったと推測されるのです。

今日、日本国の皇室のみならず、英王室を始め各国の王室には異変が起きているようです。世界権力による既存の権威の利用も疑われる中、パーソナル・カルトともなりかねない現状をどのようにすべきなのか、抜本的な見直しや廃止をも選択肢に含めながら真剣に考えてみる時期が訪れているように思えます(国家や国民の統合の象徴は、人ではなく非人格的な存在の方が適している・・・)。皇室や王室と国民との双方において不可逆的な変化が既に起きてしまい、かつ、もはや統治において君主というものを必要としない時代にあって、世襲的な権威や権力は、世界権力に悪用こそされ、国民にとりましては、戦時体制を含む全体主義へのリスクをもたらすと共に、人類の知性や精神における成長や発展の阻害要因ともなりかねないのではないかと思うのです。

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