万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

『世界政府の造り方』について

2024年03月13日 11時32分30秒 | 国際政治
  落ち着いて考えてもみますと、世界経済フォーラムの存在自体が陰謀の実在を証明しているとも言えましょう。何故ならば、自らには全世界を全面的にリセットし、根底からチェンジし得る力があると自負しているからこそ、‘グレートリセット構想’を打ち出しているとしか考えられないからです。表舞台に姿を現わしたグローバルなマネー・パワー勢力は、今や全世界にその威力を見せつけています。それでは、どのようにして世界権力は、全世界に支配のネットワークを広げていったのでしょうか。

世界権力の基本戦略とは、あらゆる集団のトップの取り込みなのでしょう。否、‘乗っ取り’という表現の方が相応しいかも知れません。世界権力には全世界を直接的に支配するする物理的力はありませんので、独断で決定した事柄を実現するためには、自らの手足となって忠実に命令や指令を実行する部下、あるいは、実行部隊を要するからです。そして、仮に、全世界を遠隔操作で自らのコントロール下に置こうとすれば、国家をはじめとした既存の組織を取り込んでしまうことが最も‘手っ取り早い’方法なのです。この手法は、古代にあっては、世界帝国を建設したローマが編み出した手法でもありました。

そもそも古代ギリシャのポリス世界の流れを汲む都市国家であったローマには、他のポリスと同様に‘市民権’という資格が存在していました。共和制の時代より、ローマは内容の異なる様々な権利を征服地の住民に付与することで、自らの統治機構に被征服民を取り込むようになります。そして、征服した国や異民族の旧支配層には、元老院のメンバーとなる資格を含めてローマ市民と同等の市民権を与え、ローマの支配層の一員となしたのです。言い換えますと、軍事的な征服によって自らの属領とした地域については、上層部をローマを中枢とする支配体制に組み込むことで、さらにその下部に位置する現地の住民をも間接支配し得るようになったのです(もっとも、ローマ帝国の場合、市民権の解放はローマ人の消滅を帰結してしまう・・・)。軍事力によってユーラシア大陸の大半を手中にしたアレキサンダー大王の世界帝国が、大王の若すぎる死をもって瓦解したのは、ローマ帝国のような支配の継続化のための老練な知恵を欠いていたからなのかも知れません。

侵略が国際法で禁じられ、民主主義が当然のこととして受け止められるようになった今日、征服や支配の方法については、人々の意識から殆ど消え去っています。実学としても学問的な研究の対象からも凡そ外されています(知識の欠如はリスクの放置に・・・)。しかしながら、もし、『帝国の造り方』というマニュアル本が書かれるとすれば、その内容は案外簡単なのかもしれません。第一のお薦めは、‘力で征した後は、既存の権力や権威を徹底的に活用せよ’となることでしょう(もっとも、力で完全に征服地住民の抵抗を未来永劫にわたって排そうとすれば、全員の命を奪うジェノサイド、あるいは、追放ということになる・・・)。

征服地にあって世襲の君主や為政者が存在していれば、その人物を自らの配下に置けばその後の支配は円滑になりますし、既に官僚組織が整っていれば、それを自らの統治機構と結合させればよいこととなります。そして、事の成り行きで征服戦争に際して相手国のトップを討ち取ることになったならば、君主一族の中から最も自らに従順となる人物を選んで形ばかりの君主とする、あるいは、統治機構だけは維持しつつ、そのトップに自らの代官を送り込む、といった手法が採れたのでしょう(所謂“悪代官”)。この手法、古代のみならず現代に至るまでの人類史を振り返りますと、思い当たる事例が幾つも見つかるはずです。
征服が許され、かつ、自らが実行手段としての軍事力を有していますので、ローマ帝国、及び、同帝国の手法に倣った諸国は、白昼堂々と帝国の建設に邁進しました。しかしながら、今日の世界権力は、国民国家体系が成立しているため、独立主権国家に対して侵略を企てたり、内政に介入することは違法行為となる上に(特に民主主義国家に対しては選挙に介入しなければならない・・・)、上述したように軍事力という実行手段も備えていません。この点において、古代ローマ帝国とは著しく異なっているのですが、この両者の違いこそ、それしか手段がないという、陰謀の必要性を説明していると言えましょう。となりますと、『世界政府の造り方』という教本には、極めて手の込んだ詐術的な‘乗っ取りの手法’が並んでいると推測されるのです(つづく)。

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