以前、プログレソのスーパーで突然「肉まんの作り方を教えてほしい」と声をかけてきた男性がいた。彼の言葉を直訳すると、中国のパン。中華まんともいうから間違いではない。が、最初は何のことかわからず、おたおたしてしまった。後になって彼もドラゴンボール好きのニホン好きだと判明したんだが、そのときは我々のことを中国人だと思ったのか、話がかみ合わなかったのだ。
それはともかく、この彼は誇り高きメキシコ海軍勤務で、出動先の被災地から電話が来た。彼が行っているのはベラクルス州とのことで、協力しあってるのは日本の国際救助部隊でなく、トルコ・イスラエル・スペインなどだと話していた。
こんな国で海軍なんかに勤務する人は、無条件で尊敬してしまう。麻薬の密輸を牛耳ってるカルテル(ナルコ)とドンパチになることが多く、殉死する人も多い。
で、ちょろっと電話で話したあとそれで勢いがついたのか、こないだ夜中に「悩みがあるんけど聞いてくれますか?」とメッセージを送ってきた。一瞬、怪我人にスペイン語がわからない日本人でもいたか、と思ったが、そうではなかった。
曰く、「一緒にいてくれないと奥さんに言われ、喧嘩になってしまった」。そしていかにもメキシコ人らしく、「心にもないことを言ってしまった」とか「でも彼女を愛してる」とか「彼女はもう僕と話したくないと言っている」などなど。
そもそも女性心理なんてものは理解できない(くだらないと思うことが多い)上、ガイジンのおばさんはメキシコ女性の扱い方など知らない。さらに、奥さんとはまだ会ったことがないからどういう人かも分からないし、二人の関係や状況などがどういうものなのかも知らない。そういう人間に悩みをぶちまけるのがメキシコ風なのか?
が、とにかく延々とやりとり(話を聞いて相槌を打つなど)を続けたあと、「この地震では、いろんな人がいろんなダメージを受けてる。家が壊れたり家族を亡くしたりしなくても、災害ってのは人の精神状態を不安定にするものだ。そうでなくとも妻という生物とは忍耐強く接さなければならないが、今はそれだけじゃないと思う」と伝えたら、急に黙って考え込んだあと、こちらが恐縮するほど感謝された。そういう考えには一切思い至らなかったという。
そりゃ、ダテに年とってないからね。けど、軍人になるような人の精神ってのは、元々強いんだろうなと思った。
首都の近くで発生した後、またオアハカ州で地震が起きた。当地を離れる(「錨を上げる」という言葉を使った!)のが延びて大変そうだが、ぜひとも頑張ってほしい。・・・というか、我々なんかに言われなくとも頑張るんだろうが、一人の兵士の悩みを和らげてあげられたようで、おばさん、嬉しいよ。
またまた話はコロッと変わるが、プログレソ・チェレム間の唯一の交通機関はコンビ。
バスと寄り合いタクシーを足して2で割ったようなサービスで、プログレソ中心街の外なら好きなところで乗って好きなところで降りられる。
車体はボロだが、普通は行き先だけは印刷した文字が貼られている。こういう手書きのは初めて見た。なんともかわいい。