3ヶ月くらい前から、朝の9時前後にかすかに「東ー大ー寺ー」みたいな売り声がきこえてくるようになった。何かを売っている声だとはわかる(ってか、他にない)んだが、3ブロックくらい離れたとこを走っている海岸沿いの小道を移動しているらしく、あっという間に遠ざかる。
長らく謎だったのが、セマナサンタの休暇(イースターみたいなもん?)で呼び止めて買う人が多かったのか、いつもより近づく(音量が多少大きくなる)のがゆっくりだったので、これは追いつけるかもと思い、声の主のところまで駆けつけてみた。
「東ー大ー寺ー(とおーだいーじー)」に聞こえたのは、トールター・イ・キービ(トルタとキビ)であった。トルタは、ハンバーガーに使うバンズに何か挟んだもので(村以外ではラグビーボールの形のパン)、キビは中東の食べ物(カタカナではクッバとかクッベとか書かれることが多い)。トルタの具はいろいろあるんだが、この売り子のトルタはそのキビをパンに挟んだものであった。
メリダでも道の角なんかでよく売ってるんだが、彼女たちのはめちゃくちゃ美味しかった。本場中東のものとは多少違うだろうが(中東でも地域によってバラエティがある)、なんとこのキビ、ユカタンだけでしか売っていないと判明した。
メキシコ中で売ってると思っていた理由は、レバノン移民が多いと聞いていたから。日本と同じく100年以上前に移民団があった。子孫(2世3世…)なのかその後も移民として増えているのかは知らないが、たしかに多い。有名どころでは世界長者番付け常連の起業家とか、コロンビアだと歌手のシャキーラとか。
メキシコ中に移民はいるが、彼らのソウルフードの1つが売られているのはユカタンだけだったのである。詳しい友だち曰く、まだ植民地だった頃に移住してきた人が、同じくクッバがあるギリシャの移民に、生計を立てるために作って売れと勧められたという。
そうじゃなくてもメキシコ料理だと思い込んでたらユカタン料理だったってことがよくあるんだが、まさかキビまでそうだとは知らなかった。
同じく2年ほど前にユカタン料理だと知ったものに、ブラソ・デ・レイナ(女王/王妃の腕)がある。
こちらは、他州に住む人たちがいつもブラソ・デ・レイナだと紹介しているのがロールケーキであることに気づいて、調べて判明した。トウモロコシの生地でゆで卵を包んだタマレスみたいな料理で、この緑の葉野菜がチャヤ(下のはバナナの葉)。村では、ゆで卵とチャヤを混ぜてチャヤの葉っぱで巻いたものもある。
で、そのチャヤも他州ではほとんど知られていないと判明した。
料理に入れたりジュースにしたり…と万能。ほうれん草みたいな硬さで、もっとクセのない味で、とてつもなく栄養が豊富という優れものです。
ちょっと調べたら2メートル弱くらいの高さまで育って、かつじゃんじゃん葉をつけるらしく、近所の家々が見えなくなるように進めている「敷地の内外に木を植える」計画にもってこいじゃないか。村の友だちに聞いたら、枝をぶった切って地面に刺したら結構簡単につくという。雑な挿し木である。
ヨモギに似たような草で作ったりいろいろ試したんだが、これはうまく行った。ほのかに苦くて春の味がする。
栄養を考えると緑のものはいつも欲しいんだが、しなしなじゃない葉野菜を選んで買うのは難しい。そういうのは他州やユカタンの内陸部から来るので、海沿いの村ではなかなかお目にかからない(輸送技術が発展してない)。これでしなびた葉野菜を買わなくて済むし、目隠しになるし、最高だ。早く育ちますように。