いよいよ今週末、隣地のオーナーが引っ越してくるという。2月に着工して、施主は5月末の入居を希望、小さい家でもそれは無理だろと思ってたが、現場監督もそのくらいだと言っていた。結果、7月末の竣工。しかも、ドルで計算していた施主にとってはペソ高で工事費が上がったことになり(いやマジでペソの上がりっぷりは結構なものです)、外構工事ほとんど無しでの引き渡しになる。
我々は隣地の着工以前から「今度家を建てるときはもっと(機能的に)いい家にできるねー」などと話してて、メキシコでの建築工事に興味があるんで、隣地の工事は反面教師として非常に勉強になった。それを記録しておく。
街でなく海辺に移住したいガイジンの憧れの家っちゅうのはみんなこれ。海に向かってプール付きの広いテラスがあり、室内との境は大きな掃き出し窓がある。ユカタンに限らずメキシコのどこのビーチエリアでも、金を持っていたらこのスタイルにする。それを、海でなく他人の土地に隣接する 10m x 40m の狭っ苦しい土地に建てようとしたところから悲劇は始まった。
一番上の写真は隣地の庭からでなく、その隣のそのまた隣から撮っている。プールから1mのラインが敷地境界。確かに景色だけなら東向きがいい(我々が朝日を堪能していた方角)。が、それも隣の敷地次第なわけで、案の定、新築工事が始まった。奥行きが40mもあるので、庭の作りようによっては「憧れのビーチハウスのテイストが少しある可愛い家」になったと思うが、どうしてもこうしたかったらしい。
建てやすくはない土地に建てることを自慢するためか、施主に望まれて建築士も張り切ったんだと思う。
この辺のほとんどの土地は奥行きが長くて、だいたい車を停める前庭の先に家、奥に広い庭というのが一般的である。奥行きの方向に長い家というのはあまりない。それから、メキシコの在来工法はブロック組積造で、ブロックを積んだ壁全体で建物を支える。なので、天井まで、かつ幅の広い開口部というのは建設作業員には馴染みが薄い。一般的な設計でなく特異な住宅の建設に慣れた優秀なチームはユカタンにもいるだろうが、あいにくレベルの高い作業員は現在マヤ鉄道関係で忙しく、隣地の作業員のレベルは中の下くらいであった。
現場監督は、英語ができて、普通のユカタン人よりレベル高そうな、いかにも外人にウケるタイプ。だが実際は調子いいだけのカッコつけ野郎で、施主にゴマを擦ることばかりに熱心で、ほとんど現場に来ない。
図面など見たこともないような作業員が半分以上なのに監督からの指示もないもんだから、まず基礎のラインを間違えた。ここは布基礎で、ユカタンでは大きな岩を使う(うちのときの基礎工事)。造って数日後にようやく来た監督は己の怠慢を棚に上げ、現場作業員たちを罵倒した。ちなみに本当の格差社会であるメキシコでは、召使いに対する主人みたいな態度をとる人は結構いる。貧乏人をバカにして態度に出す金持ちも多い。
これで監督に対する親方と現場作業員の信頼、一緒にいい家を建てよう!感は一気に失せた。結果、できたのは間違いを正した位置の基礎でなく、地面を掘らずに地表に岩を積んでモルタルで固めたもの。手抜きである。メキシコ人ってのは不満を感じさせたらお終い、謝るどころか平気でこういうことをするし、怒ってヘソ曲げた役所や銀行の担当者がそれはないだろってな態度と理不尽な理由で却下拒絶…なんてことはしょっちゅう聞く。
そして、その上に立てた独立柱(上の写真の真ん中、壁など何もない一本立ちの柱)の細いこと! ここは屋根もコンクリで、かつ2階も載ってる。壁全体で支える普通の家の柱でさえもっと太いw。おそらく見栄え重視の構造ギリギリ計算だと思う。結構すぐ、どこかでひび割れが出たり開口部の掃き出し窓が開かなくなるんじゃなかろうか。
日本みたいにある程度の品質を期待できるところじゃない上に、監督がちゃんと仕事をしない可能性も高い。うちの監督のLさんも実は大丈夫大丈夫!とあれこれ誤魔化した。なので、「慣れた仕事で、下手にしようと思ってもできない」ような作りにしておいた方が、いろんなリスクが低い。基礎の位置を間違えたのも、突き詰めればそれ。基本的にブロック積んで4mごとに柱…にしておけば、こういう問題は起こらない。
そもそも工程管理がなっとらん上に、基礎の位置間違え以降、監督と現場の不協和音は日に日に大きくなった。手抜き指示→よくわかんないからテキトーな工事、気分悪いから来ない→聞くの面倒なんで分からないとこもテキトーに、不備が出て罵倒→不貞腐れて手抜き…などなど、もう側で見ていてハラハラどころか笑っちゃうレベルの負のスパイラルであった。
その不協和音の延長で、設備とのコーディネートもめちゃくちゃ。通常、配管は事前に埋め込んでおくんだが、仕上げが終わった後に壊す、コンクリの柱も壊すw…なんてことの多いこと多いこと。
そして挙げ句の果てに
雨漏れ。ほとんどが、壊したところから漏れている。もうこの時期には現場の雰囲気が悪すぎて、壊すのもテキトー、そこへ通す配管のつなぎもテキトー。自分ちだったら悪夢以外の何物でもない。
施主のアコガレのせいでやりにくそ〜なところにいろんな管があるんだが、それでももう少しシンプルにできたはずなのに、なぜか距離や場所など「そうじゃない方が…」な設計になっている。もしかすると、開発許可申請(建築士が描く図面)以降、理由は知らんけどやたらと変更があったんじゃなかろうか。監督と現場がギスギスしているところで、これは致命的。
ところがこの時期、施主(アメリカ人のおばさん)は連日オトモダチを引き連れて内覧ツアーに来た。多いときは1日3回w。邪魔なだけではない。そもそもこんなひどい現場になってしまったのは、おばさんが変な家を建てたがったからだと現場は思っている。ガイジン大勢に現場をウロウロ歩き回られて、気分がいいわけがない。
ってか、我々が見て大丈夫かな〜と思う点や少なくとも水漏れ跡とか壊した跡がいくらでもあるのに、おばさんはそんなことは一切気にせず。「ナーイス・ハウス!」「オウ、サンキュウ!」なんてやり取りばかりである。ガイジンって声でかいし、現場作業員からすれば煩わしいことこの上ない。ちなみにこの現場は、上棟式もやってない。ここのは施主が買ったご飯とビールで打ち上げ!なんで、そういう節目なしにダラダラ続いてどんどん問題が出てくるようになって…という状態。
キリがないので、工事中に出てきた問題とアホちゃうかと思った細かい点をどんどん上げていく。
そもそもブロック積みや左官工事も日本と比べ物にならないほど誤差が大きいこの国で、実測しないで図面通りに作って搬入するなんて気違い沙汰。でもって、大きい開口部作って、ただでさえ暑いところなのに温室状態だよ…と思ってたんだが、遮熱どころか断熱ガラスでさえない。さらに、施主が選んだのはプライバシー確保のためのミラーガラス…まではよかったが、なんと内側からもミラーになっている(両面ミラーフィルム貼り)。
えーと、うちを一切かまわず景色を堪能しようと思ったんですよね? 見えなくていいんですか?
ドル安で手すりをケチった。風が吹いたら結構怖い。雨が降ってたら足元滑りやすいし。
開発許可を得るために敷地の4割残さなければならない「自然のエリア」。敷地奥なのにも関わらず伐採ゴミを積んだままにして建設ゴミも加わっていた部分は、2日かけて全てのゴミを燃やし(違法)た。着工前は「きれいな砂地にしてヤシを植えて…」などと言ってたが、資金難にておしまい。砂地にヤシで何が自然やねん…だが、これはちょっとかわいそう。ここの植物は強くて、刈り取ったくらいじゃまたガンガン生えてくる。日が経たないうちに手を入れた方がいいと思う。
灰色と青と黄色の壁で、掃き出し窓のガラスなどの雰囲気を考えたらバウハウス調なのかと思っていたが、「メキシコで有名なスタイル」なんだという。おばさんの話から想像するに、建築士がルイス・バラガン風と説明したらしい。が、おばさんはメキシコが誇る有名建築家を知らなかった。監督が媚を売って「どれにしますか〜?」などとおばさんに選ばせた玄関タイルや金具などがことごとく合わず、結果デザインがとっ散らかった。本当にそういう家に住みたいのか、心の底から不思議。
上部の小窓はマヤの意匠で、現在はよく塀なんかに使う。
たまーに屋内で使ってる人もいる。ちょっと前までは、そこまでオシャレじゃなくてただセメントを固めて作った枠ってなのもあった。換気と採光のため、つまり窓の代わりなんだが、ガラスがない。外壁に使うと、蚊が入り放題。ハリケーンでなくとも雨が降り込み放題。いったいどうするんだろ?
監督が「ドアノブ、どうしますか〜?」「シャワーヘッド、どうしますか〜?」と聞いた結果。ノブは金色でオサレだが蝶番は廉価版で、すぐ錆びる→開かなくなる。シャワーヘッドも金色でオサレだがカランは廉価版で、すぐ水道のミネラル分がこびりつく→硬くて回しづらくなる。金色のもそれほどいいメッキに見えないが、デザイン的にもこれでよかったのか??
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今までにも色々ここに書きたい不思議ちゃんはいっぱいあったんだが、まとめて書いたらえらい長くなってしまった。まぁ、記録なんでよかろう。あともう1点、仕上げの素材に関することがあるが、それについては改めて書く。