20日の朝日新聞に山田洋次さんが、『砂の器』を監督された野村芳太郎さんについて書かれていました。抜き書きしてみます。
慶応ボーイでシティボーイ、クールでドライな監督、僕はそんな野村さんが好きで、志願して野村組の助監督をつとめていたのです。
でも、なかなか目が出ず、辞めるなら今じゃないかと思っていたそうです。
チーフの助監督が「山田君は要領が悪くて役に立たない、(このまま映画の野村)組につけるのはやめましょう」と進言したことがあったらしい。それに対して野村さんは「山田君はちゃんと働いている、君には人を見る目がないんだ」ときびしく叱ったそうです。
その場に居合わせたスタッフからあとでその話を聞いた僕は、あのクールな野村さんがそんな優しいことを言ってくれたのかと胸がいっぱいになって、それならもう少し働いてみようと考え直したものです。
そして、山田洋次さんは喜劇の監督として存在感を高めていくのですが、野村監督と作風は違っていましたね。
脚本の勉強がしたいとお願いすると、伊東の旅館に一緒に缶詰めになってくれたり、行き詰って一晩中ビリヤードをしたりとか、いろいろと思い出深い監督さんだったそうです。
一緒に何かを作り出す経験を共有できたなんて、なかなかいい思い出です。もう、懐かしの蒲田のスタジオもないし、帰るところはあるんだろうかな。
いや、そんな思い出深いところを訪ねても、何も生まれてこないかもしれないな。ただの記憶だけで、今を生きる力になるんだろうか。