「二人で、夜上野を抜けて谷中へ下りる時だった。雨上がりで谷中の下は道が悪かった。博物館の前から話し続けて、あの橋の所まで来た時、君は僕のために泣いてくれた。(中略)君はなんだって、あの時僕のために泣いてくれたのだ。なんだって、僕のために三千代を周旋しようとちかったのだ。今日のようなことを引き起こすくらいなら、なぜあの時、ふんと言ったなり放っておいてくれなかったのだ」
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こんなツラを晒している? クセして、夏目漱石が好きだ。
すべての作家のなかで、最も敬愛している。信奉している。
ゆえに、紙幣のなかでも最も千円札を愛し、使用している・・・というのはちがうか、単に一葉や諭吉を持てぬ身分? であるというだけかもしれない。
自分の故郷は群馬の館林市。
毎年の7~8月、熊谷あたりと最高気温を競う「とことん」暑い地である。
実家は平屋で、近所と比すと、土地も家そのものも小さいほうだったと思う。
そんな小さな家の「とーちゃん」の小さな小さな部屋には、不釣合いなほど書物が置かれていた。書棚に並ぶというより、床に積み重ねられている感じ。
美保純のカレンダーが掛けられていた「とーちゃん」の部屋に忍び込んだ少年期の自分、目当ては『週刊宝石』などのヌードグラビアであったが、
「そこ」に辿り着くためには、数々の書物を「どかさなければ」ならなかった。
そうして手に取った書物のなかに、漱石の作品群があったわけ。
きっちりヌードグラビアを「盗み」つつ、漱石全集もまるごと「盗んで」やった。
教科書に載っている「超」有名作の全文はもちろん、随筆まで読み込む日々。
冒頭に引用したのは『それから』で、自分を「書く」世界へと導いたバイブルのような作品である。
代助と三千代、三千代の夫・平岡―簡単にいえば不倫、昔でいう姦通の物語だが、これほど切なくなる物語をほかに知らない。
高等遊民を気取っていた代助が、三千代との暮らしのために生まれて初めて働こうとする。そこで物語は終わるが、読者の誰もがふたりの将来に光が射さないことを知っている。
代助がきっちり労働出来るように思えないし、身体の悪い三千代は「すぐにでも」死んでしまいそう、、、だから。
10度以上読んだ『それから』―自分がモノカキを目指したのは、この小説を映画化してみたい、そう思ったから。
すでに天才モリタが映像化しているし、しかも驚くべきごとに成功作とはなっているが、自分ならこう描く、、、というビジョンがはっきりと頭のなかに浮かんでいたのである。
それを文字にするためには、映画の脚本の書きかたを学ばなければ―こうして、モノを書き始めた。
だがすぐに、自分の文章力の低さに眩暈を覚えるようになる。
こりゃいかん、書くことを継続させながら、いろんな書物に触れなくては・・・「とーちゃん」のコレクションは純文学から大衆文学、世界の名作までオールジャンルを網羅していたが、なぜだか純文学に魅了され、とくに川端康成や三島、そして中島敦を熱心に読み込むようになった。
現在、物語を中心にモノを読むことは少なくなった。
話題作や芥川・直木・谷崎賞を取った作品くらいは注目しているが、ノンフィクションやルポルタージュ、批評ばかりを読んでいる。
影響を受け易い人間だから、敢えて避けている、、、ところがあるのかもしれない。
けれども。
『それから』だけは特別な作品で、新作を読むことに疲れる? と、必ず手に取ってしまう。
というか、『それから』の文庫を何冊買ったか覚えていない。少なめに数えたとしても、15冊以上は買っている。
部屋を見回すと角川や新潮版の『それから』が4冊ほど確認出来るし、なにかというと、ひとに贈るからである。
自分にとって、『タクシードライバー』(76)と同じ効用? があるのかもしれない。
映画ではスコセッシと黒澤、
文学では漱石、
では、音楽となると誰を挙げるだろうか―。
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―たちまち赤い郵便筒が目についた。するとその赤い色がたちまち代助の頭の中に飛び込んで、くるくると回転しはじめた。傘屋の看板に、赤い蝙蝠傘を四つ重ねて高くつるしてあった。傘の色が、また代助の頭に飛び込んで、くるくると渦をまいた。四つ角に、大きい真っ赤な風船玉を売っているものがあった。電車が急に角を曲がるとき、風船玉は追っかけて来て、代助の頭に飛びついた。小包郵便を載せた赤い車がはっと電車とすれちがうとき、また代助の頭の中に吸い込まれた。煙草屋の暖簾が赤かった。電柱が赤かった。赤ペンキの看板がそれから、それへと続いた。しまいには世の中が真っ赤になった。そうして、代助の頭を中心としてくるりくるりと炎の息を吹いて回転した。代助は自分の頭が焼けつけるまで電車に乗って行こうと決心した。
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※『夢十夜』であれば、やはり第一夜が最もインパクトがある。
つづく。
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本館『「はったり」で、いこうぜ!!』
前ブログのコラムを完全保存『macky’s hole』
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明日のコラムは・・・
『音、学。→あーと。 ~自分を構成する「あらゆるヒト・モノ・コト」vol.14~』
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こんなツラを晒している? クセして、夏目漱石が好きだ。
すべての作家のなかで、最も敬愛している。信奉している。
ゆえに、紙幣のなかでも最も千円札を愛し、使用している・・・というのはちがうか、単に一葉や諭吉を持てぬ身分? であるというだけかもしれない。
自分の故郷は群馬の館林市。
毎年の7~8月、熊谷あたりと最高気温を競う「とことん」暑い地である。
実家は平屋で、近所と比すと、土地も家そのものも小さいほうだったと思う。
そんな小さな家の「とーちゃん」の小さな小さな部屋には、不釣合いなほど書物が置かれていた。書棚に並ぶというより、床に積み重ねられている感じ。
美保純のカレンダーが掛けられていた「とーちゃん」の部屋に忍び込んだ少年期の自分、目当ては『週刊宝石』などのヌードグラビアであったが、
「そこ」に辿り着くためには、数々の書物を「どかさなければ」ならなかった。
そうして手に取った書物のなかに、漱石の作品群があったわけ。
きっちりヌードグラビアを「盗み」つつ、漱石全集もまるごと「盗んで」やった。
教科書に載っている「超」有名作の全文はもちろん、随筆まで読み込む日々。
冒頭に引用したのは『それから』で、自分を「書く」世界へと導いたバイブルのような作品である。
代助と三千代、三千代の夫・平岡―簡単にいえば不倫、昔でいう姦通の物語だが、これほど切なくなる物語をほかに知らない。
高等遊民を気取っていた代助が、三千代との暮らしのために生まれて初めて働こうとする。そこで物語は終わるが、読者の誰もがふたりの将来に光が射さないことを知っている。
代助がきっちり労働出来るように思えないし、身体の悪い三千代は「すぐにでも」死んでしまいそう、、、だから。
10度以上読んだ『それから』―自分がモノカキを目指したのは、この小説を映画化してみたい、そう思ったから。
すでに天才モリタが映像化しているし、しかも驚くべきごとに成功作とはなっているが、自分ならこう描く、、、というビジョンがはっきりと頭のなかに浮かんでいたのである。
それを文字にするためには、映画の脚本の書きかたを学ばなければ―こうして、モノを書き始めた。
だがすぐに、自分の文章力の低さに眩暈を覚えるようになる。
こりゃいかん、書くことを継続させながら、いろんな書物に触れなくては・・・「とーちゃん」のコレクションは純文学から大衆文学、世界の名作までオールジャンルを網羅していたが、なぜだか純文学に魅了され、とくに川端康成や三島、そして中島敦を熱心に読み込むようになった。
現在、物語を中心にモノを読むことは少なくなった。
話題作や芥川・直木・谷崎賞を取った作品くらいは注目しているが、ノンフィクションやルポルタージュ、批評ばかりを読んでいる。
影響を受け易い人間だから、敢えて避けている、、、ところがあるのかもしれない。
けれども。
『それから』だけは特別な作品で、新作を読むことに疲れる? と、必ず手に取ってしまう。
というか、『それから』の文庫を何冊買ったか覚えていない。少なめに数えたとしても、15冊以上は買っている。
部屋を見回すと角川や新潮版の『それから』が4冊ほど確認出来るし、なにかというと、ひとに贈るからである。
自分にとって、『タクシードライバー』(76)と同じ効用? があるのかもしれない。
映画ではスコセッシと黒澤、
文学では漱石、
では、音楽となると誰を挙げるだろうか―。
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―たちまち赤い郵便筒が目についた。するとその赤い色がたちまち代助の頭の中に飛び込んで、くるくると回転しはじめた。傘屋の看板に、赤い蝙蝠傘を四つ重ねて高くつるしてあった。傘の色が、また代助の頭に飛び込んで、くるくると渦をまいた。四つ角に、大きい真っ赤な風船玉を売っているものがあった。電車が急に角を曲がるとき、風船玉は追っかけて来て、代助の頭に飛びついた。小包郵便を載せた赤い車がはっと電車とすれちがうとき、また代助の頭の中に吸い込まれた。煙草屋の暖簾が赤かった。電柱が赤かった。赤ペンキの看板がそれから、それへと続いた。しまいには世の中が真っ赤になった。そうして、代助の頭を中心としてくるりくるりと炎の息を吹いて回転した。代助は自分の頭が焼けつけるまで電車に乗って行こうと決心した。
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※『夢十夜』であれば、やはり第一夜が最もインパクトがある。
つづく。
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明日のコラムは・・・
『音、学。→あーと。 ~自分を構成する「あらゆるヒト・モノ・コト」vol.14~』